015 演技
ジャブ、フック、ストレート!」
なれないパンチを宙に放つ蘭世の後ろから、お下げをひっぱるものがあり。
グィ!
「へたくそ!」
ぺっと舌を出しウィンクしながら俊が走り去った。
「んもう!」
引っ張られた蘭世も俊のちょっとしたいたずらにぷっとふくれながらもちょっとうれしかったりする。
そんな蘭世に災難が訪れる。
むぎゅぅ〜!
「ええい、へたくそめ、へたくそめ」
蘭世の天敵(ライバル)曜子のお出ましである。
「待ってぇ〜俊〜♪」
曜子も俊を追って走り去る。
「ひ、ひどい」
首を絞められた蘭世は半泣きだ。
「まるで変わってないのね、あの関係・・・」
一部始終を教室から見ていた楓があきれ顔でため息をついた。

蘭世、曜子、そして俊。3人のトライアングル。
周りから見ればそれはいつでもいつまでも変わらない関係。
しかし、ただその関係が水面下で少しずつ変化しているのを、
蘭世も俊も、そして曜子も気づいている。


俊は蘭世をスキなのかもしれない。
いつの頃だったか曜子の心にはそういう一抹の不安が募りだした。
そして不安はいつしか確信に変わった。
俊は蘭世をスキだ。

蘭世を見る瞳、蘭世に触れる指、蘭世と話す口、蘭世の声を聞く耳・・・。
俊の全てが蘭世をスキって言ってる。
好きな人の心なんて痛いほどわかる。
わかってしまうからツライ。

でも私はそれに敢えて気づいていないふりをする。
二人が言わないなら私も聞かない。
二人が気づかせようとしないなら私も気づこうとしない。
二人がこの関係を崩そうとしないなら私も崩さない。
いつか二人はイヤでも私に気づかせるだろう。それもわかる。
だから、それまでは気づいていない演技をする。
俊がスキ。
でも蘭世もホントはスキ。
二人とも
大切だから、困らせたくないから・・・。
傷つきたくないから、傷つかせたくないから・・・。
私は敢えて演技をするの。
むなしいかもしれない。
でも今はそうすることしかできない。わかっていても俊がスキ。
そして私は今日も俊を追いかける。
蘭世も俊を追いかける。
俊は二人の騒動から逃げる。
いつもの関係を崩さない。
そのときがくるまで。
身をひけるぐらい強くなれるまで。
ずっと演じきってみせる・・・。
それが私が持つ唯一の強さ。
そのときまで覚悟しなさいよ!
蘭世、そして俊・・・。



あとがき

曜子さんの一人称Ver.です。
曜子さんって強い女性ですよね。
蘭世も強いですけど、違った強さ。
俊を追いかけるパワーによく元気づけられたものです。
正直ツライ役回りですけど、力と出会えてよかったなと思いました。