リアル





大通りから少し路地を入ったところのビルの地下にある小洒落た店で

若い男女達数十人が、久々の再会に誰もが盛り上がっていた。

今日はあけぼの中学校、3年B組の6年ぶりの同窓会である。

働いているものあり、進学中のものありで

多種多様な顔ぶれだったが、それぞれがそれぞれの思い出に身を浸し

遠い記憶を呼び起こしていた。



今年の春、高校を卒業した俊も蘭世もプロボクサーとケーキ屋の店員という道に進んでいる。

そして、例外なくこの場で、懐かしい旧友たちと楽しく時を過ごしていた。



「それにしても、蘭世と真壁くんが一緒にやってきたのには驚いたわよねぇ」

「ほんとー。中学の時だって二人して突然留学とかでいなくなって・・・。

怪しいって言ってたんだよね」

「あ、怪しいだなんて・・・ナハハ・・・たまたまよ」

蘭世は級友たちに取り囲まれて質問攻めになっていた。

それもそうである。

当時から転校生としてやってきた蘭世と俊とそして曜子は、何かと目立つ存在で

それが、突如として学校に来なくなったわけだから

(曜子はいたりいなくなったりだったのだが・・・汗)

話題の種としては十分だったし、そしてその俊と蘭世が6年の時を経て一緒に姿を見せたことは、

その場にいた一同にとって、驚きは隠せなかった。



「二人はつきあってるの?」

輪にいた一人が蘭世に尋ねると、蘭世は「えっ!?」と顔を赤くさせた。

「いや・・・なんというか・・・///」

「でも神谷さんは相変わらず真壁くんにまとわり付いてるみたいだけど・・・」

別の誰かが放った言葉に蘭世はガクリと頭を垂らした。

見ると、少し離れたテーブルで、曜子がいつものごとく俊の腕にからみつき、

別の男子が俊に話しかけるも、それに自分が答えるような具合で、

そこにテーブル一帯は曜子を除いた誰もが大きくため息をついていた。

「神谷さんめーー。お酒の席だからって見逃してはいたけど・・・あの態度は・・・!!」

と、蘭世は唇をかんで曜子をにらみつけた。

そんな蘭世をよそにまた級友が問いかける。

「ねえねえ、この6年間ってずっと真壁くんと一緒だったの?」

「えっ・・・あ、それは・・・えっとぉ・・・」

「じゃあさ、じゃあさ・・・真壁くんと初めてキスしたのっていつぐらい??」

「はっ!?」

「あ、それ私も聞きたかったんだー」

「でしょー?まさか、ただのお友達だったってことはないでしょーよ」

「ちょ、ちょっとなんでそう話が飛躍するのーーー?」

「何もないとは言わせないわよ!」

「ほら中学時代って、真壁くんって硬派なイメージだったでしょ?

その真壁くんがいつ、どんな風にそういうことするのかなーって興味あるじゃなーい」

「さぁ蘭世!白状しろっ!!」

「ちょ、ちょっと待ってよ///」

蘭世はこれでもかっていうくらい顔を赤らめて動揺した。

しかし、照れまくりながらもふと考えた。



キスか・・・。

私の中ではあの夢の中でのキスが最初なのよね・・・。

でも真壁くんは夢の中の真壁君だったわけだしぃ。

となると、あの口封じのアレ。。。かな?

でもでも!その前にも一度してくれようとしたよね!うん、覚えるし!

うわーー!!!ヤダ!蘭世ったらはずかしーーー!!!



頭の中で勝手に興奮が爆発した蘭世はバシバシと隣の友達の腕をなぐりつける。

「ちょ、ちょっと蘭世!イタイんですけど・・・」

「え゛っ!?あ、ご、ごめん・・・」

「蘭世ったら、何妄想してるのーーー!!」

「やらしぃーぞー」

「ち、ちが・・・そうじゃなくて・・・どれが本物かを・・・」

そのとき、「オイ!」と背後から声がしたかと思うと、蘭世は首根っこを掴まれて引っ張り上げられた。



「えっ!?ま、真壁くん!?」

ん?心なしか怒ってる・・・?

