017 負担
「何?け、結婚ーーーーっ!?ダメだダメだ!
ぜーーったいダ・メ・だっ!!」
「ちょっとパパ!ちゃんと聞いてよ!」
「そうですわよ、あなた。落ち着きになって。」
「ダ・メ・だーーっ!!」
そう怒鳴り散らして魔界の王はプイッと客間を出て行ってしまった。
「もう!パパったら。頭ごなしに・・・」
ココは一つため息をもらして言った。
「いや、でも突然だったし、おじさんが叔父さんが怒るのも無理ないよ。」
卓はそう言って怒るココをなだめた。

先日、ココの妊娠が発覚し、結婚を決めた二人は今日、ココの両親にその許しを得るために魔界城を訪れていた。
ココも、最近はずっと人間界で卓と一緒に暮らしていたのもあり、この城に戻るのも、両親に会うのも久々だった。
久々に帰ってきて、突然、妊娠しただの、結婚するだの・・・父が怒るのも無理はないとは分かっていたのだが、いざ、ろくに話も聞かないで出て行ってしまった父にココは苛立ちを隠せないでいた。


(せっかく卓も来てくれたっていうのに・・・)


卓は現在大学4年生。大手の広告会社内定も決まり、来年の春には大学も卒業し、新たな一歩を歩み始める。
大切な時期に妊娠をしてしまって、ココはその事実をどう伝えればよいものかと不安を抱えながら悩んでいたが、卓は何の躊躇もなく快く結婚しようと言ってくれた。


だが、自分は仮にも魔界の王女。自分自身は卓と人間界で一緒にいることでそんな肩書きをどうこう気にすることもなくなったが、まわりはそう簡単に手放してくれない。
魔界では一人の女としてよりもどうしても魔界の王女。現王の娘としての視線の方が一層強い。


ココは自分の人生を、これから新しく始まる卓の人生にあずけてしまうというだけでなく、そういったしがらみも全て卓の負担になってしまわないかと不安を振り払うことができずにいた。


せめて両親が快く受け入れてくれればと期待してきたものの、結果は見事にこの事態。
ここはひときわ大きくもう一度ため息をついた。


ココの様子を隣で見ていた宅はココの頭をぽんぽんと軽く叩いて言った。
「そう落ち込むなって。予想はしていたことだし、また改めようぜ。ちゃんと俺が話すから」
「でもっ!」
「いいから。大丈夫だって。」
卓はにこっと微笑んだ。


ココはこういった卓の頼もしさにいつも守られてきた。
5つも下だとは決して思わせない毅然とした態度。落ち着いたやさしさについつい甘えてしまう。
だがその甘えも全て卓への負担につながるのではないかとココの不安は悪循環のように大きく膨れ上がってきた。


「ココ、卓くんの言うとおり。大丈夫よ。お父様は淋しいだけなのよ。落ち着けば話だって聞いてくださるし、お許しもしてくださるわ。あなたももうあなただけの体じゃないんだから、そんなに興奮しないで大事になさい。ため息ばかりついていては体によくありませんよ。」
フィラはそういって温かく娘を励ました。
「ママ・・・」




                   ***********




魔界を後にして、2人は人間界の自宅に戻ってきた。
卓はジャケットを脱ぎっぱなしてソファーにどさっと座り込んだ。
「はー、疲れた。やっぱり緊張するもんだなー。挨拶って・・・。面接よりきついぜ」
そういって卓は大きくのびをした。


「・・・ごめんね。卓・・・」
「は?何が?」
「パパったら、あんな風に・・・」
「だから気にすんなって」
「でも!卓の伯父さまも伯母さまもちゃんと聞いてよろこんでくれたのに・・・」
「うちは息子だからだよ。一緒にも住んでたし、今だって近くだしさ。だけどココは違うだろ?ずっと人間界に来たままだし、それにやっぱ娘が嫁に行くってのは父親は淋しいんじゃねえの?アロン叔父さんは特にココがかわいいからな〜」
「だけど・・・」
「うちの親父だって、愛良が嫁に行くとかになるとぜーーーったい不機嫌になるぜ。まああの人はアロン叔父さんとは逆に黙りこむタイプだけどな。双子なのに全然違うよな〜」
卓はそういってケラケラと笑った。


