043 確信犯
「あ・・・降ってきた・・・・・・」



昼休み、友人達と教室で談笑しながら雲行きを眺めていた蘭世は、
灰色の雲で覆われた低い空から、滴が落ちてきだしたのを確認するとそうつぶやいた。



「最近、ほんと雨続くよね〜。嫌になっちゃう・・・」
「あたし、傘忘れちゃったのよぉ。もうサイアク。」
「あ、あたし折りたたみ置いてるから、貸してあげるよ」
「ほんとー?うれしい!助かる〜」


ひととおりの雨の話題で盛り上がりながら
蘭世は本格的に降り出した雨を眺めていた。


(真壁くん、傘持ってきたかな・・・?)


俊のことを考え出すと蘭世はもう周りの会話は聞こえなくなる。
肘を机について顎を支えながら、周囲の騒音も上の空で、愛しい人を思い浮かべていた。


その視線を空からもっと下に下ろすと、ちょうどその時、赤い傘が一つ大きく揺れながら中庭を走りぬいた。
つい、その動きに意識を奪われて、その傘の行方を追いかける。


渡り廊下に到達した傘は、静かに閉じられると、一人の男子生徒と、一人の女子生徒がその中から現れた。
濡れた服を払いながら、楽しそうに並んでその廊下の先に消えていく。


その一連の流れを見た蘭世の頭に、ハッとある光景が浮かんだ。そして、思わず口元が緩む。

「何?蘭世!思い出し笑い?気持ち悪いよ」
蘭世のかすかな動きを見逃さなかった友がすかさず指摘した。


「え?いや、そんなんじゃないよぉ〜」
心の思惑をぐっと押し込めて蘭世はニコッと笑い、もう一度放課後の帰り道を想像した。



     
      ************************



部活が終わると、日野はゆりえを待たせてるからとそそくさと出て行き、
曜子は惣に迎えに来られて、半強制的に慌ただしくつれて帰られた。


部室には俊と蘭世が残された。
蘭世が着替えを終えて出てくると俊はもう帰る準備ができていて、
開けっ放しになったドアの端にもたれて外を眺めながら立っていた。


「あっ、お待たせ・・・・」
蘭世はパタパタと俊のそばに駆け寄った。


(あっ・・・・傘・・・・持ってる・・・・・・)


俊は紺色の大きな傘を右手で持って宙をブラブラさせていた。
蘭世はパッとカバンを背中側に回した。


「帰ろっか」
「・・・・・・お前、傘は?」
俊は蘭世の周りにいつもの花柄の傘が見当たらないのに気づいて声をかけた。


「・・・・・・ん?・・・ああ、忘れちゃった・・・・♪」
蘭世は後ろに回してカバンを握っていた両手をさらにぎゅっと握り締めた。


「・・・・・・ふ〜ん、しょうがねえなぁ。ほら入れよ」
「えへ。ありがとー」
蘭世はニコッと微笑んで、俊の掲げた傘の中にお邪魔しま〜すといってすっと入った。


(えへへ、こうやって一つの傘に入るの、久しぶり〜。今日は折りたたみ、もって来てたけど、ナイショ・・・)
嬉しさがこみ上げてきて、ついつい会話も弾む。
ときどき、腕と腕があたり、かすかな体温を感じる。それがまた妙にドキドキする。


「あ、真壁くん、ここでいいよ。すぐバイトいくんでしょ?
雨も小降りになってきたし、走っていくから。(相合傘もできたし・・・・)」


「いいよ。まだ時間あるし、送ってってやるよ」


「え・・・?でも・・・・(うれしいけど・・・)」


「この傘にはいりたかったみてぇだしな・・・・」


ドキーーーーーーっ!!!
蘭世のストレートの髪が逆立つ。


「やっぱり・・・・バ、ばれてた?」
蘭世はそぉーっと上目遣いに俊の顔色を伺う。


「隠すならちゃんと隠せよ。どれだけカバンを後ろに隠したって、
そんだけでかい声で考えてたら分かるに決まってるだろ。」


「だ、だってーーーーっ(うれしかったんだもん、真壁くんきっと傘に入れてくれると思ったし・・・・)」
蘭世は真っ赤になってうつむくと、俊もそれにつられて顔を赤らめた。


「ゴホっ・・・今回だけだぞ!ほら行くぞ」
俊は照れを振り切るように言葉を吐き捨てた。


「うん!!」
蘭世は満面の笑みで返事し、パッと俊の腕に手を回した。


「な、//////なんだよ・・・・」


「いいでしょ?今日だけ・・・・そうしたい気分なの♪ねっ」
蘭世は俊の目を覗き込んで微笑んだ。


「//////わーったよ。・・・ったく」
俊はいったん、元に戻りかけた顔をまた一層赤くさせながら顔を背けた。


紺色の傘が雨の中をゆらゆらと揺れる。
西の空が少し明らいできた。
だが、ただ今だけは、少しでも長く降り続いて欲しいと願う、淡い恋人同士がそこにいた。












あとがき


ひさびさのお題です。
とっても短文で、しかも何の盛り上がりもなくて申し訳ありません。
以前にちょこちょこっと書いていたものがありましたので、この機会にUPしました。
なかなか、出す機会がなかったので、加筆してからまた出そうと思ってたのですが、
結局加筆なくそのまんま出してしまいました。キャー駄作なのに。


確信犯の意味がどうもわかりづらい。
辞書で引いたら、なんか難しいことを書いていたので無視しました。(オイ・・・笑)
ニュアンスが伝わればいいかなと・・・^^;


相合傘をしてドキドキ・・・っていう経験はあまり私自身はありません。
結構、いつも傘を持ってたりするので^^;そして、一人の時に限って持ってなかったりする・・・。
ちくしょーーーーーっ!!(笑)








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