024 くだらない
今日の昼休みにクラスメイトが放った他愛もない言葉を蘭世は部活中もずっと引きずっていた。
”江藤さんと真壁くんって付き合ってるの?”
別に悪意があったわけではない。
ただ、何げに投げかけられたその言葉は蘭世にとって深く心に響いていた。
自信を持って「うん」といえない自分がいる。

(どうして聞かれちゃうのかな?)

まだ暗黙の了解の域には達していないという不安が蘭世を襲うのだ。

ずっと一緒にいる。
運命の二人だと言われたりもした。
確かに必要だとも言われたし、幸せにするとも言ってくれた。
だが、今の状況が世間一般に言う付き合っているとか、彼氏だとか、そう言う言葉に当てはまっているのか確信が持てないでいた。

(つきあってるのかといわれても・・・つきあってるのかな・・・?)
つきあおうといわれたわけじゃないし、まして好きだなんて告白、一度もきいたことないしなあ・・・。
人前でいちゃいちゃなんてもってのほかよね。
真壁くんのファンも相変わらず多いしなあ・・・。)

部室の窓には俊を見るために集まった女の子達がべったりと張り付いていた。
はあーーっと深いため息をついて蘭世はベンチにどさっと腰をかけた。




「早くしねえとおいてくぞ」
練習が終わってもまだぼーっとしている蘭世に俊が声をかけた。
「あっ、うん。ごめん」
「・・・」
帰り道も気分は沈んだまま、盛り上がらない。
前方では曜子と日野がなにやら口論を続けている。
「おとないしいんだな。今日は」
俊が隣で声をかける。
「えっ?そ、そうかな」
「どうかしたのか?腹でもこわしたとか」
「ち、違うもん!私だって考え事ぐらいします」
「何を?」
「何をって・・・いろいろよ」
「何だよ、言えよ」
「・・・」
「・・・?」
「聞こえてるんでしょ?」
「読んでねえよ。怒るだろ?」
「・・・」
「・・・何だよ」
「あのさ、わ、私たちってさあ・・・そのつ、つきあってるの?」
「はあ?」
「付き合ってるの?
「ば、ばか。何言って・・・///」
真っ赤になって俊は顔を背けた。
「だって、付き合おうとか好きだとか言われてないもん。ふつうはそこから始まるでしょ?
「ふつうって何だよ。そ、そんなことどうでもいいじゃねえか」
「よくないよ!」
天上界で言ったこと忘れたのか?」
「そうじゃないけど・・・」
「じゃあ、それでいいじゃねえか。そんなことで。。。くだらねえな!」
「くだらないって何よ!」
「・・・!?」
蘭世の突然の大声に俊もひるみ、あたりも静まりかえる。
「くだらなくなんかないもん!真壁くんのばか!」
そう言い捨てて、蘭世は走り去った。
曜子も日野も、そして俊もその場に立ちつくしていた。

(どういろってんだよ。この俺に・・・)
後味の悪い空気をかみしめながら俊はとりあえず、江藤家の方へ進んでいた。
(あいつがあそこまで怒るなんて・・・。そんなに気にしてるのか・・・?)
先ほどの光景を俊は思い出していた。
時々感情的に訴える蘭世の意志を俊はいつも受けきれずにいる。
どう、自分が感情を表せばいいのかわからないのだ。
それがさらに蘭世を傷つけてしまうらしい。
(どこまでも不器用だな・・・俺は)
”時には言葉で気持ちを伝えるのも大事なんじゃねえの?”
先ほど日野が別れ際に俊の肩をぽんとたたきながらそう言っていたのを俊は思い出した。
(言葉でねえ・・・できるものならとっくにやってんだがな・・・)
俊はすでに江藤宅の門の前に到着していた。
ふうと息をついて俊はチャイムを鳴らす。
「あら、真壁くん」
椎羅が顔を出す。
「どうも・・・江藤は・・・」
「あら?今日は一緒じゃないの?蘭世まだ戻ってないけど・・・」
「えっ?あ・・・そうですか。じゃあ、いいです。失礼します」
江藤家を後にして俊は道に出た。
「あのやろう・・・どこいきやがった・・・」
俊は目をつぶり蘭世の行方を力で捜す。
(公園か・・・)
俊は駆けだした。

