094   夏休み





とっくに夏休みは終わってますが、今UPしないとたぶん1年寝かすことになるので
ちょっと遅れましたがアーーップですv
一応書いてたのは8月中だったので☆ウヒ。(笑ってごまかす)






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日中はまだまだ日も高く晩夏といえども残暑が続いているが、朝晩は暑さも和らぎ、

朝の早朝練習も幾分、爽やかさを感じられるようになってきた。



残すところ夏休みも後1週間。

春に加わった新入部員もこの夏休み中の部活で一回り逞しくなったように思える。

通常は夏休み前に引退する3年生だったが、その3年の日野も体がなまるからといって、

なんだかんだと部室に入り浸っていた。





俊は部活ラストのメニューであるジョギングを終えると、蛇口の下に頭をそのまま突っ込んで

勢いよく流れる水に浸した。

そして、ブルブルと髪を振って姿勢を元に戻そうとしたちょうどそのとき、「ハイ」とタイミングよくタオルを渡される。

一瞬、その相手の顔を確かめてからフッと口元を綻ばせる。


「サンキュ」


そういって、俊はタオルを受け取った。

ガシガシと頭をそのタオルで拭くその瞬間が一番心地いい。

ふんわりと洗われたそのタオルからは目の前に立つその人を

そっと抱きしめた時に香るのと同じにおいがする。

他のものは、他の部員たちのものと同じように部の洗濯機で洗っているが、

「これは特別なの」といって蘭世は、いつも俊がこの場面で使うタオルを自分の家で洗濯してくる。

たかがタオルなのにと思ったりもしたが、いつの間にかそれに慣らされてしまった俊は、

たまーに曜子が蘭世を押しのけてタオルを渡しに来た時には調子を崩され、

ちょっとした楽しみが奪われた気になったりなんかして、顔には出さないようにするものの、

心の中では小さく舌打ちしてしまう。




今日はそのお邪魔虫(んなこと耳にしたら噛みつかれるだろうが・・・)も塾の講習とやらで顔を見せていないため

心地よくその香りを堪能できた。

部活に女なんて邪魔だと頭では思いながらもどうしても蘭世にはついつい気を許してしまって

後輩にも示しがつかねえなと俊は一人苦笑した。




「1年たちは?」

蘭世が一緒に持ってきたスポーツドリンクも受け取って、俊はその水道の脇に座り込んだ。

「片づけしてくれてる」

蘭世も俊のとなりにしゃがんだ。

「そっか」

「夏休みももうすぐ終わりだね〜」

「ああ。お前も毎朝大変だったろ」



夏休みは極力バイトもしたくて、部長の特権で、ボクシングの部活動は他の部に比べて朝早くから行われていた。

少し部員には申し訳ない気分もあったが、それでもみんなついてきてくれて感謝している。

それはマネージャーにも同じことが言えて。



「ううん。朝早いほうが涼しいし、一日が長く感じるしよかった♪」

そういって蘭世は笑った。

とかなんとかいって、時々目が開いていなかったくせに・・・と俊は心の中で笑う。

それでもがんばって毎朝来てくれたことには変わりはなく、他の部員の世話もよくやってくれた。



夏休み中ずっとがむしゃらに部活とバイトとに明け暮れて、気づけば残りわずか。

せっかくの休みだというのに、それらしいところどこにも行ってなくて、ふと隣にいる恋人に申し訳なくなった。

当たり前のようにそばにいることで、労う気持ちも忘れてしまいそうになっていた。

先ほどぬらした髪の雫か汗なのかわからない水滴を、頭からかぶっていたタオルで拭きながら俊は言った。



「お前さ、今週とか暇な日ある?」

「え?暇な日?今週はだいたい空いてるけど・・・」

「んじゃあさ・・・どっか行く?」

「えーーーー??なんで?」

なんでって・・・。俺が誘うとそんなに意外なのかよ・・・。

目をパチクリとさせている蘭世を一瞥してから俊は続ける。



「夏休みなのに、どこも行ってねえなと思ってさ」

「そういえばそうね〜」

「行きたいとこあるなら行ってもいいけど?」

「ホント!?・・・でも部活とバイトは?」

「少しぐらい休んでもバチはあたらねえだろ」

そう俊が言うと蘭世は「そっか」とつぶやいてニコリと微笑んだ。



この笑顔にやられる。

華奢な肩を引き寄せたい衝動を抑えて冷静なフリ。



「ある?行きたいとこ」

「真壁くんは?」

「俺はどこでも・・・」

お前と二人でいられるなら・・・という言葉はいつもどおり飲み込む。

気持ちを確認しあえた今でも、やっぱり思ったこと全ては口にできない。

口にすることができるならたぶんもっと蘭世を幸せにしてやれるだろうし、

たぶん自分ももっとラクなのかもしれない。

でもそんなことおそらく一生かかっても無理だとわかっている。

人格が変わらない限り。

逆に言いたいことも、最近では蘭世のほうが聞かずともわかってくれるようになってきた。

それでいいのかどうなのかわからないが、結局それに甘んじている部分もあって、

つくづく自分ってやつをふがいなく思ってしまう。



「じゃあねぇ・・・海がいいかな〜vvやっぱり夏は海でしょーー」

「海?いいけど、お前泳げるようになったのか?」

昔、臨海学校でコイツが泳げなかったことを思い出す。

「なっ!し、失礼ねぇ・・・昔、真壁くんに教えてもらってから泳げたでしょ〜?」

「そいえば、あれから泳いだことあった?」

「え?それは・・・な、ないけど・・・大丈夫!自信あるもん」

「その自信がコワイ」

「何でよぉーー」



頬を膨らませて怒る姿も見慣れてるけど、やっぱり可愛く思えてついついいつも悪態。

プッと噴出してから、誰も周りにいないことを確認すると俊は横向いたままの蘭世の肩に手を回した。

ドキッとさせる蘭世の心臓の音が聞こえてきて、なんとなく優越感。



「んじゃ、明後日。朝迎えに行くから用意しとけ」

「う、うん・・・」



そっと蘭世に顔を近づける。

その気配に気づいて蘭世はそっと目を閉じる。

ホントはそのまま口付けたいけど・・・また妙な悪戯心が芽生えてしまって、

あと少しというところで顔を止めて言ってやった。



「浮き輪忘れんなよ」



その言葉に蘭世がパチっと目を開ける。

「な、何よーー。わ、忘れないもん!真壁くんのバカ!」

顔を真っ赤にさせて両手で俊の腕をバシバシ殴る蘭世。

「いてーな。ホントのことだろーが」

からかいがいのあるヤツ・・・俊はアハハと笑って蘭世の腕を掴み、

その怯んだ一瞬の隙にチュッと触れるだけのキスを蘭世の口唇に落とした。

蘭世が真っ赤になって硬直する。

そんな姿を見て、やっぱりやめらんねえなと思う晩夏のある一日だった。









<END>








あとがき


たぶん時間にしたらほんの10分程度の間の出来事なんですが、
それを長く伸ばすのって結構大変スね・・・^^;
たいして甘くもないし、
王子かなり上から目線だし?
でもこんな王子もスキです・・・。

職場で生徒が一生懸命クラブ活動をしてるのを見て
ふと思いついたシーンでした。
うちは女子校だけど・・・^^;
自分の学生時代のことも思い出してちょっとデフォルメしました☆







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