031 夢から覚めても
”行かないで 真壁くん!蘭世もそこにいきます!”
蘭世は暗闇の中、突然目覚める。汗をびっしょりかいていた。大きな瞳からは涙が流れていた。

夢を見ていた。
俊が蘭世に別れを告げてアロンとの家を出て行ったあの日の夢。
泣き明かした夜、泣きはらした瞳、生きていられないとも思った。助けて欲しかった。
あの出来事は幸せが戻った今になっても蘭世にとってはどうしても忘れることができなかった。
思い出すだけで胸が痛む。

「はあ・・・またあのときの夢・・・」
ふと隣を見ると俊が眠っている。
(馬鹿な蘭世。大丈夫よ。こんなにそばにいるじゃない。こんなにそばにいてくれてるじゃないの)
心の中で自分にそう言い聞かせながら水を飲むためにベッドを出た。
グラス1杯の水を飲んで蘭世は一息ついた。
あのときの痛みはもうきえないのかな・・・

だめね。真壁くんを信じていない証拠だね。あのとき言ってくれたもの。幸せにしてみせるって・・・。
そうよ。幸せすぎるから贅沢なことを考えてしまうのよ。私の悪いくせだわ。
パンパンとほっぺをたたいて俊の眠る布団に戻る。
俊は目を開いて近づいてくる蘭世を見ていた。

「あっ、起こしちゃった?ごめんね」
「・・・・・・いや・・・」
「寝よ。」
にっこり微笑んでそそくさと布団に入り、俊の胸に寄り添う。
俊も蘭世の細い肩に腕を回して抱きしめた。
「・・・・・・ゴメン」
俊が一言つぶやく。
「・・・え?どうしてあやまるの?」蘭世は泣きそうになるのをこらえて笑顔を見せる。
「・・・。言っただろ?天上界で。あの言葉に嘘はないから・・・」
「・・・・!!・・・うん。」
蘭世が瞳をふせて頷く。
「ずっとここにいてくれる?」
「・・・しょうがねえからな。ほかにいくとこもねえしな。寝るぞ」
俊はぽんぽんと蘭世の頭を軽くたたいた。
蘭世は流れた涙を一拭きして
「うん」と答えた。
もう悲しい涙は流さない。
待っているのは幸せな涙だけ・・・・


あとがき

蘭世が俊に「別れよう」と言われたシーン。
二人の想いが通じたあとはもうそれっきり蘭世は振り返ることはなかったですけど、
実際の人の心というのはそんな簡単にはわりきれないんじゃないかなと思ってました。
心に受けた傷って結構引きずりますよね。その人を愛していれば愛していた分だけ。
あれほど俊を愛していた蘭世のことですから受けたショックというのははかりきれないものだと思います。
まあ蘭世というのは見返りの愛を求めない人ですから、俊の愛を疑うとか過去を振り返るとか
そんな行為は決してしないし、また似合わないんですけど、
もし私が蘭世だったら、俊はまた何かの拍子に別れるっていうんじゃないか、どこかに行ってしまうんじゃないかとず〜〜〜〜っと疑って生きていきそうな気がします。(笑)
そんな女は真壁くんもイヤでしょうけど(^^;)