薄暮のあと







中学時代の俊×蘭世です。
「37.夏の夕暮れ」の続編です。(そちらから読んでくださいね☆)
ただし、視点は俊視点になってますので☆
原作は相変わらず無視デス。。。スミマセン























急きょ、一緒に行くことになった蘭世との夏祭りは、まだ夕暮れ時だったが、すでに大勢の人が神社の境内に訪れていた。

そしてその隣にある広い公園では中央にやぐらが建てられ、まだまばらではあったが、

徐々に盆踊りの輪ができつつあった。

蘭世は初めて目にする夏祭りに心躍らせながらキョロキョロと眺めていた。

制服だとまずいからと一度家に帰って着替えてはきたのだが、

周りはみんな浴衣姿が多いことに蘭世はとても残念がっていた。




「みんな浴衣着てるね。私も浴衣にすればよかったな〜」

蘭世がそういうのに何でも一緒だって答えると

「もう。女心がわかってない!」と蘭世はぷっと膨れてしまった。

実際何を着ていたって中身は一緒なんだからとそう思っただけなのに

女はすぐこんな風にすねるから、つい女なんてめんどくせぇと思ってしまう。

それでも蘭世のこういう態度は何故か他の女とは違うどこか許せるものがあった。

「はいはい、すみませんねぇ」とだけ軽くかわしたが、蘭世の怒りも見せかけだったようで

すぐニコニコした笑顔に戻っていた。







単に話の成行きのようなもので祭りにくることになったが、蘭世のこんな嬉しそうな笑顔を見ると来てよかったと思う。

蘭世が自分の発する言動によってふと悲しい表情を見せることに俊はいつからか気づいていた。

そしてその表情を見たとき、自分の胸がギュッと締め付けられるような感覚を覚えることにも・・・。





この痛みが一体何なのか・・・。

それを自分に問いかけたことはまだない。

いや、何度かは問いかけようとはした。

しかし、正解が出るのかもわからなかったし、またその答えがでたとき、自分がどうなってしまうのか

想像すらつかなくて恐怖にも似た思いが走るのだった。

ただ、答えが出ようが出まいが、蘭世によって自分が徐々に変化していっていることはまぎれもない事実だった。

それは自分の意志とは関係なく、ついそうしてしまう・・・ついそういってしまう・・・。




今回のことだってそうだ。

自分はただ単に補習が終わったことに安堵し、解放感しかなかったものだから

蘭世が寂しがっていることに気づいてもいなかった。

だから彼女が今にも泣き出しそうな顔になったのを見て面食らったともに、また自分が何かくだらないことで

傷つけたのではないかと焦ったのだ。

しかし彼女が落ち込んでいる原因を知った時、心臓が大きく弾けそこからその周囲がほんわり温かくなり、

その温かみが顔のほうにまで達してくるのがわかって慌てて蘭世に背を向けてしまった。

背を向けて自分の気持ちを悟られないようにしながら考える。

その時ハッとした。



(そうか・・・始業式まで会わねえのか・・・)



