037 気まぐれ



   俊×蘭世
    高校時代、1部完結後 とある夜の小話です。

    














なんとなく来てしまったバイトの帰り。

今夜の夕食は、昨日もらったカレーがあるからと断ったのは夕方のこと。





だから今夜、江藤はうちに来ない。





なのに、いないとわかっている部屋にまっすぐ帰る気には何故かなれなくて

疲れた体を引きずるように歩いていたら、無意識のままここまで来てしまった。

いや、自分ちの方に曲がるべき角を躊躇もなくまっすぐきてしまったのは

果たして無意識だったのか、それとも故意的だったのか・・・



そう、ここは江藤家の洋館。

昔はそれほど意識していなかったが、

彼らの正体(それは自分も含めた事ではあるが)を知った今となっては

なんて物々しい外観なんだろうと思う。

いかにもモンスターが住んでいそうで、この巷には似つかわしくない。

バレて困るのならもっと日本風家屋にしてもよかったんじゃないかと苦笑した。






今日は来なくていいからと断ったのは自分のくせに

ただ単に顔が見たいというだけでふらふらと彼女の家まで来てしまった。





一歩間違えればストーカーといえなくもないそんな自分の行動には自嘲してしまうが、

とどまることを知らないこの想いというものはいったいどこから来るものなのか

つかめないまま不安に陥る。






数年前までは考えられなかった今の自分の姿。

いろんな能力が備わったことはもちろんだけれど、それよりももっと信じられないこと。

それは自分がこんなにも人を愛しく想うようになったこと。

俺は硬派だと言い聞かせていたあの頃は

あまりにも幼すぎたということか。








彼女の部屋を見上げると明かりが灯っている。

あそこに彼女がいると思うと少し胸が切なくなる。

どうしてこんなにも愛おしく想うのか・・・。






本人に思いっきりぶちまけてしまいたい衝動に駆られることもあるが、

プライドと照れが邪魔をして、まだそれは行動に移せていない。

ほんの少しでもそれを伝えてやれば、きっとアイツは泣いて喜ぶに違いないのに。






顔がみたい・・・




そんな気持ちはもう抑えられそうになくて、

向かいの壁に背を預けながらポケットから携帯を取り出し電話をかける。





・・・もしもし?真壁くん?・・・






2コールで出た。

もっと長引いていれば切ってしまっていたかもしれない。

電話をすることは未だに慣れないし///



それでもかけてよかったと思う。

声を聞いてきらきらした彼女の表情が目に浮かぶ。

そして今日も全力で自分を想ってくれている感に少し安心する。

どこまで自分勝手なんだか・・・







「窓から下見てみ」







自分の高揚する気持ちをひた隠しにして冷静に話した。

彼女がはっと息を呑み窓に向かうのがわかる。

姿が見えると黙って手をあげたら彼女の表情は一瞬にして輝いた。

そしてバッと蘭世がきびすを返して窓から姿を消した。






「あ・・・オイ!出てくることねえって・・・」






このまま姿を見ながら少し話すだけでよかったのに・・・と

電話越しに伝えるのは無理だと早々に悟りいかにも彼女らしいと電話を戻す。

そうこうしているうちに彼女が玄関から出てきた。






「ま、真壁くん!どうしたの!?」





息を切らしながら話す姿に呆れる。

「そんな急いで来なくても」

「だ、だって・・・真壁くんが来るなんて思ってなかったから・・・」

「そうか?」

蘭世がコクコクと頷く。



そう思われてるだろうと予想はしていたが、いざ言われると腑に落ちない。

ちょっとイタズラ心がむくりと沸き起こる。






「ちょっと顔みたくなって・・・」

「・・・え・・・///」

面白いほど一瞬にして戸惑い顔が赤く染まる。

予想どおりの表情の変化にふっと口元が緩む。




「おかしいか?」

「・・・い、いえ・・・」



