013 唇













「あぁぁ・・・かったりぃ・・・」



俊はだるそうにそう漏らすとバタッと卓袱台にうつ伏した。

まだ5月だというのに、昼間の気温が高かったせいか日が落ちた今でも何だか蒸し暑い。



「明日は雨かなー」

俊はうちわでパタパタ扇ぎながら、勢いで閉じてしまった数Tの教科書を―――しかし、姿勢はそのままで―――

パラパラとめくった。

だが、特定のページを開くわけでもなく、教科書はすぐ元通りの閉じた状態に戻ってしまう。

同じ仕草を何度も繰り返す。



先日、中間テストの日程が発表され、部活も半強制的に中断状態。

しょうがなしにテスト勉強を始めてみるも、お勉強においてはさすがの俊の集中力もてんで続かない。

普段、授業中もここぞとばかり転寝をしているせいか、

テキストを眺めてみてもなんのことだかさっぱりお手上げ状態である。



「はぁぁ。クソッ。鈴世が同じ年だったらなぁ・・・」

意味のない願望を口にしながら俊はため息をつく。

俊はパタッと動きを止めて目だけを隣に座っている蘭世の方に向けた。



蘭世はいつになく真剣な眼差しでじっと教科書を見つめていた。

「どうしたんだ?お前。珍しく真剣だな」

頬杖をつきながら俊は蘭世を見る。

「やばいの、私。留年なんかしちゃったらお母さんにどんな目に合わされるか・・・」

蘭世は教科書から目を離すことなくというよりかなりより目にして言った。

「おフクロさん?」

俊は頭の中に蘭世の母椎羅の、耳だか角だかわからない何かが生え、

目が三角になっている顔を思い出してぷっと吹き出した。



「真壁くん!笑い事じゃないのよ!ずっと学校行ってなかったから忘れてたけど、

中学の時だってホントひどかったんだからー。

はりきって高校に来たのはいいけど、テストがあることなんて忘れてたわ・・・」

蘭世は一気に気落ちしたようにパタッとノートに向かって倒れこんだ。

「(お前がバカなのは)今に始まったことじゃねえんだし、そんな焦んなくてもいいんじゃねえの?」

「何よぉ。真壁くんだってお互い様じゃないのよぉ」

蘭世は口を膨らませて俊を上目遣いに睨む。



ふくれっつらの蘭世はこどもっぽいくせに

グロスのつけた唇だけは妙に艶やかで俊の心臓はドクンと響く。

(とてもそんなムードじゃねえけど・・・)

それでも一度傾いてしまった思考はもう止まる術を知らず、

俊はそっと蘭世に近づいてそのままその潤う唇にそっとキスを落とした。

突然の出来事に蘭世は目をパチパチっと瞬かせたが、はっと我に返るとその先に

ニヤッと悪戯っぽく笑っている俊の顔がそこにあった。

「も、もう!真壁くんったら何よ!急に!勉強中なんだよ!」

顔を真っ赤にさせながら蘭世はさらに俊を睨んだ。

「勉強なんて飽きたし」

「あ、飽きたからって・・・い、いきなり・・・
キスすること・・・ないでしょ・・・」

「イヤか?」

口を綻ばせながら言う俊に蘭世はドキドキしたまま固まってしまう。

「い、イヤじゃないけど・・・最近、真壁くん・・・積極的だね・・・」

こんな蘭世を見ていると可愛らしく思える。子どもなんだか何なんだか。

「お前が隙だらけなんだよ」

「ス、スキ!?」

「ば、ばかっ!違う!隙!」

「な、何よぉ、そんな否定しなくたって・・・」

蘭世はまた頬を膨らませる。

そんな姿がやっぱり可愛らしくて、俊は結局その潤う唇に引っ張られるように

もう一度唇を落とした。

今度は蘭世もそっと目を閉じる。

机に載せていた蘭世の手がはらりと床に落ち、それと同時にテキストもバタッとなだれ落ちた。



その後、椎羅の鬼形相に蘭世が追い回されたのは言うまでもない。









あとがき

突然思い立って書き上げたので短いし、文章と言えるほどでもないですが、
やっぱ100題をクリアするにはこれぐらいの量でないとやってけないかな・・・??^^;(と言い訳)
なんて浅はかな王子と蘭世タンとそして唇と聞いてすぐ結びつけたkau。。。

こんなの王子じゃないけど・・・(妙に軽い・・・^^;)
もし1巻の王子のノリが続いていればありうる??(無理やりすぎだな・・・)
次回頑張ります。








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