077 大暴れ





  「073 先輩」の朝の話。
   作中で俊と蘭世が話していた内容の話デス。
   どちらから読んでいただいても良いかとw
   甘さ控えめというかほぼ無糖デス。








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「うぃーっす」

いつもの聖ポーリア学園高等部の通学風景。

雲ひとつない晴天だが、季節は初夏。

すでに夏を思わせるような無遠慮な日差しが、朝っぱらから煌々と下界に照りつける。

蘭世はきつい日差しを手で遮りながら歩いていると、

正門をくぐる手前でふと後ろから声をかけられた。

振り返ると、大きなあくびをひっさげた日野克。



「あ、おはよう。日野くん」

笑顔で挨拶をかえすと克はおっ?と目を見開いた。

「今朝もマリアレベルだな」

「まりあれべる?」

「ステキな笑顔だってこと」

そういって、克は蘭世の横に並んだ。

「ふふ。そぉ?ありがとう」

「でもさ、江藤のそのマリアレベルはある意味罪深いぜ」

「ん?どうして?」

「この世の中さ、俺みたいないい奴ばかりじゃないんだから。気をつけろよ」

「はぁ・・・日野くんみたいな・・・ね」

「わかってる?意味」

「・・・はて?」

「無自覚ってところが一番たちが悪い」

「な、なによぉ」

「まぁ。お前にはバックに真壁がついてるから問題ないんだろうけど」

「日野くんにはゆりえさんがいるもんね」

そういってニコッと笑う蘭世を克は一瞥するとはぁとため息をついた。

「いなけりゃどうなってることか・・・」

「え?」

「いや、こっちの話」





二人でそんなことを話しているとそこに急ブレーキを伴って正門に乗りつけた黒塗りの車があった。

バタバタと車から先に降りてきたのは神谷組の新米、惣。

惣はすばやく後部座席の方まで回り込むとドアを開けた。

そこから降りてきたのはそう神谷曜子その人である。



「あら。ごきげんよう」

曜子はしおらしく二人に声をかける。

俊という対象物を間に挟みさえしなければ、曜子と蘭世の間に大した利害関係は発生しない。

いたって穏やかかつ健全な朝・・・・のはずだった。




「おはよう。神谷さん」

「うーっす。曜子嬢はご機嫌いかがかね?」

「ええ。とっても清々しくってよ。

あぁ、こんな素晴らしいよき日は愛する人との出会いから始まればいいのに・・・」

陶酔しながら雄弁をふるっている傍で克と蘭世は顔を見合わせた。



「悪かったな。その愛する人でなくて」

克は憮然とした表情で腕組みをする。

「いいのよ。すべてうまくいっては幸せすぎて怖いもの・・・」

「・・・さいですか。ではでは一般市民はとっとと退散しますかね。行こうぜ、江藤」

「あ・・・う、うん」

どっちにしてもこの曜子嬢と同じ教室に向かわなければならないんだけど・・・と

曜子の方を一瞥しながら蘭世はその場を離れようとした。





「ん?ちょっと待ちなさい!蘭世!」

「え?きゃ!ちょっと痛いじゃないの!」

思わず曜子に呼び止められたかと思うと、蘭世の長い髪は背後から曜子にむんずと引っ張られる。

そのまま曜子はくんくんと鼻を動かしながら、先ほどまでのお嬢様風情はどこへいったのか、

半ば四つん這い状態で辺りを真剣に嗅いでいる。





「ど・・・どうしたの?神谷さん・・・」

そして何かの匂いをたどった先には蘭世が立つ。

「むむむっ!やっぱりあんた!」

そう一喝すると、曜子は蘭世にすり寄って全身あちこちに鼻をくっつける。

「ちょ、ちょっと・・・何なのよ、神谷さん!」

「おかしいわ。ここにいないはずの俊の匂いがする!!

