新しい呼吸




どこか遠くから聞こえてくる小鳥のさえずりで俊は目を覚ました。

まだ意識を朦朧とさせながら、仰向けになり何気なく天井を眺める。



ん?どこだっけ?



見慣れない天井の模様、そして部屋の景色。

意識の満ち干きと繰り返しながら、ゆっくりと思考が戻ってくるのを待つ。

そして何度目かの覚醒で、俊はパチリと目を開け飛び起きた。



そうだ!江藤んち!



ベッドから起き上がってカーテンを開ける。7時過ぎ。いい天気だ。

窓の外を眺めながら俊は大きく一つ伸びをした。

魔界での戦いが終わって江藤家で居候をさせてもらうことになり、早3日が経っている。

自分の身の上に起こったことをそれなりに考えていた。

常識ではありえない話。本当に長い夢を見ていたような気になるが、

今までになかったこの星型のアザと妙な能力が身についていることを思い知った今は

それが現実であるということを認めざるを得ない。



無言のまま俊は能力を使ってハンガーからパーカーを引き寄せた。



まぁ便利っていやぁ便利なんだけど・・・



俊は手にしたパーカーをポイとベッドに投げ出し、自分ももう一度ドサリと倒れこんだ。

今は自分の運命ってヤツを受け止めることでせいいっぱいで、

今後どうしていくかも何一つ見えてこない。

流れでこの江藤家に身を寄せることになったが、それもいつまで甘えていていいものか。

かといって、母親のいる(今は父も弟とやらもいるが)魔界で暮らすというのも

自分の中ではいまいちピンとこなくて・・・

俊は大きくため息をついた。



魔界人でも、王子でも・・・俺は俺なんだ。



だが、母をいつか幸せにしてやるということを志してきたというのに

その意思は今や大きく揺らぎつつある。



魔界にいれば、オヤジだってアロンだっているんだし、何の不自由もねえよなぁ

何か俺らしく生きる道を探さねば。。。



俊は目を閉じた。

この数ヶ月のことをゆっくりと思い出す。

そしてその一つ一つの風景の中には決まって蘭世の姿があった。

泣き顔もあれば、必死な表情もあったが、すぐ浮かんでくるのはやはり笑顔だった。



俺なんかのためにあんな大王を敵に回しやがって・・・(オヤジだったわけだが)



今この姿に戻って改めて蘭世をバカだと思う。

でも何故か、ずっと側にいた女性が彼女であったということにどこかホッとしている自分がいた。

出会った頃から不思議なヤツだとは思っていたが、まさか同じ人種だったとは・・・

そういえば、以前星型のアザとかも聞いてやがったな。

人間時代に体験した不思議な出来事が今やっと一つ一つが繋がっていく。

きっといつもアイツがいろんなとこでからんでいたのだろう。

そう思うと俊は可笑しくなった。



その瞬間、階下で何やらけたたましい音が微量の振動とともに響いた。

それと同時に蘭世の悲鳴と椎羅の叱声がここまで突き抜けてくる。

どうやら何かをひっくり返したようだ。



アイツめ・・・



バカなヤツ・・・と俊は笑った。

そして一瞬静かになると、階段を上がってくる足音が聞こえてきた。

俊はよっと起き上がった時、トントンとドアをノックされた。

「真壁くん?起きてますかー?」

そっとドアが開いて蘭世が顔を出す。

「あぁ。・・・なんだ? 台所ではお役ゴメンか。」

そういった俊に蘭世がさっと顔色を変える。

「き、聞こえてた?」

無言で俊は頷く。

「アハハハ・・・ちょっとスープの鍋をひっくり返しちゃって・・・」

「台所を追い出されて起こしに来たと・・・」

「グッ・・・ま、まぁそんなトコデス」

「ったく、いつもながらおっちょこちょいなだな。お前ってヤツは」

「だ、だってぇ・・・」

しおらしく俯く蘭世を見て俊はクスリと笑う。

記憶の中にある頼りになるおっかない姉ちゃんと、

目の前でしょんぼりしているこの女が同一人物だということに未だ馴染めないが、

それでもこの数ヶ月で彼女の存在がこんなにも大きくなっているということが分でも何となくわかる。

彼女が抱いてきた不安だとか苦悩だとか、元の姿にまで戻った今、それがわかる。

何歳の時代だったか、「そのとき俺も好きだった?」と問いかけたことがあった。

好きとか嫌いとか・・・そういう意味もよくわかってはいなかったが、

「嫌いじゃなかった思う」という答えはやはり正しかったんだと思う。

あの頃・・・まだ生まれ変わる前のあの時、

俺は・・・確かに・・・そう・・・今ほどではなかったとしても・・・

コイツのことを・・・



「真壁くん?」

黙ったままの俊に蘭世はきょとんとした顔で覗き込んだ。

俊はハッと我に返り、思わず蘭世から視線を外した。



どうかしてるぜ。俺は・・・



こんなこと今まで考えてこともなかったのに、

いろんなことがあったからだろうか。妙に感傷的になってしまう。

「どこか具合でも悪いの?」

「・・・」

誰のせいだ!誰の!

「いや。ていうか、俺着替えたいんだけど、お前見たいのか?」

「いっ!?」

蘭世はボッと顔を真っ赤にさせて「ち、違うわよ!」といって部屋から飛び出していった。

ふっと息を吐く。

これ以上ここにいられたら手に終えない感情が俺を支配してしまうところだった。

まだアイツの前では優位に立っていたいんだよ!俺は!

ガバッと着ていたパジャマを脱ぎ捨てる。

星型のアザが目に入る。

魔界の王子の証・・・か・・・。

王子でも何でもいい。

ただ、もうアイツを苦しませることがなければいい。

ずっと守られてきた。これからは・・・



俊は見えない志がふっと身に走るのを感じた。

グルングルンと腕を回し、パーカーの袖に腕を通し、身支度を整え俊は部屋を出た。

新しい生活はまだはじまったばかり。。。







END




あとがき

書きたいことがよくわからないまま終わってしまいました。
しかもわけわからない終わり方で・・・スミマセン。
俊が大王との戦いの後、蘭世んちに居候した頃のお話です。
3日後という設定ですが、ホントただの設定だけで
何にも本文にはからんでませーーん。
所詮こんなものです・・・(開き直り)









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