086 だらだら




俊と蘭世のちょっぴりオトナな時間
084ハニーと対になっています。
こちらは俊Ver.デス










夢と現の境をうつらうつらとまどろんでいると、

少ししびれた左腕に何かがさわさわと触れるのを感じてうっすらと目を開けた。

少し朦朧としている中で見慣れたヤツが背を向けて、俊の腕を伝い、そのまま指まで到達させてじゃれているのだった。



(起きたのか・・・)



俊が起きたことがわかると蘭世はいつも妙に慌てふためくから、俊はしばらくそのままにさせていると、

蘭世は急にそのさすっていた腕を引っ込めた。

なんとなく耳があかくなっているのが後ろからでもわかる。



(何やってんだか・・・)



今さら何がそんなに照れくさいのやら、女心は未だにわからないが、

何気ないそんな仕草でさえも彼女の重要な存在価値の一つに思う。

その仕草一つ一つがこんなに愛おしく思うのだから・・・





そんな蘭世がもぞもぞと動き始めた。

どうやら起き上がろうとしているようだ。

ふっと左腕の重みが感じられなくなってその代わりに冷たい空気がそこに触れる。

そのわずかに現れた空間が妙に寂しく感じられて、俊は蘭世が起き上がってしまう前に両手でその体を引き寄せた。

全く警戒していなかったようで、蘭世は小さな悲鳴とともにバランスを崩し、簡単に俊の腕の中に収まった。





俊は自分がどうやら背中から彼女を抱きしめるのが好きだということにここ最近気づいた。

この体温と肌触りが心地よくて一種の精神安定剤のようにこの腕に包んでいるとほっと心が安らいでいく。



体を重ねるようになってからは特にだ。

人間になってしまった時、どうすることもできないでただ別れを告げてしまった自分だったが、

そのことを思うとこの執着ぶりは何だろう。

いや、一度そうしてしまったことで、コイツを手放すとどうなるかということを逆に体で教え込まれた気もする。

あのときの自分はただ息をするだけの人形、ただの抜け殻でしかなかったのだ。





コイツがいなくても生きていける、生きていかなければいけないと思っていたのはただの独りよがりで、

そんなごまかしは何の意味も持たないことに気付いた今は、

一瞬でも手放そうとしたその時間と隙間を少しでも埋めたいような気持ちになって、こんな風にいつも俊は抱きしめてしまう。

逃れようとするならなおさらひきつけてとどめておきたくて。



いつも不思議に思うのは、抱いているはずの自分が逆に抱かれているような気になること。

彼女が自分の求めに応えてくれることで何故か安心感が得られる。

まるで自分に欠けているパーツが彼女との距離を縮めることによってぴったりと埋まり、

自分が完全体になるようなそんな感覚。

このまま一つになってしまえたら、どんなにか・・・。






「・・・・・もう・・・起きてるの?」





そうささやく蘭世の問いに答えもせず、俊は抱き締め続けていた。

自分の行動を考えてみればただの駄々っ子と同じだけれど、それを封じ込ませるそんな理性なんてまだしばらくは取り戻せない。

だからいつも言うんだ。



―――俺を感情に走らせるな―――って・・・






初めて彼女を求めたときは自分で覚悟を決めた。

だけど最近の蘭世は、俊のそんな事情を知ってか知らずか、故意なのか本能なのか、いとも簡単に俊の理性を取っ払ってしまう。

力はどれだけ抑えられても、心から湧きあがってくる欲望はまた別の話。

彼女の本当の味を覚えてしまった今は、潤んだ瞳で見つめられただけで彼女の状態もお構いなしにただの雄になり下がってしまうのだ。





「あの・・・真壁くん・・・?・・・・・あの少し腕を外して・・・」

「・・・・なんで?・・・」

離さないんじゃなくて、厳密にいえば離せない。

硬直してしまったかのように心が捉えられたのと同じように何故か腕も動かせない。



「あの・・・服を・・・着ようかと・・・」

「いいよ・・・まだ着なくても・・・」

「な・・・何言って///」



「・・・・体が冷えてきちゃったから・・・」

「あっためてやるから大丈夫・・・このままでいろよ」

しばらく躊躇していたようだったが、腕の中で背を向けていた蘭世がくるりこちらを向いた。



視線を感じる。

こちらが目をつぶっているのをいいことに蘭世はいつまでもじっと見ている。

タイミングを失ったらもう目の開け時を失くしてしまいそうで俊は恐る恐る目を開いた。

ばっちり目が合う。



(やっぱり見てやがる)



「・・・何だよ」

照れくささが先行して少しぶっきらぼうに言ってしまうが最近は蘭世も慣れたもので

それぐらいのことでは動じなくなった。

「何でもない」とだけ言って俊の胸元に顔を寄せ俊との距離をさらに縮めた。

その蘭世のゆったりとした動きは逆に俊を動じさせる。

俊の胸を疼かせ、鼓動を高ぶらせ、そしてようやく落ち着きを取り戻してきた理性をまた、

あっというまにもぎ取ってしまうのだ。






どうしようかと思案する。

思案しながらも少しずつ触れてしまう。

長い黒髪も全てが愛おしくて・・・。





「真壁くん・・・髪好きだよね・・・よく遊んでる・・・」

蘭世はされるがままでつぶやく。

「ん・・・俺にはないものだし・・・」

「ぶっ・・・何それ」

そうくすくすと笑う蘭世。

笑顔も、指先にある黒髪さえも彼女全てが自分を誘っているようにしか思えない。

彼女の息遣いが素肌を滑る。

それだけでもまるで鳥肌が立つように全身に心地よい刺激が走る。

だらだらしてしまうのはそのせい。

彼女の柔らかさ、温かさが心地よくてどうしても手放せない。




勝手な解釈と言われればそれまでだが、

何度も言ってきたんだ。



―――俺を感情に走らせるな―――って・・・。



天然でも故意的でもどちらにしたって

走らせる方が悪い。






俊は蘭世の顎に手をかけて上を向かせてその大きな瞳を覗き込んで探る。

蘭世の鼓動が大きく鳴ったのが聞こえた。

本気で嫌がるのなら無理強いはしないけど・・・・?

嫌がる様子は・・・・見られない。



完全体になる味をもう一度味わいたくて・・・

俊はわずかに残っていた理性と罪悪感をそっと頭の隅に押しやってふたをする。



自分の口元がちょっと緩んだのを見られたかどうかはわからないが

それを隠すように俊は蘭世に唇を寄せていった。









<END>






あとがき

084 ハニーの俊ver.でした。
俊サイドの話も見てみたいというご意見を結構いただいていたので
書いてみました。

男性の気持ちは正直わからないデス。
たぶん実際にこんな深く考える男はいない(笑)
欲望というのは実際はもっと即物的だ。
だけどそれだとちょっともの悲しいさも感じるので・・・
なので空想というかkauの希望的観点といったところでしょうか^^;











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