「えっ?花火大会?」蘭世はきょとんとして答えた。
「そう。知らない?津良川の河川敷で毎年8月3日に行われるの。」
そう答えたのは生徒会長でもあり蘭世の友人でもあるゆりえだった。
「知らなかった〜・・・、あはは、私ってそういう情報に疎くって・・・汗」
「うふふ。。私も今年はやっと克と行けるわ。去年までは行けなかったし・・・」
「そうなんだ〜。ほんとよかったね〜。ゆりえさんと日野君、もう公認ラブラブだもんね〜vv」
「もう蘭世さんったら〜///蘭世さんも真壁君といってらっしゃいよ。すごく規模も大きいし、きれいよ。」
「真壁君行ってくれるかな〜、、、ていうか、3日って何曜日だっけ、、、木曜日じゃないの〜!!!
(がっくし)」
「だめなの?」
「真壁君、その日は部活が終わったら、そのままバイトなのよお・・・」
うなだれたまま蘭世は答えた。
「頼むだけ頼んでみなさいよ。だめもとじゃないの。せっかくだしねvvv」
「・・・そうだよね。お願いっ!!て頼んだらしゃあねえ〜な〜とかいいながらバイト休んでくれるかもしれないよね〜」
「そうそう。がんばって。」
「うん!がんばってみる。ゆりえさんありがと〜」
一目散に蘭世はかけていった。。。
「(早い・・・・)」くすくす。ゆりえは微笑みながら蘭世の後姿を見送っていた。
部活も終わり、帰る準備をしながら蘭世は俊が部室から出てくるのを外で待っていた。
(・・・がんばってみると言ったものの、真壁君が花火大会なんかのためにバイトを休んでくれるのかな・・・、なんてったって生活がかかってるし・・・そう思うと下手に頼みづらいよね・・・でも真壁君と花火見に行きたいし・・・はああ)
「・・・何やってんだ?」
「ま、真壁くん!はははおつかれさま」
「おう。帰ろうぜ。腹へった・・・うちでなんか作ってくれよ」
「あっ、そ、そうね。うん!なにがいい?・・・・・・」
二人は家に向かって帰り始めた。
今日はうるさい陽子の姿はない。学校の交換留学生に選ばれ、オーストラリアに2週間の短期留学に出かけていた。
(チャンスは今よね・・・・、神谷さんもいないし・・・)
蘭世がそぉっと俊のほうをみた。
俊もちらりとこちらを見る。
(どきーーーーーっ!!)
「何だよ。さっきから・・・言いたいことがあるなら言え!でないと読むぞ!」
「あっ!また読んでるの!ひどーーい!」
ふんっ!と蘭世はそっぽ向いた。
「おまえがあんまり大きい声で?考えるから聞こえちまうって言ってんだろ?何だよ。」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・(よしっ)あ、あのね、真壁君、来週の木曜日ってやっぱりバイトだよね。」
「来週の木曜?何日だ?3日か?そうだな、コンビニのバイトの日だな」
「そ、そうよね〜、・・・休むなんてわけには・・・」
「ん?あ〜いつも木曜はバイトは俺一人だからな、店長だけになっちまうし。よっぽどのことでないと休むわけには・・・・。何だ?その日何かあるのか?なんなら聞いてみるけど」
「あっ!いい!いい!何でもないの。う、うちで食事でもしないかな〜なんて思っててて、り、鈴世もなるみちゃん呼ぶってい、言ってたし。。。あっでもいいの。まっ、次の時にでも・・・・」
「ふ〜ん。いいのか?何かあるなら・・・」
「いいの、いいの。こっちはいつでもいいんだから。。。」
(そうよ、わざわざバイト休んでもらうなんて、責任感の強い真壁君にそんなことさせられないわ・・・それにこれからいつでもいけるじゃない・・・ん?これからいつでも・・・?きゃ〜〜、なんて大胆な蘭世!・・・)
二人の姿を勝手に思いめぐらす蘭世・・・・陶酔の世界に落ちていった。
(何なんだ、こいつは。また一人で妄想しやがって・・・変なやつ。ぷっ、まあいいっか)