「あ〜あ・・・どなっちゃった・・・」
蘭世は公園のブランコに腰をかけ、ゆらゆらゆらしながら後悔の念を押さえられずにいた。
「真壁くん、あきれちゃっただろうな・・・。こんなちっぽけなことで、あたりちらしちゃって・・・。
蘭世のばかばか・・・もう!」
気持ちを抑えられずに、ブランコをいきおいよくこいで、蘭世はローファーをえいっと足から
投げ飛ばした。

パシッ
靴は地面には落ちずに目の前の手のひらに吸い寄せられていった。
「狙ったのか?」
「ま、真壁くん」
俊が力で蘭世のローファーを手元に引き寄せたのだった。
「あ、あの・・・・」
「・・・」
「さっきはごめんなさい。取り乱しちゃった・・・」
「・・・」
「怒ってる?・・・」
上目遣いに蘭世は俊を見る。
「・・・いや」
「ほんと?」
「ああ」
「ごめんね・・・私どうかしてた。友達に真壁くんとつきあってるのかって聞かれちゃって・・・
つきあってるのかな〜?どうなのかな〜って。。。あははは。ほんとちっちゃなことよね。」
目に涙がこみ上げてくるのを蘭世はぐっと我慢した。
(だめよ。ここで泣いたら・・・。さっきのくりかえしじゃないの・・・)
「・・・なあ、江藤」
「・・・えっ?」
「さっきは・・・その・・・悪かったな・・・くだらないなんていったりして・・・」
「・・・あ、う、ううん。真壁くんは悪くないの。私がやつあたりしただけで・・・」
「おまえが・・・そんなに気にしてるとは思ってなくて・・・ごめんな。お前の気持ち、俺気づいてやれなくてさ・・・」
「そ、そんなこと・・・」
「なんか、お前が急にあんなこと言い出すもんだから、、、その、なんつーか、つい・・・」
「・・・」
「ただ・・・お前との関係を俺は、その、、、付き合ってるとか付き合ってないとか・・・
そんな単純な言い方で片づけたくないっていうか・・・///」
「えっ?」
「いや、その・・・お、お前もわかるだろっ!?これだけ一緒にいるんだから!!そんなことで
くよくよ悩むんじゃねえ!お前の悪い癖だ!!」
「・・・は、はいっ!」
「・・・自信、もっていいからさ・・・今度聞かれたら、そうだって答えろよ・・・」
「えっ?今なんて?」
「ば、ばかやろう!俺は二度は言わねえんだよ!!知ってるだろ!!」
「・・・は、はいっ」
「ったく・・・帰るぞ」
「・・・うん♪」
蘭世の目からこらえていた涙がはらはらと流れ落ちたが蘭世はしゅっとふきとった。
「あ、真壁くん・・・靴返して・・・」
我に返って蘭世は自分の靴が片方ないことを思い出した。
「ふっ、罰だ!ここまで取りに来い!」
俊はスタスタとブランコから離れていく。
「あっ、ちょっと真壁くん!待ってよぉ・・・」
二人の顔に笑みが戻る・・・。
夕焼けが二人を暖かく見守っていた・・・。




あとがき

最近のうちの真壁くんはやたらとおしゃべり・・・^^;
しゃべりすぎだな〜とわかっていながらも書き出すと止まらないのでしゃべらせ続けてます(笑)

男の子と女の子の考え方にはやっぱり大きな違いってありますよね。
大切に思うものが違うというか・・・。
たぶん、いつの時代もいくつになってもきっと変わらないんじゃないかなと思います。
おそらく、ときめきの世界でも・・・。
蘭世がこんなことで悩むことが果たしてあるのだろうか・・・という疑問はここではおいておきましょう・・
実際にはあんまり気にしない性格だとは思いますね。
蘭世は真壁くんを信じ切ってますから。。。