「あ〜おもしろかったぁ。スリル満点だったね〜♪ねっ真壁くん、次は何乗る?」
そういって蘭世はポケットに手を突っ込んだままの俊の腕に寄り添った。

秋晴れと呼ぶのにふさわしく文句のつけようのない青空。
10月の日曜日の遊園地は、家族連れやカップルたちで賑わっていた。

久々に休みを入れた俊も今日は蘭世のかねてからの希望を叶えるべく、
遊園地デートに勤しんでいた。


子供だましと思っていたアトラクションも、実際乗ってみると結構な迫力だ。
さすがの俊も悲鳴こそ上げないものの、ジェットコースターが最高点から最初はゆっくりと、そして一気に
かけ落ちる瞬間はウッと息を飲んだ。

普段は怖がりの蘭世も何故かこういう場面では強い。
俊とは対照的に、体中の声をかき集めたような大声で悲鳴を上げるが、それは恐怖からというよりも
心底楽しんでいる歓喜から出るものであった。

(あれだけ騒ぎまくってもこいつまだ疲れねえのか?女ってタフ・・・)

隣で、園内マップを眺めながら、次のスリルの堪能先を探す蘭世を見ながら、俊は苦笑した。





ぶらぶら歩く途中で、蘭世はマップからふと顔をあげると、大きな看板に書かれたおどろおどろしいタッチの文字が、
蘭世の視界に飛び込んできた。

「お化け屋敷・・・?・・・・・・・・っ!!これにしよ♪ねっ真壁くん!」
蘭世はそういって俊の腕を引っ張る。

「はぁ?お化け屋敷?何でそんなもん・・・」

「なんでよぉ?面白いって☆」

「もっと怖い面した本物が魔界に行きゃいくらでもいるだろうが。」
俊は先を行こうとする。

「そんなのとは違うの!急にウワッっと出てきて、びっくりとかするでしょ!」

(んなことぐらい、知ってるっつーの!)
俊は蘭世の言葉にハァーとため息をつきながらも、結局満面の笑顔に引きずられて
真っ黒い建物の中にしぶしぶ足を踏み入れた。





「あ、あのカップル、さっきのジェットコースターの時にも前に並んでたよね」
蘭世は薄暗い中、自分たちの前に並んでいる二人をそっと指差し、声を潜めて俊の耳元で囁いた。

「はぁ?」
俊は興味なさげな声を出しながらも、蘭世の視線の先を追う。
その先には、リーゼント姿の男に、ポンパドールに巻き髪の女の子がキャイキャイとひっきりなしに話しかけている
姿があった。


「ねえねえ、晃!ドキドキするねー。ここのお化け屋敷、すっごく怖いんだって。トンコが言ってたもん」

「へぇ、トンコがねぇ。『翠の顔が出てきたわ』っとかって言わなかったか?」

「何よもうーーーっ!そこで何で私が出てくるわけ!!!」
翠という名らしきその女性は、晃と呼ばれたその男を両手のグーでポカスカ殴る。

「いてぇな!お前の顔見てるほうがよっぽど怖いぜ」
晃はそういってケラケラ笑う。

「晃ってば、ホントムカツクーー!ちょっと一流大学に行ってるからって調子に乗っちゃってさー。
今時リーゼントっていう方がよっぽど怖いよーだ!」
翠も負けじと言い返す。

「なんだと!?コノヤロー!そんなこというヤツはヘッドロックの刑だ!!」
翠の悪態の言葉に反応した晃は、そういって翠の細い首を後ろから腕で優しく締め上げた。





(ああ、そういえばいたな。ていうか、やかましい奴らだな・・・)
俊はぼぉっとその姿を眺めながらそう思った。

蘭世は二人のやり取りを見ながらクククっと笑った。
その声にその二人が気づく。

「・・・・・あっ、さっきも後ろに並んでましたよね〜?」
まだ、晃の腕が首にからまったままで翠は蘭世にそう話しかけた。

「・・・あ・・・はい。気づいてましたか?」
蘭世も笑顔で答えた。

「そりゃ、すっごく綺麗なストレートなんだもん♪ね、晃?」
「ん?あぁ、まぁな。」


「綺麗なストレートだって♪真壁くん」
「お世辞のうまい女だな」
「もう!何よぉ〜☆」


「あはは」
蘭世と俊のやり取りを見て、今度は翠が笑った。

「彼氏、晃と似てる〜♪」
「へっ?」
蘭世と俊はきょとんと翠の方を見た。

「二人の感じが、なんだか、私達と似てるなぁって思って。」
俊と晃ははぁ?と言った表情で首をかしげていたが、蘭世は、そんな俊と晃をキョロキョロと見比べながら、
目つきの悪いところか似てるかも・・・と笑いながら翠の言葉に同調し、すっかり意気投合していた。