そう思った時、蘭世の気持ちがなんとなくわかった気がした。そうしたらふと口をついて出てしまったのだ。






祭りのことは少し前から頭にあった。

神社は俊の登校途中にあるし、準備しているのも目にしていたのだ。

毎年この時期に行われる夏祭りは子どもの頃はよく行っていたけれど、最近では遠のいていた。

しかし、実は今朝ふと思ったのだ。



・・・アイツも祭りとか行ったりするのか?・・・って。



俊にとっては珍しいことだ。

祭りとそれを結びつけたものは蘭世の姿だった。

その時はホントにふと思っただけでまさか自分が誘うことになろうとは思いもしていなかったが、

もしかしたらずっと心にひっかかっていたのかもしれない。

蘭世の鈍い反応に苛立ちと恥ずかしさに耐えかねてまた気の利かない誘い方をしたものだと自分でもあきれたが、

そんなことは蘭世には何の関係もなかったようで、それまでとは打って変わった嬉しそうな顔に思わず言葉を失った。

それくらいのことでそこまで喜ぶなんて思いもしなかったから。。。

そしてその表情を見た途端、白くて細いその腕を引き寄せて抱きしめてしまいたくなった。

気持ちを抑えることには慣れているが、このときほど抑えに難儀したことはなかった。

それでも自分の気持ちを確かめる勇気はまだ出ない・・・。





   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






境内へを続く参道の両脇にはたくさんの夜店も出ている。

赤みを帯びた明りが暗くなりかけた辺りをほんわりと照らしていた。

蘭世はその迫力に面食らうばかりだ。

「うわ〜」

思わずこぼれた感嘆の声に俊はふっと笑った。

「こどもみてぇ」

その言葉に蘭世はポッと赤くなる。

「だ、だって・・・こんなの初めてで・・・」

その恥じらった仕草に俊はまた心臓がコトリと動くのを感じた。

今日はいったい何度目だ・・・と小さく息をはく。

自分の調子が狂うのは疲れるが、それをイヤだと思わない。

ただ、イヤだと思わない自分にもまた調子が狂う。

それが今日は特にひどい。

とにかく自分の動揺に気づかれるわけにはいかないから俊は「ほら行くぞ」となんでもないフリをした。





    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





蘭世の腕には金魚の入った透明の袋。

中身は俊がとってやったものだ。

「お前、どう考えても下手くそすぎるだろ」

蘭世は自分で7回挑戦した。しかし、2回目、3回目・・・と進めても蘭世は失敗の経験を活かせることなく、

あっけなくポイはものの数秒で見事に破けてしまうのだった。

8回目に挑戦しかけた蘭世を俊は見かねてそれを制した。

このまま挑戦し続けても金魚屋を手放しに喜ばせるだけだと自分が代わった。

自分もそれほど得意なわけではないが、7匹ほど軽くすくえた。そのうちの意気のいいのを5匹もらって

それを蘭世にやったのだ。



「真壁くん、すごいね〜」

先ほどからその言葉を繰り返す蘭世に俊は

「だからお前が下手すぎるの」

「コツをつかむ前に真壁くんが取り上げちゃったんだじゃない」

「7回もやってつかめねえんじゃ100回やっても一緒だよ」

「そんなことないもん」

そういいながらも蘭世は「あ、あれならできるかも」と行って射的の店に駆け寄った。

「おい。走るなよ」

そういって蘭世の後をあきれながら追いかける。それでも蘭世はとても楽しそうだし俊も実際楽しかった。

こんなに祭りが楽しく思えたのは何年振りだろう。







「見ててよ。真壁くん」

そういいながら射的の銃を蘭世が構える。

「その構え、なんだ?」

蘭世がまたけったいな持ち方で銃を構えている。

「ダメ?」

「こうだろ」

そういって俊が蘭世の腕を背後からつかむと、蘭世はびくっと硬直した。

その動悸がこちらにまで伝わってくる。

(な、なんだよ)

