大切な人








            真壁家の家族モノのお話です。














「ただい・・・」

「どうしてダメなの!?」

「どうしてもだ」

「そんなの理由になってないよ!」

「ダメに決まってるだろ」

「だからどうして!!」

「うるさいな・・・騒ぐな」

「うぅぅ・・・もうお母さんからも言ってよ」

「そうね・・・でもまだ早いんじゃない?お父さんがダメならダメよ」

「もう!お母さんまで!私絶対行くからね!」

卓が部活から帰ってきてリビングのドアを開けると愛良が父、俊に食って掛かっていた。

しかし、見たところその甲斐もむなしく全くとりあってもらっていないようで・・・



「なにやってんの」

「あぁ、お帰りなさい。卓」

母、蘭世は卓の帰宅でふっと表情を和らげた。


「愛良がねぇ・・・海に行きたいって言ってるの」

「海?それで、オヤジがダメだって?いいじゃん、海ぐらい」

「それがねえ・・・」

そういうと蘭世は苦笑して言葉を濁した。

母に続きを聞こうとする前に愛良の声でその続きが聞こえてきた。



「新庄さんだってせっかく大学もバイトも夏休みなんだもん。こんな機会ほんとにないの!お願い!行かせて?」

両手を合わせて必死に懇願する愛良だが、俊の方はそしらぬ顔でテレビを黙って眺めている。


「コーチとかぁ・・・なるほど、それで」

卓はふっと首をすくめて蘭世に含みのある視線を送った。

蘭世は苦笑を残したままで夕食の準備を進める。

「ほらほら、話はそれくらいにしてご飯にしましょ?卓も帰ってきたし」

「おお、うまそ。腹減ったぁ・・・早くしろよ。愛良」

愛良はキッと卓を睨みつけて不機嫌なまま食卓についた。



「ダメダメって、なんでダメなのかわからない。新庄さんが悪い人じゃないってことぐらいお父さんだってわかってるでしょ?」

「しつこいぞ」

「そんなに私も新庄さんも信用ないの?」

「・・・」

「ねえ!お父さん!」

その時、俊がついにキレてガシャンとテーブルをたたきつけた。



「いいかげんにしろ!!」

一瞬にして誰もが動きを止め、部屋中が静まり返る。

そしてそれを機に、愛良が目に涙を溜めはじめ、勢いよく席を立つと部屋を飛び出していった。

「ちょっと愛良!?」

「ほっとけ」

「でも・・・」



かわるがわる両親を見ていた卓は、一息ついて、残っていたご飯とおかずを口に一気にかきこむと

「ごっつぉーさん」と席を立った。

「あ・・・卓」

「はいはい。様子見てきますよ」

そういって後ろ手に手を振ると部屋を出た。





廊下の窓から外を見ると、さっきまで晴れていた空が一気に雨模様になっていた。

「わかりやすいヤツ・・・」



「おい、愛良?入るぞ」

愛良の部屋をノックして卓は部屋に入った。

愛良はベッドに打ち伏したままで泣いている。

卓はそのまま椅子に腰をかけた。



「オヤジも頑固だけどお前も相当だな」

「・・・お父さんなんか大きらい」

「まあそう言うなよ。お前を心配してのことなんだから・・・わかってんだろ?」

「何が心配なの?別に家を出るとか言ってるわけじゃないのに。

ただ海に行くだけだよ?それも日帰りなんだから・・・」

「それがオヤジだろ?」

「意味わかんない」

「お兄ちゃんはココお姉ちゃんとデートしたりしてるじゃない。なんで私はダメなの?」

「お前がまだ子どもだからだろ?」

「子どもじゃないよ!もう中学生だよ」

「自分は子どもじゃないって言ってるヤツが子どもだったりすんだよ」

愛良は泣きながら卓を睨みつける。

気が強いのは父譲りか母譲りか・・・

卓はふうと大きく息を吐いた。



「お兄ちゃんはお父さんの味方なんでしょ?」

「そんなんじゃねえよ。ただ、オヤジの気持ちはわからなくもない」

「私にはわからない!」

愛良はそういってバッと立ち上がって変身の紐を取りだす。

「おい!どこ行く気だよ!」

「おじいちゃんとこ!!」

そう言い放つと愛良はプイと顔を背けて一瞬にテレポートした。



卓はもう一度深く息をついて、愛良の気配が江藤家にちゃんと向かったのを確認すると部屋を出た。





*****     *****     *****





「そうか・・・」

望里と椎羅は突然泣きながら飛び込んできた愛良をとりあえず、リビングのソファーに座らせると

そのまま話を聞いていた。

「もっと信用してくれたっていいと思うの。新庄さんだって悪い人じゃないんだから」

「彼がいい青年だってことはお父さんだってわかってるだろうよ」

「だったら、海ぐらいいいでしょ?せっかくの夏休みなの。

なのに、お父さんったら聞く耳持たないって感じで頭ごなしにダメだーの一点張りで・・・ひどいよ」

望里と椎羅は泣きじゃくる愛良を見ながら顔を見合わせる。

そして苦笑まじりに言った。





「お前は本当に蘭世によく似ているね」

「え?」

「そうやって泣きながら想いをぶつけて・・・蘭世の若い頃とそっくりだ」

愛良はヒクッと泣き止んで両祖父母の顔をパチパチっと見比べる。

「おかあ・・・さん?」

「だからこそだよ。お前があまりにもお母さんに似ているからこそ心配なんだよ」