「帰るぞ」

「えっ?もう?」

「悪いけど連れて帰るから・・・」

「「「あ・・・は、ハイ・・・」」」

その場にいたメンバーが一同にして背筋を伸ばしうなづく。

「行くぞ」

「う、うん・・・みんなごめんねー、じゃあまた〜」

俊に引きずられるようにして蘭世は苦笑しながらその場を後にした。

「二人して消える・・・か」

「やっぱつきあってるってことよね」

「ていうか、真壁くんってもしかして亭主関白っぽい?」

「そういえばよく神谷さんから逃げられたわね」

そういって全員が俊たちのいたテーブルを見ると

そこには酔いつぶれて爆睡中の曜子の姿のみがあった。

「な、なんとなく可哀想かも・・・ね・・・汗」

そしてみんなが大きくうなづいた。





「真壁くん、ちょ、ちょっと・・・待って・・・ゼイゼイ。。。」

公園に入ったところで、蘭世は我慢できずに言った。

息を乱した蘭世を見て俊は掴んでいた腕をパッと離して立ち止まる。

「どうしたの・・・?突然・・・」

「お前・・・」

「えっ・・・?」

「・・・その・・・夢の中の・・・ってどういうことだ?」

「は?」

きょとんとして蘭世は首をかしげる。

「さっきお前が考えてたことだよ!!」

「・・・・・はっ!! 何?真壁くん読んだのーーーーー!?」

「読んだんじゃねぇ!聞こえたんだ!!」

「バカバカーーーー!!!知らない!!!」

蘭世は俊の胸を両手でバシバシと叩く。

「お前こそ!まさか、また俺の夢に入ったんじゃねえだろうな!」

「違うもん!それはもうずいぶん前に謝ったでしょーー」

「・・・てことは、まだ生まれ変わる前の話か・・・どんな夢かまだ聞いてなかったよな!話せ!」

蘭世の両手を掴んで俊は問い詰める。

「イヤ!言わない!」

その俊の手を振り切って蘭世はしゃがみこむ。

「俺の夢だぞ!俺には聞く権利がある!」

「ダメダメ!絶対ダメ!」

「俺に隠し事は無駄だって言ってるだろ!」

「イヤ!読まないで!」

「だったら話せ」

「うぅぅ・・・ダメ・・・やっぱり言えないわ!」

「ったく・・・俺が昔見た夢だよな・・・」

俊は顎に手を当てて頭の中の記憶を探る。

蘭世はそーっと俊の顔を盗み見る。

「・・・・・・!!」

俊の顔が何かに思い当たった顔に瞬時と変化する。

「ま、まさか・・・アレ・・・」

ドキーーーー!!!蘭世の髪の毛が逆立った。



考えれば考えるほど、あの時の夢は不自然だ。

蘭世がジムに入ってきて、そのあと、自分はモンスターだの吸血鬼だのとぶちまけた夢だ。。。

そして・・・・・・・

俊の顔はサァーーーーっと血の気がうせる。

あの頃の自分は、まだ人間で、魔界だの吸血鬼だの、そんな話信じてもいなかったし、

考えてもいなかった。

なのに、その後そういう世界に身をつっこむことになることの偶然性。

そして、先ほど蘭世が頭で考えていた台詞・・・。

あの夢の中で俺はコイツに・・・。



「アレは俺じゃねえぞ!」

「お、覚えてるの・・・?あの夢・・・」

「忘れられるわけねえだろ!」

「えっ・・・」

「いや・・・///ご、誤解すんなよ。お前が吸血鬼だとかいうからだなぁ」

そうだ。

あの後俺は生まれ変わったのだから、その夢について話すことも思い出すこともなく

今まできていたが、よく考えたら、あの夢は・・・。



「ご、ごめんなさい・・・。」

「・・・///」

「でも・・・でもね・・・私は・・・私にとっては最高の思い出なの・・・」

蘭世は両膝を両腕で抱きしめながらボソリとつぶやいた。

「所詮、あれは真壁くんの夢であって、確かに本物の真壁くんじゃないけど・・・

モンスターでも、私は私と、真壁くんが認めてくれたような気がして・・・うれしかったんだぁ」

そのしゃがんだ姿のまま蘭世は夜空を見上げる。

「あのときも・・・こんな夜で・・・ってあれは宇宙だったっけ・・・クスクス」

俊もあの夢を思い出す。

誰もいないところに行きたいってコイツが言って・・・。

あのときの蘭世の姿を思い出す。

あのときの蘭世は・・・本物のコイツだったのか・・・

だから目覚めた時、あんなにリアルで。

夢の中の自分に意識が働いていたのかどうか・・・それはわからないが・・・

あのときの蘭世のやわらかさと唇の感触は今でもはっきりと思い出せる。

儚げで、想いがイヤってほど伝わってきて、

たぶん、俺はそうせざるを得ないほどに、コイツに心を奪われたのだ。



「わかったよ・・・」

「え?」

「もういい」

「怒ってないの?」

「怒ることでもねえし」

そういって俊も蘭世の目の前にしゃがみこんだ。

「でも、今また夢に入ったら怒るぞ!」

「は、ハイ・・・もうしません!」

「でも・・・お前がどう思おうが勝手だが、・・・アレはやっぱり俺じゃねえ」

「・・・うん・・・そうだね・・・」

蘭世は地面に視線を落とす。

「・・・だけどさ・・・」

「え?」

「たぶんだけど・・・あのときの気持ちは・・・本物だったかもな・・・」

「真壁・・・くん・・・」

「たぶんさ・・・たぶん・・・もし、俺が魔界人じゃなくて、あのまま過ごしてても・・・」

「・・・・・」

そういって俊は蘭世の頭に手を回して、その潤んだ唇にそっと口付けた。

心地よい静寂が二人の周りを優しく包んだ。

そして、しばらくそうしたあとそっとお互いが唇を離した。

「何回目・・・かな・・・?」

蘭世が少し涙でにじんだ瞳でにこりを微笑んだ。

「さぁな」

俊は少し照れくさそうにその辺りに落ちていた石ころを掴んで弄んだ。

「帰るか・・・」

そういって俊が立ち上がる。

「うん」

蘭世は立ち上がったのと同時に俊の腕に抱きついた。

「なんだよ」

「だって、さっきずっと、神谷さんに占領されてたんだもん!今からは私のなの」

ふっと俊が笑う。

蘭世も笑った。

そして、二人はそのまま更けた夜の中に静かに消えていった。








<END>







あとがき

いかがでしたでしょうか。
あの夢の話をずっと書きたいと思っていたんですが、
きっかけがなく今の今までほったらかし状態でしたので
この機会に書きました。
思った以上に難しかったぁ。。。
しかも、王子語りすぎダヨ!!!
蘭世じゃないけどこんなこと言われたら私だって死んじゃうわ・・・。
蘭世ちゃんは少し大人になったのできちんと受け止められていますが☆

しかし、年齢設定がやっぱりよくわからん・・・。











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