073 先輩




     後輩から見た俊蘭みたいな感じで。。。







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真壁先輩と江藤先輩。

二人は俺の所属するボクシング部の部長とマネージャー。

なんでこの聖ポーリア学園にいるんだろうと思うほど正直言ってあまりこの校風に似合わない真壁先輩と、

一見、ボクシングなんて野蛮!とか言い出しそうな清楚なイメージのある江藤先輩。

この二人はうちの部だけにとどまらず、高等部中において有名だ。

生徒会長と仲が良かったり、何しろ真壁先輩においては、男子の運動部がなかったこの高等部に

初の運動部を、それもボクシング部なんかを作った張本人だとかで、知らない生徒はまずいないだろう。

そしてそんな二人が、いつも一緒に歩いてたりするものだから目立つ目立つ。





つきあってるんだろうと思うけれど、

以前チラッと真壁先輩に尋ねてみても、否定こそはしなかったが軽くあしらわれてしまったし

その二人とよく一緒にいるあの(ゲジ眉さえ除けば)ちょっと美人な神谷先輩は、

真壁先輩は自分の婚約者なのだと事あるたびに豪語するものだから、

なんとなく二人の関係の真相はまだよくわからないままだ。

別に他人事だからどうでもいいっていやあいいんだけど、

俺はなんと言っても真壁先輩に憧れているし、その彼女が江藤先輩だったらお似合いだと勝手に思っているわけで。





もちろん江藤先輩は真壁先輩にだけじゃなくて、部員みんなに分け隔てなくお世話してくれるし

たぶん、こっそり江藤先輩にお熱な野郎もいる。

現に、最初は俺自身ですらその野郎たちの一人だった。

だって、色白で長い黒髪を風にさらっとなびかせる姿なんて目を奪われない方がおかしい。

時々、天然じみた台詞を吐く時もあるが、それもまた無邪気な感じがしていい。

でもずっとそんな風に江藤先輩を見ていると、彼女が俺たちを通り越してまっすぐ見ているものが

自然とわかってくるんだ。

その視線の先にはいつも真壁先輩。

やっぱそうだよなぁ・・・。

俺らから見ても真壁先輩はかっこいいし、頼りがいがあるし、あんな風になりたいって思うんだから。

江藤先輩が真壁先輩を好きでいてもなんらおかしくはない。





ただ、よくわからないのは真壁先輩の方。

確かに江藤先輩とは一緒にいるし、それ以外の女性とはほとんど話すことはない。

ゲジ・・・いやもとい、神谷先輩とも話してはいるが、

かといって、神谷先輩とつきあっているという話は、ほとんど神谷先輩自身の希望というか妄想にしか思えないし

(ケリが飛んできそうだが・・・)

だけど、それらがつきあっているという証明になるほどの確信ももてないでいる。



真壁先輩は基本的には自分の感情らしきものをめったに表さないし、

ましてや江藤先輩のことを目で追ったりするわけでもないし、

仲のいい友達同士だとか、同じクラブの仲間だとか言ってしまえばそれで済んでしまいそうなあやふやさがある。



はっきり示さねえんだもんなぁ・・・



1年の間では二人の関係についてはいつも話のネタだ。

しかし、そのたびにつきあっている派、つきあっていない派に分かれて結局議論は確信をつくことのないまま終わる。

俺みたいに付き合ってるだろうと思うものがいれば、逆に

江藤先輩に憧れているからつきあっていて欲しくないという気持ちを持つ野郎もいるわけで。

勝手に詮索しては楽しんでいたりしながらも、実際はどうなんだろうと首をかしげて終わることになる。





今日も放課後、部の奴らといつもの二人の話題についてあれやこれやと話しながら帰っていた途中、

「あっ!!」

部室のロッカーに辞書を置きっぱなしにしてきたことに気づいた。

もう閉まっているかもしれないが、明日、授業中に指名する宣言を受けてしまった俺としては、

今日だけは絶対宿題をしていかないと、あの英語の先生の逆鱗に触れてしまうことは避けられない。

お好み焼きを食いにいくという誘いに後ろ髪を引かれながらも、しぶしぶ俺は来た道を戻っていった。

時間も遅いから正門に回ろうとしたら、部室にはまだ明りが灯っていたのでいつもの裏門から校内に入る。

そして誰が残っているんだろうとそっと覗くと入り口が少し開いていてそこから中をうかがった。

すると話し声が聞こえる。

あっ!

例の真壁先輩と江藤先輩だ。

二人で残ってるなんてやっぱり怪しすぎるぞ!!

これじゃ盗み聞きだと思いながらも、中の様子も気になるし、かといってドカドカとあの間に

入っていけない空気を感じてしまう。

二人は部室の壁に背を預けて座り込んでいた。





「・・・そしたら日野くん、神谷さんになっていったと思う?」

「さぁ」

「お前の先祖は犬かよっ!だって・・・」

「ぶっ」

「確かに人一倍鼻が利くけどね」

「当たらずとも遠からず・・・か?」



犬の話はよく意味がわからないが、二人がなにやら楽しそうにしているのを見てその場から動けなくなってしまう。

真壁先輩は普段見る感じとはずいぶん違っていた。

いつもは見たこともないような表情だった。



あんな顔できんだ・・・



とまったくもって失礼なことを考える。

でも俺だけじゃなくて、あんな真壁先輩を見たら誰だってそう思うに違いない。

なんだか・・・そう!

