023 潤う
午後からの授業が始まっていた。
俊は昼休みから学校の屋上で一人たたずんでいた。

「・・・っつ!!」
今朝、高校生に殴られたところがズキッと痛む。
「ちくしょー、思いっきり殴りやがって・・・」
頭を押さえながら俊は空を見上げた。


あの時そばにいた蘭世のことを俊は何気に思い出していた。

”本音で接してほしい・・・”
あんなこと言う女、ほかにいねえよな。


ぶっきらぼうで、口が悪くて、ケンカっ早くて、ほかの奴らも近寄ろうとしなかった俺を
あいつは出会ったころから怖がりもせずまっすぐ俺の心に入ってきた。


”・・・一緒に泣こ・・・”
ばかじゃねえの?あいつ・・・

思わず吹き出したわけは、一瞬ホントに涙が出そうになったから・・・
この俺が泣く?
あいつの言ったことも、それにつられそうになった俺自身も何もかもおかしかった。
何なんだ、いったい・・・。


ただ、そんなあいつを俺は嫌いではない・・・。

最初はうっとうしく感じることもあったが、
いつからだろう・・・。
あいつの俺を呼ぶ声が妙に心地よく感じるようになったのは・・・。
この俺があいつに振り回される・・・。
だが、それをイヤだとは思わない。
なぜ・・・?

クリスマスにうちに来てくれというあいつの頼みに何故か
俺は素直にうなずくことができた。
・・・一緒にいたい?・・・


ボクシングとケンカしかなかったカラッカラの俺の心に
あいつはまっすぐに入ってきて潤した。

もしかして俺は・・・あいつのことを・・・?

あー、がらじゃねえ。
ブルッと身震いをして立ち上がる。
どうかしてるぜ。この俺が・・・。だけど・・・。
潤された俺の心は
確かに・・・
まっすぐ向かい始めた・・・。




あとがき

魔界人に生まれ変わる直前の俊の心でした。
俊はいつから蘭世を好きになっていたのか・・・?
私はかなり早い段階で気になっていたと思います。
俊が自分で気づいていないだけで・・・くくく。

書きながら思い出していたんですけど、
俊は一度人間として死ぬんですよね。
原因は、高校生にあのカンで殴られたせいですよね〜。
あいつ、殺人じゃ〜ん!と少女漫画らしくないことを
思いついてしまったkauranでした。^^;