038 ラビリンス  〜〜〜Syun's heart 1〜〜〜
答えの見つからない深い闇の中で、俺は一人模索していた。











あいつの泣いている姿が、
ことあるたびに俺の頭にチラついて離れようとしない。
今、どうしてる?やっぱり泣いてるのか?
それとももう忘れる努力をしているのか・・・・・・・・?













行くあてのなかった俺を、このカルロ邸に導いたものは一体なんだったのだろうか。




慌ただしい毎日に身をおくことで、何も考えずにいることができた。
しかし、その反面、答えが一向に出てくる気配がないことに自分の中でも焦りを感じていた。











−−−−−−−−アイタイ。











そう思った。
できることなら、今、この家からすぐにでも飛び出して、
あいつのもとに駆けつけて、何も言わずにただ・・・・・・・


抱きしめていたい・・・・・・・・・・・










だが、俺の中に存在するどうしようもない意地が、そうすることを
頑なに拒否する。
今、戻ってしまえば、あいつは流されるまま人間になってしまう。
そうはさせたくない。させられない・・・。












どうすればいい?
あいつを迎えに行けるとするなら、俺には何が必要なんだ?



俺に魔界人としての能力が残っていれば・・・・・・・・
これからもずっとあいつを守っていくこともできたはずなのに・・・・・・・
悔いだけが俺の心を苛む。











そばにあったまくらを思いきり壁に投げつけた。
しかし、どれだけ力強く念じても、もうまくらはこちらに戻ってはこない。

小さくため息をもらして、俺は立ち上がり、落ちたまくらを取り上げる。
ぽんっとベッドにそれを投げ戻して、窓の外の月を眺めた。











静かだった。
まるで時間が止まっているかのようだ。
あいつがふと目の前に現れるような気にさえなる。












どうすればいいのか・・・・・・
どこへ行けばいいのか・・・・・・・・
何を手に入れればいいのか・・・・・・



それともこのまま人間として、人間の女を愛するべきなのか・・・・・・?




がんばって多くのものを手に入れたとしても、それが魔界人であること以上の価値に
なりえるものなのか?






普通の人間の女相手なら、全く何も考える必要はないことなのに。








あいつが魔界人であったばっかりに、
俺が魔界人であったばかりに、
生まれ変わってしまったばかりに、
人間になってしまったばかりに・・・・・・・・・・











だが、出会ったことを悔やむことはない。
あいつと出会ったことで俺は変わった。
たぶん、魔界人に生まれ変わっていなくても俺は、




あいつを・・・・・・。








考えは堂々巡りをしたまま、何一つ正しいと思える答えが見つからないまま、
出口のない迷宮をうろうろとさまよい続ける。












ただ、そんな中でも
俺の心はずっと江藤を欲している。
泣きそうなくらいに



強く−−−−−−−深く−−−−−−−−−−−−。









そうか、そうなんだ。
こんな深く暗い迷宮の中でも一つだけ確かな答えを見つけた。
そう・・・・・・もう俺は












他の女を愛せない。












こんなに悩むのも、全て、俺の中に強くあいつが生きているからだ。
あいつのために俺はどうするべきかを考えているのだ。


その答えはまだ出ようとはしないが、ただ、そのままのお前でいいから
待っててほしい。



勝手なことだとわかってはいるが、俺に少し時間をくれ。







お前を
自信を持って迎えに行けるようになるまで・・・・・・・・・。















あとがき

くっら〜〜〜。暗すぎ!

3部作と最初に書きましたが、3つの場面のわけて、
俊の心の変化を追っています。
まず今回はゾーンとの戦いののち、人間になってしまって江藤家を出て行ったころの想いです。

それにしても暗いですね。
かなりマイナス思考だし。
ただ、王子もつねに完璧であるはずはないと思うんですね。
不安になることも、悲しくなることも、気弱になることもあると思うんです。

そういった心の流れを表したかったのですが、
ちょっと難しかったですね〜。
ホントに堂々巡りしてしまいました。^^;

次作品2つもたぶん暗くなります。ご了承ください。










←back


このお話は、後にUPする
「088 等高線」、「095 プリズム」
へと繋がる3部作になっております。