ココは何も言えずにしゃんと沈んでいた。
「んだよー、暗えな。大丈夫だって。」
「でも、私・・・不安なの」
「だから何が」
「それでなくても卓がこれから新しく生きていこうとしてる時に、妊娠なんかしちゃって、結婚するとかになっちゃったのに、その上パパがあんなので・・・それに周りは王女が人間界で住むこととかもなんだかんだとうるさいし。。。」
「・・・・・・」
卓は黙っている。
「こんないろんなことが卓の負担になっちゃうのが、とても怖いのよ!」
「・・・お前は・・・」
ふうとため息をついて卓が言った。
「お前は結婚するのが嫌なのか?子供ができたのが嫌なのか?」
ココは卓を見た。
怒っている・・・ココはどきりとした。
「そ、そんなことない!」
「俺は・・・、俺は・・・うれしかったよ。そりゃ、聞いたときはさすがにびっくりしたよ。俺がお前を養って、子供を育てていけるのかどうかも不安になった。でも何よりお前のおなかに俺の子供がいる、俺の子供がお前の中で生きてるって思ったらすげーうれしかった。
お前が側にいてくれて、丈夫な子供産んでくれるなら、俺は何だってする。叔父さんにだって許してもらうまで何度でも魔界に行くよ。お前は何の心配もしなくていい。笑って側にいてくれるだけどいいんだ。
それとも俺はそんなに頼りねえか?そんなこと負担に感じるほどちっぽけな男だと思うのかよ!」

ココはあふれる涙を押さえきれずにうつむきながら首を振った。
「それにお前忘れてそうだけど、俺はこう見えても魔界の元王子の息子だぜ。俺ほどお前にぴったりの男はいねえだろ?」
そういって卓はウインクしながらまたココの頭をぽんぽんと叩いた。
「卓・・・ありがとう・・・」
ココは涙を拭きながら卓に向かって微笑んだ。
「明日、もう一度魔界に行こうぜ」
「・・・うん♪」




                   ***********




一方、魔界では2人の様子をアロンが池に映して見ていた。
「くすくす。何を見てらっしゃるの?」
フィラがアロンの様子に気づき笑いながら声をかけた。
「な、何でもない!」
そういってアロンは魔力でぱっと池の水面を元通りに戻した。

「あなた、お気持ちはわかりますわよ。わたくしだってココの母親ですから、手元からココが離れていってしまいそうで淋しいですわ。ですけど、親として一番うれしいのはココが幸せになってくれることではなくて?
卓くんなら十分ココを幸せにしてくださいますわ。」
フィラの言葉を黙って聞いていたアロンははぁと息をもらして天井を見上げた。
「・・・ああ、わかっているよ。・・・卓なら大丈夫だ。あいつは俊に似て頼りになる男だし、蘭世ちゃんににて優しいやつだ。あいつ以上のやつは魔界にもいるはずがない。
わかってはいるのだが・・・娘を持つ父親っていうのはどの世界でも同じものなのかな。・・・」
そういってアロンは淋しく笑った。
「そうだ!卓を養子にして、こっちに住まわせるってのはどうかな♪」
「もう、あなた!」
「ははは、冗談だよ。俊の息子だ。絶対いやがるだろうな。
はあ、明日も来るって言ってたな〜。明日は話ぐらい聞いてやるかな・・・」
魔界の王と王妃は、今は娘を持つ普通の父と母の顔に戻って微笑みあった。



あとがき

初めての卓×ココ、そしてアロン×フィラ(ちょこっと)でした。
難しかった。
いまいち、卓もココも性格付けが私の中でできていないもので・・・(^^;
しかもいろんなテーマがごっちゃになってしまいました。
でもココって人間界にきてばっかりでいいのかな〜と原作を読みながらずっと思っておりました。
だって、アロンが寂しがってるんじゃないの〜〜?と余計な心配をしていたもので。
でも、アロンも大人になったよな〜。どうしようもない悪ガキ王子だったのににゃ。
ときめきの登場人物はみんないい人だ〜〜♪

ひとつ疑問に思ってましたが、なぜアロンは魔界の大王じゃなくて王様なんだろう・・・。レドルフさまは大王だったのに。素朴な疑問・・・。