心を許してるというか・・・非常にリラックスしたような雰囲気で。





「でもあいつの鼻はホント要注意だよな。何を言い出すかわからねえ」

「やっかいな力を与えちゃったね。ヘヘ」

「誰だ?最初に犬にしたのは」

「たぶんアロンよ。ほら昔、真壁くんが生まれ変わって身を隠さなきゃいけなかったとき、

アロンが神谷さんをあの姿にして探しに来たもん」

「またアイツか・・・。余計なことばっかしやがる」

話の内容は未ださっぱりわからないが、二人で話す姿はどうみても恋人同士にしか見えない。

でも、そんな甘い話でもなさそうだし、う〜ん・・・とじれったさを感じずにはいられない。

どうにかなんねえかなぁと思っていたら話はさらに続いた。



「香水でも使うか?」

「香水?」

「あいつににおいを嗅がれないように」

「ぷ・・・そこまでする?」

「あいつのせいでお前に触れられなくなるのもな・・・」

「ば、バカ・・・朝からそんなことしなきゃいいじゃない!」

「そんなことって・・・お前な。別に朝っぱらからナニしてるわけじゃなく・・・。

抱きしめただけだろ?ただのスキンシップだよ」

「そ、そうだけど・・・///」



え、え、えーーーーーーー!!!

今、聞いた!確かに聞いた!

「抱きしめてる」とか言ってた。

ま、真壁先輩が・・・え、江藤先輩をーーーーーーー???





「でも・・・香水使った後はもう何もできないよ・・・?」

「・・・においがついて余計わかりやすいか・・・」

「・・・ん・・・」

「ふーん・・・香水使った後も何かして欲しいわけだ」

「ち、ちがっ・・・///そうじゃないもんっ!」

「ふーん」

そういって真壁先輩はにやりと口元をほころばせている。

俺自身も何故か顔がにやけてきてしまう。

そうこうしているうちに真壁先輩の腕が江藤先輩の肩に回った。



「ちょ、ちょっと真壁くん・・・が、学校だよ」

「誰もいないって」

「で、でも・・・」

「朝抱きしめられなくなるんだったら今する・・・」

そういって、あと数センチというところまで二人の距離が近づいたところで

真壁先輩がふと顔を上げてこちらの方を見た。

ビクっ!!!

ドキドキしていた心臓が、違う理由でドキドキし始める。

音を立てたつもりはないのに、なんでわかったんだろう・・・

その場から慌てて立ち去ろうとしたが、それよりも先輩の動きの方が早かった。

勢いよく扉が開けられる。

ジロリと睨む先輩の目と、今にも腰の抜けそうなおどおどした俺の目が合う。



「何やってんだ?お前」

「え・・・あ、あの・・・忘れ物があって・・・」

しどろもどろになりながら慌てる俺を真壁先輩は呆れ顔で眺める。

「さっさと取って来い」

「は、ハイ!すみません!」

俺は小走りで、あっけに取られている江藤先輩の方に軽く会釈をしながらロッカーに向かい

辞書を掴むと一目散に戻ってきた。

「し、失礼しました!」

そういってその場をさっさと立ち去ろうとすると「オイ」と真壁先輩に声をかけられた。

「は、はい?」

「見てた?さっきの」

「(ドキーーーっ)え、いや、あの・・・み、見てませんっ」

真壁先輩はじっと俺を見続けるから、俺は耐えられずに目を逸らせる。

「ま、いいんだけど」

しばらくしてから、そういって真壁先輩は背中をドアに預けた。

「え?」

「別に隠してたつもりはなかったし」

「そ、そうなんですか?」

突然の肯定にあっけにとられる。

だって自分たちはあれだけあーだこーだと詮索していたのだから。

「意外か?」

「い、いや。。。そういうわけじゃないんですけど・・・」

「そういうことだから妙な詮索はやめてさっさと帰れよ」

「は、ハイ・・・っていや!あの俺はホントに忘れ物を・・・」

俊はクスっとわらって「はいはい。じゃあな」と手を上げたあと、部室に入ってドアを閉めた。



一気に汗が全身から出てくる。

なんて緊張感あふれる対峙。

しばらく頭の整理がつかなくて呆然と歩いていたが、ふと足をとめて振り返る。

二人が出てくる気配はまだなくて、

あのとき、もしいるのがバレなかったら・・・どうなってたんだろうと

ふと思うと、なんだか惜しいようなほっとしたようなそんな複雑な気分が交錯した。

でもこの妙な興奮はこのまま一人で抱え続ける勇気はなくて、

英語の宿題のことは頭のすみにまだ残ってはいたが、足は自分の家の方角とは反対に

みんながまだあーだこーだと議論しているであろうお好み焼きやに必然と向いてしまうのだった。







あとがき

とくになんの意味もないだらだらした話になってしまいました・・・(汗)
見つかって照れちゃって逆切れな真壁くんってのもあったんですが、
何となくこっちの方が好きかなって思ったので軌道修正しました。
照れ王子好きな方には申し訳ないです・・・
二人の話してる内容についてはだいたいわかっていただけましたか?
一応、蘭世・曜子・日野くんがいる場で
曜子が蘭世の周りにこの場にいない俊の匂いがまとわりついていることを
得意の?嗅覚で気づいて騒いだ一件があったという設定なのでした。
ていうか、ここでかくより文中で書いとけって・・・??スマソ






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