050 写真のネガ
俺は聖ポーリア学園2年、久遠 誠 17歳。
運動神経はゼロ。おせじでもかっこいいとはいえない。
女にはからっきしもてない。もちろん彼女もいない。
趣味といえばこのカメラだけ。
オタクとよばれても気にしない。
俺は写真部。日々シャッターチャンスを狙う毎日。
今日も俺は自慢のカメラを首からぶら下げて放課後の校内をさまよう。

最近のお気に入りの被写体は同じ学年の江藤蘭世。
長い黒髪がきらりと光る。
入学早々、真壁とやらいう男とボクシング部を作り、あの河合ゆりえとの
やりとりは話題にもなったもんだ。
もともとは話題づくりのためにボクシング部の取材ということで
真壁を被写体として撮っていた。
将来有望のボクサーになるとはやし立てられている真壁は
何かと話題になる。とくにこの学園には女性が多い。
周りの女子は奴を憧れのまなざしで見る。


そう、この学園には女が多い、が、しかし彼女はずば抜けている。
真壁とつねに一緒にいて、それが目立つ要因でもあるのだが、
レンズ越しに見る彼女の笑顔は俺の心までドキンとさせる。
彼女の笑顔がやつにだけ、向けられていることは、恋愛経験の少ない俺にでさえわかる。
うらやましい・・・。俺にもっていないものを全てもっている真壁が。。。
だから、俺は写真部という存在を利用して、真壁と一緒にいる彼女の姿を
カメラに収めるしかない。


二人の姿をカメラに収める。
気づいているのかいないのか、真壁はいつものポーカーフェイスを崩さない。
肩からバッグをかけて歩く姿はさまになる。
そして真壁の後ろから走り寄る彼女。
黒髪が後ろになびく。

恋人同士・・・だろうと思う。
真壁の周りにとりまきはたくさんいるが、
真壁と並んで歩く女は彼女しかいない。
レンズ越しの二人の姿は入り込めないぐらい絵になる。


二人の姿があまりにも自然できれいなので、おもわずついてきてしまった。
何やってんだ?俺は・・・。
羨望のまなざしで二人を見つめる。
そして目を少しずらし、視界から真壁をはずし、江藤だけにする。
見とれてしまう。
言葉も交わしたことがないのに、なぜこんなに惹かれるんだろう。
カメラを構える。
フレームの中を彼女いっぱいにピントあわせる。


その瞬間、真壁が彼女に一瞬のうちにキスをおとした。
かなり長い間二人を追いかけていたが、
その姿を見たのは初めてだった。
とっさのことでシャッターを押すのも忘れていた。
何者かに影をふまれているように
一歩も動けない。
俺はその場に立ち尽くした。

ふたりのことはわかっていたこと。
追いかけていれば、いつかはそういうシーンに出くわすことも
はなから予想はついていた。
そもそもそれを狙って追いかけていたふしもあった。
なのになんだ。この衝撃は。
しかも、カメラに収めることもできずに。
何のためについてきていたんだろう。
何やってんだ?俺は・・・。
少し落ちついて、自分自身に苦笑する。
写真部失格だな。

ふうーと息をついて
戻るために振り返った。
!!!
ずっと先にいたはずの真壁がいつのまにか俺のうしろに立っていた。
壁にもたれてこちらを見ている。
彼女はもういなかった。
そうか、彼女の家の前だったんだ。

するどい瞳。
へびににらまれたかえるというのは今の俺のことか???
心臓がばくばく鳴り響き、立ち尽くしたままの足はガクガク震える。。
レンズなしで初めて目が合っていた。
こんなに力の強いまなざしってあるのか?吸い込まれそうになる。

「よぉ」
真壁が低い声で言葉を発した。
「あ、あ、あの・・・・」
俺は声をだそうとするが言葉にならない。
「・・・今の撮ったか?」
「え?あ、あの、いや、その・・・」
「撮ったのか?撮ってねえのか?!!!どっちだ!」
真壁のドスのきいた声が耳に響いて震え上がる。
「とととと、撮ってません!!す、すみませんでした!!」
上ずった声を思いっきり出す。
じーっと真壁は俺を見ている。
俺はその場に釘付けにされたままだ。
「・・・そんなびびるくらいなら、カメラで追いかけるような真似はやめろ」
俺を見据えたまま、落ち着いた声で真壁は言う。
「は、ははははい・・・」
俺って一体・・・。
自分が自分を恥ずかしく思う。
なにも言えずに、情けねえな・・・。

「江藤が写ってるネガ、全部出せ。俺は別にいい。写真部の部長にも頼まれたからな。
だが、江藤は別だろ?あいつは関係ねえ。」
真壁が言った。
気づいていたのか?こいつ・・・。俺が江藤を撮っていたこと。
「あ、あの・・・」
「今、出したら、今までのことは許してやる。
さっきの見ただろ?あいつは俺んだ。
他のやつのそんな目にさらしたくねえんだよ」
あまりのするどいまなざしに俺はうなずくことしかできない。

カメラのケースからネガを出す。
真壁は俺の手のひらからそれらをぶん取った。
真壁の手の中でそれらがパンと細かく砕ける。
!?・・・握りつぶしたのか?
目を丸くしている俺に真壁はニヤリと笑ってぱらぱらと手の中の破片を下に落とした。
「じゃあな」
真壁が去っていく。
俺はそれでもまだ動けずにたちつくしたままだった。

しばらくして我に返った俺はへなへなとその場に座り込んだ。
真壁のあのまなざしに誰か勝てる奴がいるのかなとふと思った。
そこまで江藤を思っているのか。。。
クールな真壁の内側にある強い感情を少し垣間見て、
ちょっと得した気分になった。
ネガはなくなってしまったけど、まあいっか・・・。
夕焼けの空をぼーっと眺めながら、ゆっくりと立ち上がって
俺は来た道を戻るために歩き出した。



あとがき

変なお話・・・(‐o‐;)
こいつストーカーじゃん!(笑)
書きながら思ってたんですけど、あとに引けなくなってしまいました。
しかも最初彼が蘭世ではなく
俊を撮り続けるという方向で書いてたらなんだか、
いけない方向に行きそうになって、う、気持ち悪ってなったのでやめました。。
(б(^^;)←バカ?笑)