「ねぇねぇ、一緒にお化け屋敷入ろうよ♪大勢の方がおもしろいでしょ?せっかくだし。
私は、冴島翠、こっちは須藤晃。どっちも19歳よ。そちらは?」

「私は江藤蘭世。こちらは真壁俊くん。同じ19歳よ。」

「わ〜!同い年かぁ。なんか運命を感じる・・・。大学生?」

「う・・・二人とも高2デス・・・若干、事情がありまして・・・」

「あ、そっかそっか。でも、同い年ってうれしいね〜。なんか初めて会った気もしないし、どこかで会ってたのかもね」

「ホントホント」

そういって二人の女性は、キャイキャイと手を取り合ってさっさと黒いカーテンをくぐり抜けていった。

二人残された男性陣は、彼女らの勢いに負け、無言のままその場に立ち尽くしていたが、はっと我に返ると
お互いに顔を見合わせた。
「お互い大変だな」
微笑みながらそういう晃に俊も「あぁ」といって苦笑した。

「ちょっと晃何やってんの〜?」
「真壁くん、早く〜v」

俊と晃ははぁ〜と同時にため息をついて、同じようにダラダラとカーテンをくぐった。





意気揚々と潜り込んだものの、真っ暗闇、気味の悪い音、そして時折ひんやりとした風が頬を触ると
ひやっと声にならない悲鳴がこぼれる。

視界はだんだん暗闇に慣れてくるとはいえ、いつ、どこから、どんなものが自分達に降りかかってくるかと思うと、
鼓動は治まるどころか早まるばかり。

翠と蘭世は、先ほどまでの勢いはまるで消えうせたかのように、無言になって、ひたすら辺りを気にしながら
前に進むのみである。


(ったく、女ってやつは・・・・・・)

その様子を後ろから見ていた俊はあきれながらそう思った。
俊にとっては、どこに何がいるか、いつ、どのように自分達の前にお化けとやらが現れるかは、目をつぶっていても
わかる。お化け役の奴らもどうやって驚かせてやろうかと、ワクワクしてるものだから、
意識が高ぶっていて、どんどん俊の脳裏に高揚した心の声がいやでも入り込んでくる。

(お化け屋敷なんて、ちっとも楽しめねぇんだよ!俺は!!)

俊は少し苛立ちながらも、隣をダラダラ歩く男をちらっと横目で見た。
晃の声はちっとも聞こえてこない。
退屈そうに大きな欠伸をしている。
俊は晃の心にそっと意識を傾けてみる。

(あ〜ぁ、眠〜。お化け屋敷なんて子供だましもいいとこだよな〜。ぜんっぜん怖くねえじゃん。
翠のやつ、だらしねえな〜)

(へぇ、意外と肝すわってんだな・・・こいつ)
俊は久々に男っぷりのいい野郎にあったな・・・と感心した。
その視線に晃も気づいて俊を見る。

「お前も、怖がんねえんだな。ま、そんな感じはしたけど」
晃はそういってニッと笑った。
「まぁな。お前も度胸あんじゃねぇか」
俊は顔を前に戻してそう言った。
くくくっと晃は笑った。
「お前、なかなか面白いヤツだな。気に入ったぜ」
「お前もな」
俊も顔はそのままで瞳だけ横に向けてふっと笑った。





二人が遅ればせながら意気投合したその時、
きゃーーーーーっという悲鳴の二重奏が二人の耳に突き刺さった。

そして、その瞬間、俊と晃、それぞれの胴に、女性が一人ずつ巻きついた。


「晃ーーーーーーっ!!!」
「怖いーーーーーーっ真壁くん!!!」


「んだよっ!脅かすな」
晃はそういって翠の肩に手を置く。

「おまえなぁ・・・見慣れてるだろうが・・・」
俊もそういって半分笑いながら蘭世の背中に手を回した。


暗闇の中で、一瞬、この場に似つかわしくない雰囲気が漂う。
二組の男女が同時に抱き合っているのは、真夜中の公園くらいのものだ。
妙な気持ちがじわじわと体中から湧き出すのを俊も晃も感じていた。
だが、その瞬間、二人はいつもとは違う違和感を感じた。


