045 不慮の事故



               蘭世ちゃんの告白シーンを俊視点で。
                   即席で書いたので手直しするかも・・・です。


















どっちかというと、いい奴っていうより悪い奴じゃないって…

そんな印象だった。




本来俺は、真正面から人を素直に信用しないタイプだ。

他人がいい奴だろうと悪い奴だろうと俺には一切関係なくて、

敢えて知ろうとも思わないし深入りもしない。

だから「こいついい奴」だなんてそうそう簡単には思わない。

思わないんじゃなくて、そもそも思考回路が「いい奴」ってところにすぐには進んでいかない。

ひねくれてる俺が気持ちをストレートに表せないのが原因だっていうのはよくわかってる。

だから俺にとっての「悪い奴じゃない」っていう表現は決してマイナスから引き出されるものじゃなくて

かなり好意的な表現の仕方だった。





なぜ、そんなことを口走ってしまったのかわからない。

静かに佇む沈黙に妙に耐えられなかったのも事実だ。

ただ、なぜその沈黙が、なぜそんなに怖かったのか・・・。

そんな沈黙なんて、冗談の一つでも言ってしまえば、さらっと解消できるほどのものだったはずなのに。




しかし、意識とは別に意表をついて俺の口から出た言葉は、





――― 悪い奴じゃねえぜ 考えてやんな ―――





江藤にしてみればそれはきっと大きなお世話。

人と人のことには深入りしないはずの俺が、なぜそんなことを・・・。



筒井と話して、だからといって全てを理解しあったわけじゃなかったが、

舞台で歌う筒井を見て、なんだか筒井の気持ちがスッと心に入り込んできた。





一人の女性を真剣に想う気持ち・・・。





噂に興味なんてなかったし、それが単なる噂であることだって江藤の様子を見てれば明らかにわかっていた。

それが筒井の一方通行な気持ちだってことも。

俺には関係のないことだったし、

筒井と江藤がどうなろうと知ったことじゃなかった。



だから筒井を応援するなんて気持ちもなかったし、

ここに来たのもただ単にほってほけなかっただけで・・・。

ただ、なぜほっとけなかったのかはわからない。



ほっとけなかったのは・・・



筒井だったのか・・・



それとも



江藤だったのか・・・







ただ筒井の気持ちがなんんとなく身にしみて、気づいた時にはそんな言葉を発していた。

しかし、そんなことを口にしたことに俺はそのすぐ後で後悔した。



江藤の泣き顔と切実な訴えを目の前にしたとたんに・・・。



泣いている目の前の女を、慰める術も、泣きやませる術も、俺は何一つ持ち合わせていなかった。

抱き寄せようと一瞬差し出した腕は、江藤に届くことはなかった。



胸が軋む。

鼓動が速まる。

脈が激しく打つ。







どうしていいのかわからなかったのだ。





筒井の気持ちを援護しようとした自分も、

その後、江藤の気持ちを目の当たりにしてすぐにその気持ちを翻しそうになった自分も、

その目の前の江藤を、眠っているとはいえ当の筒井のすぐそばで、掻き抱きたい衝動に襲われている自分も。



結局俺は、精一杯の理性と自分のウリの冷静さを取り戻して江藤に背を向けた。

後ろ髪を引かれる思いって・・・こういうことを言うのかななんて心に感じながら・・・。



なんとなく慰めになればと、ハンカチ代わりに差し出したカーテンは、

またもや俺の意表をついて、江藤を慰めるどころか、大いに笑わせてしまうぐらいの威力があったようで

その場の(俺にとっては)深刻なその状況からは打破されたわけだが、

俺の心に江藤から落とされた爆弾にも似た衝撃は、まだかろうじて爆発はされていなかったが、

ずっとその後もくすぶり続けていたのだった。






<END>





あとがき


コミックス第5巻の蘭世ちゃんの告白シーンを王子視点で書いてみました。
筒井君の転倒は「不慮の事故」ですよね。。。たぶん。
まあ、それがメインテーマではないんですけど・・・。

ほんとは王子の筒井君に対する気持ちみたいなのを書きたかった・・・
友達・・・だと思った瞬間っていつなんだろうって思ったのっていつなのかな?とか
蘭世ちゃんに筒井君のことを勧めたのってなんでなん?とか。

結局書いてたら何一つ書けませんでしたが・・・
短いし。
また次回試みよっと(笑)

それにしてもあそこで俊が蘭世に差し伸べようとした手を引っ込めたシーン。
正直、今でもkau,にとっては謎です。
とりあえず上では心境的なものを書きましたが、
それが正解だとは思ってません。
どうして引っ込めたのか・・・。

誰か教えてくださいっ!!









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