002 空
「ただいま〜。う〜、寒いーー。雪降ってるよ〜」
愛良が魔女の修業から帰ってきてリビングにかけん込んできた。
「お疲れ様、愛良。今お茶入れたところよ、ちょうどよかったわ」
紅茶の入ったポットをリビングのテーブルに置きながら蘭世は言った。

今日は日曜日、久々に家族4人顔をそろえている。
「はあ。あったまる。空は雲に覆われてね、どんよりしてるの。太陽が出てればもっとあったかいのにねー、早く青空が見たい・・・」
熱い紅茶に息を吹きかけながら愛良は言った。
(空ねぇ・・・)
何気なく愛良の話を聞いていた卓が、「空」と聞いて、幼い頃のある出来事を思い出していた。
「空って言えばさあ・・・」
卓が口を割った。
「愛良が生まれる前なんだけど、俺の前にさ、知らないどっかの姉ちゃんが突然現れて一緒に空飛んだことがあるんだ。」
「何それー、初耳」
愛良が答える。
「イヤ、俺も今思い出したんだけどさ。その姉ちゃんやったら親父の名前とかお袋のこととか聞くんだよ。悪いやつじゃないってのは勘でわかってたんだけど、今思えば変な女だったな〜って思ってさ」
その瞬間、キッチンでドンガラガッシャ〜ン!鍋がひっくり返される音がした。
「おかあさ〜ん、何やってるの〜?」
愛良がキッチンに向かって声をかけた。
「あっ・・・いや、手がすべっちゃって・・・やあね〜」
はははと蘭世は笑っている。

「それにしても誰だったんだろうね、その人。怪しくな〜い?で、どうなったの?」
「いや、それがさ、雪雲の上で遊んでたら、その姉ちゃん雲から落っこちやがって、俺助けたつもりだったんだけど、そのまま消えちゃったんだよな〜」
「消えた?う〜ん、お兄ちゃん夢でも見てたんじゃないのー?」
「そう!夢よ。夢に決まってるわ。卓!」
横から蘭世が口を挟んだ。
「夢じゃねえよ!あれは絶対現実だ!・・・でもその姉ちゃん、ちょっとお袋に似てたんだよな〜。もっと若かったけど」
ガッシャ〜ン!
蘭世が今度は紅茶をひっくり返した。
「あー、お母さん、さっきから何やってるのよ。変だよ?」
「い、いや〜ね、何でもないわよ〜」
黙って聞いていた俊が蘭世をじっと見る。
俊の視線に気づいた蘭世はさらに慌てている。
「さ、さあ〜、夕食の支度でもしよっかな〜。愛良手伝ってね」
そういって蘭世はそそくさとリビングを出て行った。
「変なお母さん!」愛良はつぶやいた。
「う〜ん」
卓は腕組みしたまま考えていた。


その夜、
「さっきの卓の話だが・・・」
先にベッドに入っていた俊が鏡台の前に座っていた蘭世に言った。
「あれ、お前のことだろ?」
蘭世が化粧水のびんを倒す。
「あわわわわ・・・、な、何?何のこと??」
「その慌てよう、怪しすぎるぞ。」
含み笑いで俊は蘭世に言う。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・はぁぁぁ。。。そう、きっとそうだわ。まさか卓が覚えてたなんて・・・」
降参したようにふふっと笑って蘭世は答えた。

「あなたと結婚する前よ。私、未来の扉を使って未来に行ったことがあるの。そのとき卓に会ったわ。私とあなたが将来どうなってるのか知りたくって・・・ふふ。ばかよね」
「それで?」
「未来の世界はすべてがその通りになるとは限らない半々の世界・・・。実際、卓に聞いても母親は誰かっていう真相はわからなかった。卓の父親はあなただってことは卓が教えてくれたんだけどね。」
蘭世は軽くウインクした。
「・・・・」
「でも、その後ね・・・・」
「その後?」
「私は、卓の母親は私だって確信したの」
「何で?」
遠い日を懐かしむように蘭世は目を潤ませて笑った。
「・・・あの日・・・・。卓が持ってたブローチ・・・。あの夜、あなたが私にくれたの。」
「・・・ああ、・・・あれか」
俊が照れたように鼻をかいた。
「卓がママからもらったって言ってた」
「・・・」
「私は未来に行ったことなんかすっかり忘れてあのブローチを卓にあげたんだけどね」
くすっと蘭世は笑ってにっこりした。
「偶然、それとも必然?よくはわからないけど、あなたと私と・・・・卓と愛良と・・・。運命の絆でつながってたんだとしたら、ロマンチックよね」
「・・・・運命か。」
「・・・なんてね」
「まっ!お前のやりそうなことだけどな。そんなこったろうと思ったよ」
「あはははは〜。でもあの子達には内緒にしてね。私がさんざん魔界の力を使って楽しんでたなんて知ったら、叱れなくなっちゃうもの」
「ああ、もちろんだ」
俊がピシャリという。
「自重しろよ」
「・・・・ハイ・・・」
「・・・だが、お前のハチャメチャな好奇心が愛良がそのまま受け継いでるからな。その方が心配だ」
「んもう!何よそれ〜」
俊をぶとうとした蘭世の手を俊はつかみぐいとひきよせる。「きゃっ」っと倒れた蘭世に俊はちゅっと口づけた。
「過去のお前に未来の扉で遊んだお仕置き!」
「んもう!」
二人の夜が更ける。外は雪もすっかりやみ、空にはオリオン座が輝いていた。

追記:
一方卓は
「そういえばあのとき現れた鳥がくしゃみしてあの女になった・・・くしゃみをして人間に戻る?
ってやっぱお袋なんじゃねえの?例えば過去から来たお袋とか・・・やりかねねえしな」
するどい推理を働かせていた。




あとがき

クリスマスの贈り物の話をあれは私だったのよと蘭世が子供達に伝えるというお話を何らかの形で
表現したいなとずっと思ってました。
無理矢理「空」につなげてます(汗)ほんと無理矢理でした(^^;
しかも子供達ではなく俊に伝えちゃってるし・・・。まっいっか。
あの話感動しませんでした?「ママがパパからもらった・・・」
いい響きですよね〜。うっとり。
あのころは卓もかわいかったんですけどね。(今もかっこいいけど)