052  体温


季節も早晩秋。今年も残すところあと少し。
木々の紅葉もすすみ、街路樹の銀杏もすっかりきれいな黄色へと衣替えをいている。
北風も吹き出し一気に冬への準備に入る。

椎羅から買い物を頼まれていた蘭世は手に息を吹きかけながら家路へと急いでいた。

「あ〜あ、手袋でもしてくればよかったなー、やっぱり寒いぃ・・・・」
少しだけだからと思い、コートも羽織らず手袋もせず、財布一つで出てきていた蘭世だった。
スーパーの袋にはポン酢。
今日の夕飯は水炊き。この冬初めての鍋である。
椎羅はポン酢を切らしていることに気づき、急いで蘭世をおつかいにいかせたのであった。


はあーっともう一度手に息を吹きかけながら信号待ちをしている蘭世の頭の上をボスっとなにかがはじいた。
「よっ!」
「あっ!(きゃいーん)真壁くん!」
頭に落ちてきた物の正体は俊の赤いグローブだった。
「今、ジムの帰り?」
部活がなかった今日、俊はジムの方へ足を運んでいた。
「おお、まあな。お前は?」
肩にグローブをかけ直しながら俊は答えた。
「お買い物〜。」
「ポン酢。。さては鍋だな」
「ピンポーン。あっ、また読まれちゃった?」
「カンだよ。急に冷えたからな」
「ふふ。そうなの。あっそうだ、真壁くんも一緒にどう?今日バイトないでしょ?」
「いや、でも急だと悪いだろ」
「なーに言ってるの、全然平気よ。大丈夫。せっかくだもん、人数が多い方が楽しいでしょ?」
人数に関係なく、俊がいるだけで蘭世は楽しいのだが・・・
「・・・ん〜。いいのか?じゃあお言葉に甘えるとするかな」
「ホントー?やったー!」
そういって蘭世は俊に飛びついた。

「今日の鍋は水炊きで〜す。さっいこいこ」
(はっ!私ったら勢いあまって真壁くんにしがみついちゃった!)
顔を赤くしながら蘭世はパッと俊の腕をつかんでいた手を離した。
「あっ、えへへへへ〜。ごめんなさ〜い。ついうれしくて・・・」
なははと頭をかきながら蘭世ははにかんだ。
「・・・お前の手冷てえな。そんな薄着でうろうろするからだ。風邪引くぞ、ほらっ」
そういって俊は蘭世の手をつかんで、ジャンパーのポケットに自分の手と一緒につっこんだ。
「あっ。。。/////」
蘭世はさらに真っ赤になって俊を見た。
俊も照れた顔をそっぽ向けている
「・・・・ありがと////」
蘭世はそういってピトッと頭を俊の腕に寄せた。
「真壁くん、あったか〜い♪」
「・・・・・・そうか?」
「うんすっごく♪・・・すっごくあったかい・・・」
俊はがらにもないことをしてしまったとほんの少しだけ後悔していたが、
幸せそうな蘭世を横目で見てふっと笑い、ポケットのなかの手をぎゅっとにぎりしめた。

二人の間だけ、小春めいた風が包んでいた。






あとがき


あ〜あ、なんてフツーな話。ちっとも胸キュンじゃないです。(-o-;)
私の手も年がら年中冷たいんですけど、冬になるとさらにひどくなります。
急に寒くなったので、あー手が冷たいよーっと思ってたら思いつきました。
蘭世がカルロ様にプロポーズされたあと、雪のなかを俊が蘭世の手をポケットに入れて
歩くシーンがありますよね。あの場面とっても好きなんです。
真壁くんの優しさの表現だな〜っと思って。
で、今回使っちゃいまいした。
私も真壁くんと手をつないでみたい。。。