横目で蘭世を見ながらため息混じりで微笑む俊であった。
そして花火大会当日・・・
「じゃあ、行ってきま〜す」
「遅くならないうちに帰るのよ」
「はあい」
階下で鈴世と椎羅の声がする。
「何?鈴世出かけるの?は!まさか花火・・・・?」
「そうだよ。なるみちゃんと行くんだ!vvあれ?お姉ちゃん、お兄ちゃんと行かないの?」
地雷を踏む鈴世。
「うっ・・・!真壁君はねえバイトなの!お仕事なの!ちゃらちゃら遊んでられないのよ!」
「無理しちゃってえ・・・頼んで休んでもらえばよかったのに〜」
「いいのよ!花火なんていつでも見れるんだから!真壁君に休ませるわけにはいかないの!さっさと行きなさいよ!なるみちゃんが待ってんでしょー!」
「あわわわ・・い、行ってきまーす。お姉ちゃんリンゴ飴買ってきてあげるよ。好きでしょ?じゃあね」
「さっさと行け〜!・・・・もう鈴世のやつ〜。生意気なんだから・・・」
「蘭世ったら。。。ほんと真壁君にお願いすればよかったじゃないの・・・行きたかったんでしよ?」
椎羅が言った。
「だって〜〜・・・真壁君必死で働いてるのに、迷惑かけたくなかったのだもん・・・」
「蘭世・・・あんたって子は・・・」
椎羅は苦笑しながら蘭世の肩に手を置いた。
「そうね、、、じゃ、また真壁君にお弁当差し入れしなきゃね。おなかすかせて帰ってくるんでしょ?
今日はお母さんも手伝ってあげるわ」
「ほんと?よぉ〜っし!じゃあ今日は真壁君の好きなハンバーグをいれよっと!」蘭世は早速キッチンにかけこんでいった。
(蘭世・・・)
椎羅もにっこり微笑んで蘭世のあとにつづいた。
一方、俊の働くコンビニでは花火大会帰りの人でごった返していた。
「何だ?今日は。祭りでもあったのか?」
蘭世の言っていた「3日の木曜」の話はすっかり忘れていた俊だった。
「おや?真壁君知らなかったのか?今日は津良川である花火大会の日だよ」店長が俊に話しかけた
「花火?そっかどおりで・・・さっきの音も花火の音か・・・」
「あっれ〜?真壁〜。」
とレジで声をかけたのは日野とゆりえだった。
「よお」
「何?お前のバイト先ここだったの?っていうか、お前、今日花火行かなかったの?」
日野が尋ねた。
「行くも行かないも、たった今花火があったことを知ったとこだよ」
「えっ!?」
日野とゆりえは顔を見合わせた。
「でも私、蘭世さんに今日の花火のこと話したけど・・・。真壁君を誘うって言ってたから、てっきり・・・彼女言ってなかった?」
ゆりえは首をかしげて言った。
「江藤に?それいつの話だ?」
「一週間ほど前かしら」
(・・・あっそういえば家で食事するとかゆってたな。あの時か・・・・あいつ。何で言わなかったんだ?)
「まあ、江藤のことだ。お前のために我慢したんじゃねえの?早く帰ってやれよ。んじゃあな」
「また明日学校でね」
「・・・ああ。」
二人はお金を払って出て行った。
(そんなイベント真っ先に行きたがるやつなのに。・・・あのばか。一言言やあいいのに・・・)
「あっ!お兄ちゃん!」「こんばんは」
今度は鈴世となるみだった。
「鈴世・・・何、お前らも花火か?」
「何だ。お兄ちゃん知ってたの?花火の話。てっきりおねえちゃん言えてないと思ってた」
「ああ、さっき知ったんだ。今日の花火のこと」
「あっ、やっぱり?だろうと思った。なんかお姉ちゃん家でしょげてたからさ。お兄ちゃんには休ませられないとか行っちゃって。」
「江藤のやつ、気使いやがって」
「僕、やつあたりされちゃったよ。あ、そうだ僕、おねえちゃんにりんご飴買ったんだ。これおにいちゃんにあげるからさ、お兄ちゃんからお姉ちゃんにあげてよ。そのほうがお姉ちゃん喜ぶよ」
ウィンクしながら鈴世は俊にりんご飴を渡した。
「じゃ、早く帰ってあげてね。じゃあね」
