042 お願い
明日の日曜日は江藤のたっての願いで
2人で出かける約束をした。

デートってやつか?

女と出かけるなど、
そんなことまったく縁がなかった俺が
あの転校生、江藤蘭世が現れてから
どうも調子を狂わされる。

何故なんだ?
だけど、あいつが俺をしつこく出かけようと誘うのも、俺はそんなに嫌じゃない。
嫌どころか妙に心地よく感じる俺がいる。
嫌がるそぶりを見せてそれを必死で振り向かそうとする姿を
楽しんでいたりする自分がいる。



あいつの願いを断りきれなくて約束したものの
俺自身、デートなんて経験もない。
どうしたらいいんだ?


落ち着かずに部屋をうろついてみる。
そんな自分が恥ずかしくてふぅーとひとつため息をついて
ベッドに身を投げた。


デートと言っても映画見るだけだし
別に何するってわけでもねえし
何でこんなに緊張しなければならねえんだ?


気を落ち着かせようと目をつぶったら
うれしそうに笑う昨日の江藤の姿が浮かんだ。

デートか・・・。今頃うれしそうにしてんだろうな。
昨日もあんなにうれしそうだったし。
ふっわかりやすい奴。
そんなにうれしいのかねえ。

そんなこと考えてるとリビングの電話が鳴った。
「はい。真壁です。」
「あっ真壁くん?江藤です・・・」
さっきまで頭の中で聞いていた声が、
今、受話器の向こうから聞こえてきて、一瞬不思議な気分になる。
「・・・あ、あぁ」
「・・・あの、明日なんだけど・・・」
「何だ?」
「待ち合わせ、駅って言ってたけど、駅のところにあるカフェにしないかな〜って思って。
GARDENっていうんだけどステキなところなの」
「かふぇ?」
「だめ?」
「いいけど、何で?」
「え!?あの・・・何かカフェで待ち合わせなんてステキだな〜とか思ったりなんかして・・・
あははは・・・あっ、いやならいいんですけど・・・・」
声がどんどん小さくなっていく江藤の姿を想像した。
あいつなりにいろいろ明日のこといろいろ考えてたんだろうな。
そんな江藤が妙にかわいらしく思った。
(いや、別に深い意味じゃないが・・・)

「いいぜ。茶店だろ?GARDENだっけ?」
「ほんと〜?うれし〜。じゃあ駅の入り口の右手側にあるから。
すっごくおしゃれだし、すぐわかると思うよ」
おしゃれな店なんて俺にはこっぱずかしいが、
今日はやけにあいつの願いを聞いてやりたくなる。
何故かはわからねえが・・・まあたまにはいいか。
こんなにうれしそうなんだし・・・。

「んじゃ、そのGARDENってとこで。10時。遅れるなよ」
「ぶっ遅れませんよーだ。じゃあ明日ね」
「おぅ。明日な」

受話器を置いた。なんだか恋人同士みたいな会話だなとふと気づいてしまって
俺は一人顔を赤らめた。
だが、もう一度江藤のことを思い出して
俺は妙にうれしくなる。

お袋が今夜当直でよかった。
こんな姿とても見せられねえよな。
俺は口笛を吹きながらコーヒーのビンを手に取り
明日着ていく服はどれにすっかななんて
またいつもの俺らしくないことを頭の中で考えていた。


あとがき

まだ序盤のころの2人です。
いちおう、初めてのデートという設定です。
サリが俊とのデートを蘭世にプレゼントしたシーンがありましたが、
う〜ん、実質あれが最初のデートなんでしたっけ?
まあそれはそれ、これはこれとして(笑)
真壁くんにもデートを楽しみにしていてもらいたいという勝手な欲望のまま
かきあげました。