025 一人の夜










抱きしめた感触がまだ腕に、手のひらに、そしてこの胸にじんわりと残っていた。

夜風に乗って鼻を掠めたアイツの匂いもまだこの身にとどまっているように思うくらいアイツの存在がここにある。





別れを告げてからたった1週間ほどたったのに、

もっともっと長い間ずっと会っていなかったような気がしていた。



手放したことを後悔しないように、どんなに必死にバイトに打ち込んでも、

どんなに体が疲れても、俺の手はずっとアイツを求めたままで

夜中に何度も目を覚ました。



心が鷲づかみされるようなとびきりの笑顔と

何か物憂げな切ない笑顔と

泣きながら見つめるまっすぐな瞳と

少し目をそらした泣きはらした眼と



そんないろんな表情のアイツが順番に頭の中で入れ替わる。




電気もつけずに仰向けに寝転がって

真っ暗な天井を見つめる。

目を閉じるても浮かぶ姿を思い出すたび胸が締め付けられて

息ができなくなる。

自分で蒔いた種なのにと苦笑してフッと息をもらした。

そして俺はそっと瞼の上に腕を乗せる。

失ってしまったモノは

王子としてのチカラよりももっと大きかった・・・




***   ***   ***






アイツの作った弁当が目の前にある。

俺は食卓の上に載せたそれを頬杖をついて見つめる。



昨日までとは違う、冷めているはずなのに温かい。



アイツの想いが詰まった弁当。

昨日までこっそり届けられていた弁当は

どことなく淋しげで、それを受ける俺も指が震えて



それが、今日はどうだろう。

想いが通じ合うだけで

同じような弁当がこんなにも幸せそうにそこにある。





想いが通じ合うということは・・・・・





俺はハンカチーフに包まれたその弁当にそっと手を当てて

もう片方の腕で頭を抱えた。

言葉にできなかった気持ちは

この俺を感情に走らせて

心の奥からこみ上げてくる何かを受け止めることができずに

涙へと変わった。



どうしてもさせたくなかった「人間」にアイツはなってしまったのに

勝手だけどどこかホッとしている自分がいた。

これで向き合える。

堂々と。

ホントはずっと心のどこかで願っていたのかもしれない。





俺は今日も仰向けに寝転んで、薄暗い天井を眺めた。

この前の夜も一人だった。

そして今夜も一人。

でもこの気持ちの違いはどうだ。

自分でも驚くぐらい心が軽く、まるで魔力が戻ったかのような錯覚さえ起こすほど

体中にチカラがみなぎっていた。

愛する者が側にいてくれるということはいったいどれほどのチカラを発揮するのだろう。

アイツの気持ちが今になって初めてわかった気がする。





手を伸ばしてアイツの残像を掴む。

手ごたえを感じる。

俺は深く息をついた。

そしてその姿を今度こそ失わないように

瞳を閉じて瞼の奥にくっきりと焼き付けた。









あとがき

ムムム。久しぶりの王子の一人語り。
しかも超女々し〜〜^^;
でもkauはどうもこんな語りが好きみたいです。
同じような内容の作品もありますが、
その点は目を瞑ってもらって・・・m(_ _;)m

一応場面はコミックス14巻
「俺にはお前は必要だということは・・・」の一連の後、俊のアパートで
ってところです。

しかも、これ結構時間かかったんですが、
そのわりには出来上がりは短いでつね・・・--;

もうすぐ王子の誕生日でつが、
特に誕生日記念って作品には決してなってませんね^^;(したら王子に怒られるわ・・・笑)








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