照れくさくなってさっさと身構えさせると俊は蘭世から離れた。

「こ、こうね。ありがとう。じゃあ打つよ」

パンっと弾けた銃弾の行先は的に何の変化も起こさせなかった。

「ぶっ・・・お前、どれ狙ったんだ?」

思わず噴き出す俊に蘭世は真っ赤になる。

「あの赤くて四角いヤツ・・・でも今のは感覚の練習だからもう一回ね」

弾は3個ある。まあ初めてなんだしと真剣なまなざしの蘭世を見守るが

真剣にしているほどおかしくなってくる。

そして案の定2個目も大きく外れる。



「くくく・・・」

笑うと怒るから声を殺して笑うがもちろんばれる。

「もう!次は必ず!」



   * * *




結局計9弾試したものの、的にはかすりもせず蘭世はがっくりちうなだれた。

「貸してみろ」

俊はそういって蘭世から銃を奪う。

「どれがいい?」

そういうと蘭世はピンクの丸の置物を指定した。

俊が狙いを定める。そして打った瞬間、その的はパタリと後ろに倒れた。

「わっ!すごい!一発で?」

「次は?」

俊は得意げな顔で蘭世にほほ笑んだ。




   * * *




「すごーい。3発とも当てちゃった」

「ざっとこんなもんだ」

俊は3投目も的確に当てた。

射的は小さいころから得意だったから腕には自信があったのだ。

蘭世からの称賛を浴びていると的屋の店主が箱をもって近づいてきた。

「兄ちゃん、景品はどれにする?」

そういって店主が景品の箱を見せた。

中にはいろんなおもちゃや小物など雑多に混じって放り込まれていた。

俊はざっと見渡したがとりわけ欲しいものがあるわけでもないし、

射的そのものがしたかっただけだから蘭世にいった。

蘭世も興味深そうに隣で覗き込んでいたからだ。



「お前、選んでいいよ」

「え?私?いいの?」

「ああ」

「じゃ、じゃあねぇ・・・」

といいながら蘭世は真剣に景品を選び始めた。

そして小さく「あっ・・・///」ともらした。

「何だ?」

「あ・・・えっと・・・どれでもいいの?」

「あぁ・・・別に俺いらねえし」

「じゃ、じゃあ・・・これ・・・」

そういって蘭世は袋に入った何かきらっと光るものを手に取ると、そのまますくっと立ちあがった。

「これ!これいただきます!おじさんありがとー」

そういって蘭世はその場から駆け出した。

「あ、ちょ、ちょっと!おい!」

俊は瞬時に顔を見合わせた店主に軽く頭を下げて走り去る蘭世を追いかけた。




   * * *




人ごみから少し外れた先で追い付いて俊は蘭世の腕をつかむ。

「待てよ!何だよ急に。はぐれても知らねえぞ」

そう怒鳴りながら蘭世の体を自分の方に向けると蘭世は真っ赤な顔で俊を見ていた。



「・・・・どうした?」

「・・・ううん」

そういって蘭世は首を横に振ったが納得できるはずもなく、胸の前で握りしめている両手をつかんだ。

「何を選んだんだ」

そういうと蘭世はかたくなに手を握りしめる・

「見せろよ」

「やだ」

「俺がとった景品じゃねえか。見る権利はある」

「真壁くんが選んでいいっていうから・・・これは私のモノ!」

「バカ!別に欲しいなんて言ってねえだろ。何か見せろよ。気になるじゃねえか」

「だ、だって・・・あきれるもん。絶対!」

「それは見てから俺が判断する」

「だめーー」

「うるさい」

そういって俊は蘭世の指を力づくでこじ開けた。

そこには・・・・・







透明の袋に入った銀色の小さなおもちゃの指輪があった。

赤い小さな石がキラリと光った。

さっき目に入った光はこの石だった。







思わず言葉を見失う。

ぼーっと見ている間に蘭世はまたぎゅっとそれを握りしめて俊に背を向けた。

「そ、そりゃ、私が勝手に選んだものだけど、真壁くんがとってくれたことにかわりないから・・・」

「・・・」

「お、お守りにするの!全部あてちゃったんだもん。ほら、何かいいことあるかもしれないし・・・」






俊は蘭世の言葉を黙って聞いていた。

女性が指輪を欲しがる理由はいくら恋愛に無頓着な俊でもピンときた。

それがどういう意味なのかわかってしまったからどう答えていいのかわからなかった。

だが、その蘭世の背中がひどく愛しくて俊の心臓はまた大きく鳴り続いていた。

蘭世が指輪を選んだことに、そしてそれを恥じらいながら隠す仕草も

何もかもが俊の心を捉えてしまった。

自分をこんな風にかき乱す蘭世に腹が立つ。

しかし、その怒りの奥に湧き上がる甘い疼きを抑えるのに俊は必死だった。

蘭世の気持ちは知っていた。

以前面と向かって告げられたことがある。

なんとなくなかったことにしてしまったけれど・・・。

あの時とおなじ。

抱きしめたがる腕を押さえる。

抱きしめてしまうのが怖いのだ。







俊はゆっくりと息を吐いた。

全身を駆け巡る動揺と緊張と焦燥を息とともに吐き出して気持ちを整える。

そして蘭世の肩をつかんでゆっくりと振り向かせた。

まだ真っ赤な顔をして俯いている蘭世を見た。

鼻の奥がツンとする。

肩に乗せた手を引き寄せるとたぶん簡単に蘭世の体はこちらに倒れてきそうだった。







しかし、そうするのはなんとなくまだ早い気がした。

俊は手を蘭世の肩から外しそのまま右手でポンポンと蘭世の頭を撫でた。

はっと蘭世が上を向く。

きょとんとしたその表情に幾分俊の心は持ち直した。





「ホントこどもみてぇ」

「・・・なっ・・・///」

「別に逃げなくても」

「だ、だって・・・恥ずかしかったというか///」

「置き去りにされた俺の方がよっぽど恥ずかしいだろ」

「あ・・・ご、ごめんなさい」

蘭世の顔がさっと青ざめる。

コロコロと表情を変える蘭世を見ているとホント飽きない。

多少心を乱されることはあるが、それはそれで厭わない。

俊は自分の気持ちがゆっくりと開けていくのを感じていた。

そしてその奥にある気持ちの答えが少し見えかけていることも・・・






「ま、おこちゃまにはそのおもちゃで十分だな」

「な、・・・なによぉ・・・」

再び顔を赤くして怒る蘭世に俊はフッと笑って左手で蘭世の右手を取った。





「・・・えっ・・・///」

パッと蘭世が俊を見つめた。

しかし、俊はそっとその視線から瞳を逸らせた。

「お前、絶対迷子になるからな」

そういってつかんだてのひらを引いて歩きだした。




心臓はまだうるさいくらいに動いている。

それでも今はこのつないだ手を放したくなかった。

汗ばんでも、あともう少しだけ・・・





あたりはいつしか暗くなっていて見上げると星が瞬き始めていた。

見上げながら気持ちを落ち着かせる。

ホントはこの腕を引っ張って胸の中に抱きこんでしまいたいけれど・・・

俊はつないだ手をもう少し強く握りしめるので精いっぱいだった。













<END>





あとがき

いかがでしたでしょうか。
ウブウブですね。
王子いけ!そこだ!って思われた方は私だけじゃないかと思われますが・・・^^;

王子らしさを失わないようにそれでも甘くもしたい・・・
そんなkauの妄想でございました☆

もっと砂吐き状態を期待されていた方には申し訳ありません・・・(逃)
ヘタレ王子をどうぞお許しください(人のせいにする私)

夜店遊びが得意な男子って憧れる〜☆
あんまり見たことないというか・・・
自分自身あんまりしたことないんだな^^;






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