鈴世となるみは帰っていった。
客の足もまばらになってきて、そろそろ俊もあがる時間になってきた。
(あいつ・・・落ち込んでそうだな・・・)
俊は蘭世も様子を思い描いていた。
(あいつのことだ、はあああ〜とかためいきなんかついて・・・俺も俺か、肝心なとこ読んでなかったしな・・・あいつに花火のこと言わせられなかった俺も悪いか・・・)
「はああ〜」
俊はふとため息をもらした。
「ぷっ。。。」
後ろで店長が息を殺して笑っていた。
「彼女が気になるかね?まあ今日はもう人も少なくなってきたし、これであがるといい。早く彼女のところにいっておやり」
「あっ、いえ、大丈夫です。もう少しですし、時間までいます。」
「でも早く行きたいと君の顔に書いてあるよ。そのりんご飴も早く行きたがってるようだ」
店長は俊のそばにおかれているりんご飴に目をやった。
(////)
ぼっと赤くなる俊。
「あっ、そうだこいつも持っていくといい」
といって店長は花火セットを俊に渡した。
「あっいえ、いただけません。」
「私から君の彼女へのプレゼントだよ。君を大事な日に働かせてしまったお詫びのしるしさ。ほら持っていきなさい。大事にしておあげ。」店長は軽くウインクした。
「・・・店長。・・・すみません。ありがとうございます。じゃあ、今日はこれで、、、失礼します。」
ぺこりと頭を下げて俊はコンビニを出た。
夜風が妙に心地よかった、
「たっだいま〜」
江藤家には鈴世が帰ってきた。
「すっごくきれいだったよ。花火。お姉ちゃんも来年は絶対行きなよ。」
「大きなお世話ですぅ。あっ、それはそうと鈴世、りんご飴は買ってきてくれたの?」
「あっ、あ〜りんご飴ね〜。知り合いに会ったからその人にあげちゃった〜。ごめんごめん」
「なんですって〜!鈴世ったら鈴世ったらひど〜い。ばか〜ふんだ!」
蘭世はすねて部屋に戻ってしまった。
「蘭世に買ってこないなんて、鈴世にしてはめずらしいわね。よっぽど珍しい人にあったの?」
椎羅は尋ねた
「ん〜、まあね。その人にあげたほうがお姉ちゃんのためだと思ってさ。えへへ、もうすぐきっといいことがおこるよ」
鈴世はにこにこして答えた。
椎羅と望里が首をかしげながら顔を見合わせた。
「何よ。鈴世ったら鈴世ったら。。。どうせ実の姉より彼女や友達のほうが大事なんだから。いいもん。
真壁君もそろそろバイト終わる時間だし、お弁当もっていこうっと」
とそのとき蘭世の携帯が鳴った。
「江藤?俺。」
「ま、真壁君?あれ?どしたの?今日は少し早いね。バイト終わったの?」
「ああ、ちょっと早めに終わらせてもらったんだ。お前、これからちょっと出れるか?」
「え?(真壁君が呼び出してくれるなんて珍しいな)あ、うん。今からお弁当持っていこうと思ってたし。」
「じゃあ、おまえんちの前にいるから出てこいよ」
「え?うちの前にいるの?」
「ああ、じゃな」
プッと携帯が切れた。
なに?どうしたの真壁君。何かあったのかな・・・。
「ちょっとでかけてきま〜す」
蘭世はたたたと階段を駆け下りて玄関を飛び出した。
「あっ、ちょっと蘭世!?」
「大丈夫だよ。おかあさん。お兄ちゃんだよ。絶対」
「え?でもまだいつもより早くない?」
「今日は特別さ」
といって鈴世はにこっと笑った。
「真壁君!」
「よお」
「どうしたの?何かあった?」
「・・・・」俊は黙っている。
(あれ?真壁君なんか怒ってるのかな?黙っちゃってるし・・・)
「ちょっと歩こうぜ」
「・・・うん。」
黙ったまま俊は蘭世の手をとって歩き出した。
「!?///」
(ま、真壁君が手をつないでくれた!!うわーっ、うわーっ)
まっかっかになる蘭世。
(こいつって、、、そんなに俺が好きなのかよ)
とあきれながらも、俊は真っ赤にうつむく蘭世をみて口元をほころばせた。
(公園?)