「蘭世も今でこそ貴方達が生まれて落ち着いたけど、私たちもずっとヒヤヒヤさせられっぱなしだったものね」

椎羅も昔を懐かしむような目をしながらそう言った。

「そういった状況を俊くんもわかってるから特に愛良には厳しくしてしまうんだろう」





「でも・・・私とお母さんは違うわ」

「あぁ、そうだね。違うから余計にだ。お前は俊くんの奥さんではなくて娘だからだ」

「娘・・・?」





「親だから守らなければならないという責任がある。大切に思うからこそ。まあ俊くんは確かに頑固なところもあるけどね」

「・・・」

「でもそれだけまっすぐお前を見ているからなんだよ。」

そういうと望里はふっと笑った。



「おじいちゃんもそうだったの?お母さんとお父さんがデートしたりするのをダメだーって言ったの?」

「私か?私はしなかったがこちらはしてたね」

望里はそういって椎羅に顔を向ける。

「あ、あれは真壁くんが人間だったころの話じゃありませんか・・・」

椎羅があわてて否定する。しかし愛良の視線に気づくとふっと小さく笑った。

「そうね。確かにめいっぱい反対して蘭世ともよくケンカになったわね。」

「意外・・・お母さんとおばあちゃんがケンカなんかするんだ。とっても仲良しなのに」

「今思えばやりすぎだったなって思うけど、それも全部子どもを思う親心からくるものなのよ」

「・・・・・」

「俊くんをかみ殺そうとしたこともあったな」

「えええーーーー!!お父さんを!?」

「あ、あなた!!だからそれは!」

「それを思えばお父さんの反対なんか微々たるもんだろう。ハハハ」

「・・・そんな気がしてきた」



「言い合いをしていても仕方がない。お父さんの気持ちもわかっておあげ。愛良ももう「子ども」じゃないんだから・・・」




そういうと望里は軽くウィンクした。

椎羅もうなづきながら微笑んでいる。

愛良はしばらくじっと考えてからコクリとうなずいた。

「おじいちゃん、おばあちゃんありがとう。私・・・帰るね」

「送っていこうか」

「ううん。大丈夫。テレポートするから。遅くにごめんなさい」

「いいや。いつだっておいで。私たちはいつだって愛良の味方だよ」

「うん。ありがとう。じゃあね」

そういって手を振ると愛良はテレポートして消えた。





*****     *****     *****





自宅に戻ってきた愛良はそのままリビングに入った。

そこには俊も蘭世も卓もそろっていて、愛良の登場に一斉にドアの方に振り向いた。。

「愛良!心配するでしょ?勝手に出て行ったりして!」

蘭世は大声で愛良を叱責する。

愛良はしゅんとなって小さくごめんなさいと謝った。

先ほどの勢いが消えているのを感じて蘭世はふうと息をつくと愛良の背中をポンポンと叩いた。

「心配かけないで。さ、さっさとお風呂入っちゃいなさい。」



「お父さん・・・さっきはごめんなさい。今回は、、、海・・・あきらめる・・・」

俊はじっと腕組みしたまま目を閉じていたがそっと目を開け愛良を見た。

「お前を信用してないわけじゃない」

「・・・うん・・・」

「だから・・・ふ、二人だけじゃなければ行ってもいいぞ!!」

「え・・・?ほ、ホント?」

「それが条件だ!俺だって一歩譲ったんだからお前も譲れ」

苦悩な顔を見せている俊を見て愛良はぷっと噴出した。

しぶしぶの了承が顔ににじみでていてそれが逆に子どもっぽく見えて、

愛良はほんわり心は温かくなった。





―――「でもそれだけまっすぐお前を見ているからなんだよ。」





望里の言葉が思い出される。

心配だから・・・でも・・・

それでも行かせてやりたいって思ってくれたんだ・・・




愛良は俊に飛びついた。

「ありがとう!お父さん!!大好き!!」

「は、離さないか!///  いいか約束は守るんだ!」

「うん!そうだ!だったらお兄ちゃんに一緒に行ってもらう!ココお姉ちゃんも!だったら安心でしょ?」

「あら、そうね。それいいじゃない!」

「は、はぁ?や、やだよ!俺。コーチなんかと・・・こっちが落ちつかねえし」

「いや、そうしろ。それが一番いい」

「や、やだって言ってんだろ。愛良お前なぁ!適当なこと言い出しやがって」

「いいでしょ〜。お姉ちゃんだって喜ぶよ〜海vv」

「あぁ・・・もう。。。勘弁してくれよ!」





一難さってまた一難。

真壁家の夜が更けていく。

雲が晴れて夜空に星が瞬きだしたその中で、卓の新たな苦悩がはじまったのであった。







<END>





あとがき

あゆむ様からいただいたリク「家族ネタ」ということで書かせていただきました。
春先にいただいていましたのにもう夏ってことで・・・
遅くなってしまってすみません。季節も変わってしょうがないので夏の場面にさせていただいたんですが・・・

しかも甘くもなく、泣かせるほどでもなく
なんと中途半端なものになったことよ。。。
ご、ごめんなさい・・・
こんなものになってしまいましたがよろしければお受け取くださいませ・・・(T_T)












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