そういってブンブン首を横に振る蘭世を見て可愛らしく思う。

そしてまた安心。






いつまでも首を振り続けている蘭世の頬を両手で押さえて止める。

そしてくるりと体を反転させて自分が背にしていた壁に彼女を押し付けた。






多少乱暴だったかもしれない。

しかし、嫌がるそぶりはなし。

視線が絡み合う。

胸の奥が甘く疼く。







そうなるとさすがに自分でも止められなくて

彼女の家の前だというのに、

引き寄せられるように彼女の口唇に自分のを合わせた。





甘く切なくいろんな感情が体をかけめぐっていくのがわかる。

何度も止めようとしても、また次の瞬間にはその口唇を求めてしまう。

そしてそれは徐々に深く・・・。






こんなことならかっこつけずに家に呼んでおけばよかったと少し後悔。

そう思いながらそっと唇を離す。

そのままこつんと額を合わせた。






潤んだ瞳が自分を見ている。

何度でもこの眼に痛いくらいに心を捕まれる。

この体を掻き抱いて自分の体に取り込んでしまいたいくらいに・・・








「その目、反則・・・」





「そんなこといったって・・・」







はぁ〜と息をついて

蘭世を自分の腕の中に引き寄せ閉じ込めた。






「真壁くん・・・今日はどうしたの?」

自分の肩越しに蘭世はたずねる。

「なんで?」

「だって・・・なんか・・・」

「・・・俺らしくねえか」

「・・・」






無言が戸惑いを表している。






自分の気持ちを悟られるのは苦手。

言葉にするのも苦手。

それでも少しは知ってほしい。

勝手だけど・・・








「・・・好きな女に会いたかった・・・それだけだ」







「・・・えっ・・・」

「お前がどう思ってるか知らねえけど、俺はそんなフツーの男だよ」





そうだ。本当にそうだ。

たぶん溺れているというのはこういうことをいうんだろう。

ただの恋に溺れただけの男。。。

普段は恥ずかしくて認めたくないだけ。

それでも時々、こんな衝動にかられるんだ。

ただの気まぐれと思われるかもしれないけれど、

心の中はいつだってこんな感じ。







「・・・真壁くん・・・」

「・・・イヤになった?家まで押しかけてくるような男・・・」

「イヤになんてなるわけない!」






バッと蘭世が体を離して強い口調で答える。

ちょっと軽くいったつもりだったから蘭世のそんな表情に少々面食らう。

蘭世の瞳がみるみるうちに潤んでいく。





・・・あっ・・・泣く・・・





と思った瞬間にはいくつかの涙の雫が零れ落ちた。






「泣くことねえだろ」

涙が流れた頬を拭いてやりながらつぶやく。

すると蘭世は声をつまらせながら答えた。





「ち、ちがう・・・う、嬉しすぎて・・・」



うれし涙・・・



それさえも我慢しようとする蘭世を見て、ふっと笑みがこぼれた。

我慢しきれずに嗚咽する蘭世をもう一度自分の肩に引き寄せた。






「嬉しいのは俺の方だっての」








それだけ伝える。





それだけしか伝えられないけど・・・






蘭世がきょとんとしてこちらを見ている。

こんな表情も、泣いてる顔も、怒った顔も、そして自分をとめどなくひきつける笑顔も

すべてが愛おしい。

もっともっと伝えたいけれどできない俺は、

その代わりに震える蘭世の体をもう一度強く抱きしめた。












あとがき

描きたかった情景があって
それを拍手お礼用にチラッと書こうかと思ったら
長くなってしまいました。
なのでサイトにUPです。

ちなみに描きたかった情景とは、
壁のところでチュです。
それだけのためにこんだけダラダラと・・・^^;
でも基本的に私の作品は空間が広くて、一文が短いので
それほど長くはないんだなぁ〜

そしてこれ誰?
王子なの?^^;
こんな甘い王子知らんけど。。。













←back