俊は蘭世を公園に連れて行った。
「さっ、始めようぜ」
(え?始める?始めるって、こんなとこで、何を?ま、真壁君・・・?)
「な、な、何?何を???///////////」
さらに真っ赤になる蘭世。
「ば、ばか。花火だよ、花火。何考えてんだよ」
蘭世の思考を瞬時に読み取って俊はつられて顔を赤らめ、あわてて否定した。
「へっ?花火?」
「そっ。お前、この前ホントは今日の花火に誘うとしたんだろ?」
「ぎくっ!な、なぜそれを・・・」
「はっきり言やあ良かったのに。早く言えばバイトだって休めたのによ、妙な気使いやがって」
「だ、だって、真壁君、忙しそうだったし、そんなことで休むの好きじゃないでしょ?」
「時と場合によるよ。まあいい。せっかく持ってきたんだから、やろうぜ。」
と俊はしゃがみこんで、花火の袋をガサガサと開けだした。
「・・・うん!」
(こうやって真壁君が来てくれただけでもうれしい!ほんと幸せ・・・はあと)
蘭世も俊の横に座って一本の花火を取り出した。
「でも花火は楽しいな〜真壁君が一緒だとさらに楽しい。えへへ。なんちゃって」
「そうか?」
「そうだよ。鈴世なんか自分だけなるみちゃんと花火大会行っちゃって。お土産買ってくるっていったくせにそれすら人にあげたっていうのよ。まったくもう。」
「ほぉ〜、お土産ね。。。」
「わっ、見てみて。真壁君。これすっごくきれ〜い」
「うわっ、お前、花火の先こっち向けるなよ。危ねえじゃねえか。」
「あ、ごめん、ついつい、あはははは」
「まったく、ガキなんだから」
「うっ、ど、どうせいつまでもガキですよ〜だ」
「・・ぷっ。さ、あとは線香花火だけだな。ほら、つけてやるから落とすなよ。」
「うん、ありがとう」
線香花火のほのかな明かりだけが周りを照らした。
パチパチパチパチ・・・・
「きれ〜い、ね、真壁君」
「ああ」
俊は蘭世を見た。蘭世はにこにこして線香花火の先を見つめていた。
「・・・江藤、、、悪かったな。今日のこと気づいてやれなくて・・・」
「えっ?あっいいの。いいの。ぜんぜんいいの。花火だって毎年あるんだし、違うところでもまた別の花火大会だってあるだろうし。いつだっていけるもん。それに・・・」
「それに?」
「こうやって真壁君が一緒に花火をしてくれることのほうがうれしい・・・
蘭世は俊の方を見てにっこり微笑んだ。花火のあかりにほんのり照らされた蘭世はきれいだった。
「江藤・・・」
(グチひとつ言わねえで・・・こいつにはかなわねえな)
「江藤。」
「ん?」
俊はそっと蘭世のほほに手をのばした。
(ドキッ!!)蘭世の鼓動が早まる。
(真壁君・・・)
ぽとっ。
線香花火の先が地面に落ちて、明かりは暗闇の戻る。
その瞬間、俊は蘭世の口元にそっとキスを落とした。
静かな風だけが二人をやさしく包んでいた。
「さっ、帰るか。親父さんたちもあんまりおそいと心配するからな」
「うん。真壁君今日はありがとう。あっ、そうだ。これ、今日のお夜食。ハンバーグ入りよ」
蘭世は赤い布で包んだお弁当箱を差し出した。
「おっ、サンキュ。実はハラぺこぺこなんだよ」
「くすくす。よかった。」
「じゃあ、お前にはこれ」
俊は透明の袋に入った赤色の飴を蘭世に渡した。
「あっ、りんご飴!どうしたの?これ。私大好きなの〜♪」
「天使がお前に届けろってコンビニに置いてったんだよ」
「天使?」
「そっ。かわいらしい天使だよ。礼ゆっとけよ」
「・・・あっ、鈴世・・・」
にっと俊は微笑んだ。
蘭世も肩をすくませて笑った。
蘭世の家に着いた。
「じゃあおやすみなさい」
「ああ、おやすみ、また明日な」
俊はじゃっと手をあげて、走っていった。
蘭世は俊を見届けて、玄関の扉を開けた。
「たっだいま〜、鈴世〜〜〜♪」