a time of trial











「何かお探しでしょうか?」

出た!必殺営業スマイル!
店内に入り少しショーケースに歩み寄ったとたんにそれは放たれた。

俊は突き刺さるような笑顔の視線にぶつからないように、落ち着いた雰囲気の店内をぐるっと見回した。

店員は一瞬にして俊を見定めると、笑顔が通用しないとわかったのか視線を隣にいた蘭世に向けた。

彼女の判断はズバリ的中し、蘭世はその笑顔にピタリとはまり手を引かれるかのようにツツツと歩み寄った。

「あ、あの・・・結婚指輪を・・・」
まだまだ照れが生じるのか蘭世は顔をぽっと赤くさせながら答えた。




二人の結婚式まであと2ヶ月弱。

着々と準備が進められる中、そろそろ結婚指輪も用意しないとと蘭世に促され、

朝から二人で出かけ、只今3軒目である。



俺は指輪のことなんかわからないからと好きなのを選んでおけと言ってあったのに、

蘭世は一緒に見てもらいたいからといって俊も結婚指輪選びに連れて来られている。



恐らくある程度はしぼっているのだろうが、何で3軒も回らなきゃならんのだ?と

俊は半分機嫌を損ねながらもしぶしぶ蘭世の後をついてきていた。





俊の考えはよそに、蘭世は店員と指輪をあれこれ選びながら何か楽しそうに話している。

およそ、出会ったいきさつやら今後の生活やらで盛り上がっているに違いない。

最初のうちは俊も適当に返事をしていたが、さすがに毎回同じことを聞かれるといいかげんうんざりしてくる。

楽しそうに笑っている蘭世を横目で見て、ある意味感心しながら俊はふぅと息をついた。





「これなんかどう?」

蘭世は銀色で少しねじれたデザインのリングを指差し、俊の方に振り向いた。



「プラチナでございます。マリッジですとやはりプラチナを選ばれる方が多いですよ。」

店員は大きな目をパチパチッと瞬かせて俊にそう勧める。



俊はじぃーーっとそれを眺めてみた。

その近辺に並べられているものもついでに見回す。

ねじれたデザインのモノもいくつかあるが値段が違う。



「何がどう違うんだ?わかんねぇけど・・・」

俊はショーケースの上に両腕を組んでマジマジと眺めてみるが、どうと聞かれても答えようがない。

「どれも同じに見える。お前が気に入ったものでいいんじゃねえか?」

俊は視線をはずさないままでそう言った。



蘭世はそぉ?っと言うと、指輪をあれこれと眺めていたが、じゃあねえ・・・といってあるリングを指差した。

先ほどのと同じようなデザインだったがよく見ると微妙に違う。

「何を基準にしてんだ?」

「このねぇ・・・ここの太さがこっちの方がいいかなぁって・・・」

「・・・?ふ〜ん」

俊はちょっと理解してみようとしてみたが無理だと悟ると反論せずに軽くうなづいた。




「じゃぁ、真壁くん、こっちはめてみて!」

蘭世はその隣に置かれていた指輪を手にとって俊に差し出す。

俊はガクッとひじをケースから落とした。

「な、なんで・・・?」

「私が選んでいいって言ったじゃない」

「だから、何で俺がはめるんだよ」

「だってペアなんだからー。私はこっちをはめるから真壁くんはこのおっきな方」

蘭世ははいっと満面の笑みで俊にもう一度差し出した。



「お、俺はいいよ」

俊は苦笑しながら後ずさりする。

「ダメよぉ。式で指輪の交換しなきゃいけないでしょー」

「・・・・・・うっ・・・汗」



そうか・・・忘れていた・・・

この俺が指輪なんか・・・



蘭世に無理やり指輪を手に渡されたまま、俊は蘭世と店員の顔を交互に見た。

どちらもにっこりと微笑んで大きくうなづいている。






「・・・ここではめるのか?」

「ここではめなきゃわかんないじゃない」

蘭世はプッとふくれて目で「早く」と急かした。

「・・・・・・」



自分で指輪をはめると言うのはなんとなく躊躇する。

どうせなら王の指輪のようにスポッと勝手にはまってくれればいいのに・・・などとどうしようもないことを考える。





「・・・!!まぁいいだろ。これで。だいたいの感じもわかるし。おうこれにしようぜ」

