070 かくれんぼ
「あっ、俊くん、みーーっけ♪」
「あ〜あ、見つかっちゃったー。」
「さっ!じゃあ今度は俊くんと鈴世、じゃんけんして、負けた方が鬼よ。」



僕が昼過ぎにこの別荘に来たとき、蘭世と鈴世と・・・そして真壁は3人でわいわいとかくれんぼをしている真っ最中だった。




真壁・・・といっても今まで僕が知っていた真壁の面影はそこにはない。
純粋な瞳の子供の姿をした真壁であった。





真壁が魔界というところの王子として生まれ変わった、そして、その命を狙われていて、蘭世たちが彼を守ろうとしている・・・その話を聞いたのはつい先日のことだった。

鈴世と、そして蘭世も、普通の人間ではないのでは・・・ということはうすうす気づいてはいた。
だが、今回の話は僕の想像をはるかに超えるものでまるで夢を見ているのではないかと思った。
まさか、あの真壁まで僕の想像に入ってくるとは思いもしていなかった。




だが、ここしばらく、江藤家や、生まれ変わった真壁たちと接していると、何も変わらないようでいて、やはり現実のことなんだなと確信しつつある。
赤ん坊の姿から少し成長した真壁は、あの頃の大人びた様子は全くないが、きれいな二重の瞳はまさしく彼のもので、この愛くるしい姿のまま成長していれば、もっととっつきやすかったのにななどと考えてしまい、ふと笑みが漏れる。



今や、彼女の隣にいたあの真壁はもうどこにもいない。いるのはあのちびっこい俊だけ。
数歳ずつ成長はしていくようだが、それも確証されているわけでもない。
蘭世・・・・。
その細腕で、君はずっとそいつを守り続けていくつもりなのか・・・。





楽しそうに笑っている蘭世を見て、また僕の心がうずいた。
彼女の彼に対する想いを知れば知るほど、
皮肉なことに、自分の気持ちも彼女に向かっていってしまう。
紳士であろうとする自分の理性だけが、暴走をかろうじて食い止めていた。
あの、真壁が・・・今はいない・・・。
今、彼女を守れるのは俺じゃないのか?
魔界なんて関係ない・・・。
そばにいてあげたい・・・。
欲望の心が目を覚ましそうになり、自分の中でどうしようもない葛藤が始まる・・・。





「あ、筒井くん!いらっしゃい♪って、ここは筒井くんの別荘だったわ・・・えへへ」
蘭世が僕の存在に気づいて、声をかけてきた。
彼女の屈託のない笑顔が僕にもう一度理性を呼び起こさせた。


「・・・・・やあ、しばらく」
冷静さを装って僕も笑顔で答える。

「あ、筒井のお兄ちゃんだ!お兄ちゃんも一緒にかくれんぼしようよ!」
真壁も鈴世に手を引っ張られ駆け寄ってくる。
なんてまっすぐに人を見る瞳を持っているのだろう・・・。
とても同じ人物とは思えなくて僕は自分に潜んでいた邪な心も忘れて、笑いを堪えた。




「お〜し、やるか〜。お前はホントかわいいな〜、このかわいさを残して元に戻ればいいんだけどな」
僕は真壁の小さい頭をぐしゃぐしゃと撫で回していった。
「やだ、筒井くんったら・・・クスクス。かわいい真壁くんなんて気持ち悪い。。。」
蘭世も吹き出しそうになるのを堪えながら笑った。



ホント君は楽しそうに笑うんだな・・・。
ほんとは何かにすがりついて泣いてしまいたい気持ちでいっぱいのはずなのに。

子供の真壁と手を取り合って笑う姿は傍目から見ると本当の姉弟のように見えるが、俺にはそれ以上のもっと強い絆で結ばれているようにも見えた。



お互いに深く信じあい、頼りあい・・・・。



俺の出番なんてどこにもないってことを思い知らされる。
ここにいるのはあんなに幼い姿の真壁でしかないというのに・・・・。




「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
背後でいつのまにか後ろに回っていた俊の声がして振り向いた。
「早く、隠れないと、鈴世のお兄ちゃんに見つかっちゃうよ。」
「・・・あ」


感傷に耽っている間にかくれんぼは再開されていたようだ。
鈴世が鬼らしく、数をゆっくり数えている。
「ほら、早くー」
そういって俊が小さい手で僕の手を握ってくいくいと引っ張った。





物置の影に僕と真壁は隠れた。
よく考えればなんて不思議なことなんだ。
隣にいるのはあの真壁で、一緒にかくれんぼをしているなんて・・・。



横目で見ると真壁は必死で鈴世の動きを目で追っていた。
あまりの真剣さに可笑しくなって僕は思わず吹き出した。


「あ!ダメだよ!シーーーッ!!」
真壁は人差し指を口元にあてて、小さい声で僕を窘めた。

「あ、わるいわるい」
かわいらしいしぐさに微笑ましくなったが、この際だと思い僕はふと聞いてみた。



「なあ・・・・俊・・・?お前、、、お姉ちゃんのこと・・・・好きだろ?」



「・・・・?・・・うん」
俊は首をかしげながらうなずいた。



「じゃあ、早く大きくならないとな。でないとお兄ちゃんが取っちゃうぞ」



子供相手に言うことでないのは重々承知していた。
だが、言い出してしまったことは最後まで言わずにはいられなかった。
普段の姿に向かっては到底言えない言葉・・・




だが、俊は、わけがわからないといった様子できょとんとしていたが、そのあと、惜しげもなく言った。
「うん、大丈夫だよ。僕、早く大きくなって、ずっとお姉ちゃんと一緒にいるから♪」
俊はにっこり微笑んで言った。


(俺がずっと一緒にいるから・・・)


幼い俊の背後に一瞬であったが元の真壁の姿を見たような気がした。


(だから、お前は手を出すなよ・・・)


そういってはにかんだ気がした。
普段の姿なら恐らく到底聞けない言葉・・・。




「・・・そっか・・・そうだな・・・。よし、任せたぞ!」
僕はそれだけ言ったあと、もうそれ以上は何も言えなかった。というより言えなかった。
子供相手に凄んだ自分が腹立たしかったし、子供ながらに素直に言い切る真壁を何となく頼もしく思えた。
もう何もいう必要もない。
彼女がこいつをどこまでも信頼するのはこういう部分なのかもしれないな。
どんな姿であれ、お前の口から聞けてよかったよ・・・真壁・・・。




「あ、筒井の兄ちゃんと俊くんみっけ〜!」
思いがけずに鈴世が視界に飛び込んできた。
「あーー、見つかっちゃった〜〜。お兄ちゃんがしゃべってるからだよぉーーーー」
もう!とふくれながら真壁は子供らしく怒っていた。
「悪い悪い。よし!じゃあ今度は僕が鬼になるから、2人とも隠れろ〜〜〜」
「ほんと?わ〜〜〜〜」
そういって2人は離れたところにいた蘭世も誘って3人で隠れだした。
フッと笑って3人の後姿を見送りながら、僕はゆっくりと数を数え始めた。




あとがき

すみません。即席で作ったので、かなり乱文になってます。
筒井くんの気持ちの流れ・・・いまいち表現できてないなあ・・・。
う〜ん、難しい・・・。

王子が王子として生まれ変わったあの時期のお話です。
王子の子供の姿も好きなんですよね〜。
蘭世に迫ろうとしているアロンに向かって「お姉ちゃんから離れろ!(江藤から離れろ・・・)」と言ったシーン、
胸キュンでした。蘭世のこみ上げてくる気持ちに感情移入〜〜〜。