(ん?何だこの髪・・・)
(あれ・・・?髪がない・・・・)


お互いがそう思った瞬間、同時に目を開いて、自分の腕の中にいる女と、隣で抱かれている女を見比べた。

「うわっ!!違う!///」
[す、すまねぇ」

二人の男の慌てように、蘭世と翠もえっ?と顔をあげると、そこには自分達の彼とは違う顔があった。

「あ、あれっ?」
「うわわわ、ご、ごめんなさい!」


「おまえなぁ・・・」
そういって晃は翠の腕をひっぱった。
俊も黙って蘭世を引き寄せる。


「だって、びっくりしちゃったんだもんねぇ・・・」
翠はエヘヘと頭を掻きながら蘭世の方を見た。
「う、うん」
蘭世も苦笑いをしながら答えた。
4人の間に先ほどの甘い雰囲気とは全く違うなんともいえない沈黙が流れる。
甘い雰囲気とは言っても、それも間違いであったのだから、甘い雰囲気という形容はおかしいのかもしれないが・・・。





その後は、お互いのカップルで手をつないだまま、難なくお化け屋敷をクリアした。
二人の女性は、先ほどのアクシデントは当に忘れ去ってしまったかのように、
再度、どっぷりとお化け屋敷の雰囲気に浸かって、事あるごとに悲鳴を上げていた。

(・・・・・女ってヤツは・・・)

俊と晃はまたはぁ〜とため息をついた。
その行動がまたしても同時であったのに、お互いが気づき、目を合わせながらまたふっと笑った。





「それじゃぁ、今日は楽しかった〜。また遊ぼうね」
「うん、またね〜☆さよなら。」

夕暮れの中、
翠と蘭世は携帯の番号とアドレスを交換し合ったあと、新しい友達に別れを告げた。

「んじゃな」
「あぁ」

晃と俊も交わした言葉は少なかったものの、お互い好印象をもったまま、手を掲げた。
一回、飲んでみても面白いかもな・・・とお互いが同じように感じながら・・・・





夕焼けに背中を照らされながら翠と晃は置いているバイクに向かって歩いていた。

「楽しかったね。晃。新しいお友達もできたし♪」
「意気投合してたな。お前ら。」
「でも、晃も真壁くんといい感じだったよ♪」
「んだよ。いい感じって・・・気色悪いこと言うな!」
「あははは・・・・・・でもさ、お化け屋敷で間違って真壁くんに抱きついちゃったじゃん?
あのときさ、真壁くんなんていったと思う?」
「ん?」
「『おまえなぁ、見慣れてるだろうが・・・』って言ったんだよ?蘭世ちゃん、霊感強いのかなぁ・・・?」
「ふ〜ん、でも、そういえばあの男も全く怖がってなかったな・・・」

ふと心にわいた疑問に二人で首をかしげながらもバイクに到着したと同時に「まぁいっか」と微笑みあって、
二人でバイクに乗り込んだ。







あとがき


たーこさんのリクエストは

「遊園地でデートする王子と蘭世ちゃん」で、その際、「天使なんかじゃない」の主役カップルと競演
俊と蘭世が遊園地デートをして、お化け屋敷に入ったところ、二人の先に晃&翠がいて、恐怖から女性二人は、
悲鳴を上げてそれぞれの相手に抱きつく。
男性二人も彼女をしっかりと抱きしめるが、蘭世は晃に、翠は俊に抱きついていることに気付き、慌てふためく両カップル

というものでした。


話の内容は、そのままご意見を取り入れてみたのですが、これは・・・・難しかったぁぁぁぁ。
同時進行している二つのカップルを書くのは、難しいですね〜^^;
うまく書けなくて、どちらも中途半端になってしまいました。
ぎゃーー、たーこさん、ホントごめんなさい。
時間をかけた割にはこんなものになってしまいました。
しかもちっとも甘くないし・・・^^;

しかも、私の中で俊と晃は似たもの部類に入っているので(勝手な判断)セリフも似てきちゃうし、
自分で書いてても、これ、どっちのセリフだ?なんてわからなくなってました(汗)

「天使なんかじゃない」を読んだことのない方は、ちょっとわかりにくいものになってしまったかもしれませんが、
この機会にぜひ読んでみてくださ〜い(←回し者か!!)
ときめき同様、胸キュンさせられちゃいますよん♪

たーこさま、リクエストありがとうございました。
こんな仕上がりになってしまいましたが、13000の記念にどうぞご笑納くださいませ。




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