しかも胸くそわるいことにたどっていくとあんたじゃないの!」



「え゛っーーーーーー!!!」

蘭世の髪がとっさに逆立つ。

「真壁の匂い?」

そういって克は鼻を動かしてみる。蘭世にも近づけてみる。

しかし、もちろん克にはそんなものわかるはずもない。

それはただの人間だったはずの神谷曜子に特別に備わった(・・・いや・・・成り行き上特別に与えられてしまった)能力なわけで・・・。

克は首を傾げる。しかしこんな面白いネタはない。





「もしかして。朝から会ってたとか?」

ニヤニヤしながら克が問いかけると蘭世が一気にポッと顔を赤らめる。

「ち、ちがっ・・・///会ってたなんて言い方やめてよ!」

「ん〜?否定するのは言い方だけってか?」

「そうじゃなくて!さっき起こしに寄っただけだもん!起きなかったから先にきたけど・・・」

「やっぱ会ってたんじゃん」

ヒューと口笛を鳴らしながら克がニヤつく。

しかし、それとは裏腹にどす黒い空気を醸し出すものもあり。





「ら〜〜〜ん〜〜〜〜ぜ〜〜〜〜!!」





曜子は一瞬犬に見間違うほどの鼻息と牙をむき出しにして蘭世に襲い掛かる。

「抜け駆けなんて許さないわよ!蘭世!」

「抜け駆けとかじゃなくて、真壁くんに起こせって言われたんだもん!」

「なんで俊があんたなんかにそんなこと頼むのよ。どうせあんたがずかずか押しかけたに違いない!」

「そんなこと私に言われたってホントだもん・・・ってちょっと、痛いってば!」







「あ〜あ・・・朝っぱらから正門のど真ん中で何やってんだか・・・」

「次々に登校してくる生徒たちは何事かと

この2人を避けるものあり、遠巻きから眺めるものあり、様々だが、

克にとってはこの2人のこの騒動はすでに見慣れたもので、あきれ顔で傍観している。



それにしても・・・克は顎に手を添えて首を傾げる。

「まぁまぁ・・・落ち着けって神谷。(完全にしおらしいお嬢は返上だな・・・)

それよりもその匂いをかぎわけるってのがすげーな。執念か?」

「知らないわよ!ここ数年気づいたらすっごく鼻が利くようになってたのよ!」

曜子は蘭世を蹴り飛ばしながら説明した。

それを聞くと克は両手を叩きながら笑い転げる。



「わははっ!!!なんだそれ。お前の先祖は犬かよ」

「わ・・・笑い事じゃないんだってば・・・日野くん・・・」

蘭世は息絶え絶えも曜子の攻撃に抵抗しながら不満をこぼす。



「ホントどうにかしてほしい・・・この鼻!」

そういって蘭世は曜子の鼻をグジグジとつまむ。

「ったーい!何すんの!蘭世!」

「キャー!」

逃げる蘭世にそれを追いかける曜子。

この聖ポーリアの歴史にこれほど騒がしい時代はなかっただろうなと

克は半ば感心しながら2人を見送る。



本人同士はいたって真面目なのだが、日野をはじめ周囲は2人を止める気すら起こらない。

というより、この年齢になった乙女たちが、ここまで本気で取っ組み合いのケンカをしてしまうことに

逆に敬意すら覚えるのであった。



「苦労すんなぁ・・・真壁も・・・そうだ。後でこのことからかってやろ〜っと」

俊に言わせれば、苦労かけてんのはお前もだとの返事がかえるところだが、

それに気づくよしもなく、フフンと笑って日野は教室に向かった。








<END>






あとがき

「先輩」のプロローグ的話でした。

まあ完全に後付けですが。

「お前の先祖は犬かよっ」にどうやってもっていこうかと悩みまくりましたデス。

(自分で書いたくせに)

別に何の甘くもないお話でした。

実際起こしに行った蘭世と俊の間には何があったのか・・・

それはご想像にお任せして・・・xxx








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