032 フェンスの向こう
授業が終わって各部活動が始まる。
テニス部の私は今日も即行でテニスコートに向かう。
周りの友達もあきれるぐらい、一番乗りにコートにつく。

テニスは好きだ。中学の頃から続けているし・・・
だが・・・。
私がコートに真っ先に向かう理由が本当は他にもあるということを
私以外誰も知らない。

コートを囲むフェンスの向こう側を通り過ぎていく一人の男性の姿を
一日一回、目に焼き付けるために、私は毎日コートに走る。

真壁先輩・・・。
名前もつい先日知ったばかり。話なんてしたこともない。
毎日授業が終わるとボクシンググローブを肩からかけて部室に向かうためにフェンスの向こう側を
歩いていく。
真正面をじっと見据えて、足早に通り過ぎる。
声をかけるスキもない。
だけど、その表情が好き。。。強い意志を持ったような・・・。
一目見て目を奪われた・・・。

私はその姿を見つめるだけ。声なんてとてもかけられない。でもそれだけでいい。見つめるだけでいいの・・・。

あっ、来た・・・。
今日も真壁先輩はいつものように部室に向かう。
クールなまなざし。。。すてきだな・・・。

だが・・・あっ!
今日は一人じゃない!長い黒髪の人だ。。。たまに隣を歩いている人・・・。
二人で楽しそうに何か話ながら通り過ぎていく。
彼女だろうとは思う。
あの人といるときの先輩の目は一人の時の鋭い瞳とは違う。
いつになく優しげだ。
そして、今日は歩くスピードもゆっくりめ。
合わせているのかな・・・。
意外な一面も心にしみる。
だがそんな先輩も嫌いではない・・・。
二人の雰囲気があまりに自然すぎて誰も逆らえない。

胸がちくちく痛む。そして少し目が潤む。涙がこぼれそうになって目を伏せた。
だけど、
もう一度先輩を見つめる。
真壁先輩・・・
ここで見ているだけしかできないけど・・・もう少しこのままでいさせてください。





あとがき

学生の頃に、好きな人に声をかけれなくて姿だけを目で追っていた時代がありました。
う、なつかしい・・・
切ないんですけど、見てるだけで幸せだったんですよね。
目があっただけで喜んでみたり・・・。
そういう淡い恋心っていつしか忘れてしまっていたりします。
ふと思い出したので、簡単な文にしてみました。
たぶん、私も、真壁くんを絶対の絶対に(笑)好きになると思いますが、
声をかけれずに、見つめるだけだっただろうな〜。