026 何をしてるの?
「それじゃ、真壁くん、明日待ってるね」
「ああ、気をつけろよ」
「うん、じゃあね」
そういって蘭世はアパートのドアを閉めてカンカンとミュールの靴音を軽やかに鳴らし
階段を降りていった。

俊は蘭世が角を曲がって去っていくのを力で確認すると
押入れの中に隠してあった小さな袋を取り出し、食卓の上に乗せた。


俊はふーっと一息ついて、目の前の小さな袋を見据え、あぐらをかいて座った。
明日は蘭世との久々のデート。
うきうきしながら帰っていった蘭世とは反対に、
俊はさえない気分でもう一度ため息をついた。
デートが別に億劫なわけではない。むしろ俊だって楽しみにしている。
ただただ、俊は緊張というものに襲われていたのだった。


この日にしようと決めたのは1ヶ月も前のことだった。
明日は蘭世の誕生日。
毎年二人で過ごしてきた誕生日。
明日も例年同様、二人で祝う予定だ。
だが、もうひとつ、俊はあることを決意していた。



”今度の蘭世の誕生日に、プロポーズをする。”



この日のために指輪も買った。
目の前においてある小袋がそれだ。


さてどうやって切り出そうか・・・。
決意はしたものの、なにぶん、人一倍照れ屋で言葉にするのが苦手な俊だ。
この指輪をどうやって、どう言って渡せばいいものか・・・。
考えれば考えるほど恥ずかしくて、
結局、前日の今日になっても決められずにいた。


不器用なら不器用らしく、適当に言えばいいものを、ある意味妙に完璧主義な俊。
蘭世だけには格好わるいところは見せられない。


ボクシングバックを食卓の向こう側に立て、蘭世に見立て、ゴホンとひとつ
咳払いをする。
「け、結婚しよう・・・」
言った直後に真っ赤になる俊。。。
気を取り直して・・・
「い、一緒に暮らさないか・・・・・・あ”−違うー!!」
頭をかきむしる俊。
「そ、そろそろ・・・・・・!!そろそろって何だよ!!」
自分に突っ込んではあーっと大きくため息。。。

俊はばたっと仰向けに寝転がった。
しばし、考えを思い巡らす。
語彙の少ない自分に腹立たしく思いながらも一生懸命考える。

「あっ、そうだ。顔を見るから照れるんじゃねえか。・・・ここは、ぎゅっと抱きしめて・・・」
ばっと起き上がって、俊はバッグのそばまで移動して一息ついた。


「よし・・・」
一言、気合を入れて、がばっとバッグを抱きしめる。
「愛してる・・・!!・・・蘭世・・・」

俊がそういったのと同時に背後で部屋のドアがバンッと開けられた。
「ごっめ〜ん、忘れ物しちゃ・・・っ・・・た・・・」
バッグを抱きしめたまま俊は固まる。
ゆっくりと振り向くと、
帰ったはずの蘭世が、これまたドアを開けはなした状態のまま
目をぱちくりとさせて、見たこともない俊の姿に呆然としていた。

「え・・・江藤・・・?」
「・・・真壁くん・・・何、してるの?」
しばしの沈黙があたりに流れる・・・。

我に返った俊がこれ以上ないぐらいにまで顔を青ざめさせたかと思うと
とたんにみるみるうちに顔を赤らめた。
「ば、///、な、何でもねえよっ!!!」
「な、何でもないって・・・」
「うるせ〜〜〜〜」


あまりの俊の剣幕に身の危険を本能的に感じて蘭世はアパートを飛び出る・・・。
「あ〜、びっくりしたぁ・・・でも、なんだったんだろ?今の・・・」
幸か不幸か、鈍感な蘭世には俊のおかしな行動にわけがわからず、
俊の思惑に気づかずに、首をかしげたまま、来た道を戻っていった。


次の日のデートがどうなったかは・・・??





あとがき

バカ?俊がバカなのか、書いた私がバカなのか・・・(笑)
シリアスにするつもりだったのに、書いてたら可笑しくなってきて、
このざまです・・・。まあ、いっか。(でた!口癖)
でもかわいいでしょ?(誘導尋問・・・^^;)

あまりにも俊がかわいそうになってきて、それから先は
書けませんでした。(汗)
ご想像で楽しんでくださいませ。