そういって俊はトンッとフェルトの布キレの上にそのリングを戻した。



思いがけないその動きを無言で眺めていた店員が、はっと我に返る。

「しかし、一度はめていただかないとサイズが・・・」

今度は店員が苦笑する。



何とか切り抜けたと思った考えをもろくも崩し落とされ、はぁ・・・と俊はガクッとうな垂れる頭部をひじを突きながら手の平で支えた。

ぷくくく・・・っと蘭世が隣で声を殺して笑う。

「何がおかしい・・・」

俊はジロッと蘭世を横目で睨む。

「べ、べつに・・・」

蘭世はそういいながらも両手で口を押さえて必死で笑いを堪えている様子である。



「サイズを見るだけですから、ねっ」

店員も半分子供をあやすようににっこりと微笑む。



ここまで拒んでしまうと、なかなか次の一歩が進めない。

俊は苛立ちを隠せずに右の人差し指の先でトントントンとガラスをこづいた。



「真壁くん、私がはめてあげようか♪」

蘭世は笑いを堪えながら横向いた俊の顔を覗き込む。



完全におもしろがってやがるな・・・こいつ・・・



俊はもう一度ギロッと蘭世を睨んだ。

「いい。自分ではめる」

よく考えたらなんてことはないんだ・・・

俊は自分の行動がバカらしくなって蘭世を睨んだまま先ほど戻した指輪を手にとって、そのまますっと左の薬指にはめた。



指輪は予想以上にすっぽりと俊の薬指に納まり、照明に照らされてキラッと輝いた。

「うわぁ、ぴったりだね」

蘭世は感心しながらもにっこりと微笑み、「じゃぁ私も・・・」と言って自分もそのペアのリングをはめた。



二人の手を並べてみる。

「よくお似合いですよぉ」

店員は両手を口もとで揃えながら二人の指を眺めた。



俊は自分の左手を見た。

指輪をはめた途端、ぐっと手に重みを感じた。

はめる前はなんとも思わないほどの軽いものだと思っていたのに、このちいさな輪にどんな力があるというのだろう。

だが、その重みはイヤとは感じなかった。

逆にこの重みがここに前からずっとあったかのような、しっくりとはまる想いがあった。

これが結婚するということの力なのかもしれない。





隣を見ると、ちょうど蘭世も俊を見て、視線が重なった。

蘭世はしばらくじっと俊を見ていたが、ふっと口元をほころばせると

「これに決まりだね」とつぶやいた。

「ああ・・・」

俊も先ほどの照れはすでにどこかにとんでしまったかのように自然をそれに答えられた。





「あ、あとそれと・・・・」

蘭世は指輪を店員に返しながら言った。

「中に、
あ、あいらぶゆぅ・・・って入れてもらえますか・・・??」

蘭世は顔を真っ赤にしながら小声で店員に伝えた。





「なっ///お、おぃ!聞いてねえぞ」

隣で聞いていた俊は、ぎょっと蘭世を見て慌てて蘭世の言葉を遮る。

「いいじゃな〜い。せっかくなんだしぃ・・・私のだけでいいから。ねっお願い!」

蘭世は両手を組んで俊に乞う。

俊はちらっと店員を上目遣いに見る。

店員は二人のやりとりを興味津々に見つめている。





とっとのこの場から離れたい・・・・



俊ははぁとため息をついて「・・・わかったよ・・・」

としぶしぶ了承した。




「ホント?ありがとー真壁くん!

えっと、それじゃあ、
あいらぶゆぅ・・・ふろむ・・・しゅん・・・って入れてください・・・

俊はガクッとひざから崩れ落ちる。

「オ、オイ!」

「『I LOVE YOU FROM SYUN』ですね☆かしこまりました。」

店員は顔を輝かせて微笑んだ。





・・・・・ったく・・・・
俊は冷や汗を拭いながらも、相当嬉しそうにしている蘭世を横目で見ると、まぁしょうがねぇな・・・と軽く息を付いてフッと微笑んだ。







<END>







あとがき


大変お待たせいたしました。
さとくーさまからいただいたキリリク作品です。いかがでしたでしょうか〜。
完全にコメディになってます。え〜ん、ごめんなさぁい・・・
待たせまくった割には、kauの技量ではこれが限界でございました。

リク内容は

>結婚指輪を買いに行く(幸せいぱ〜いの)蘭世ちゃんと(照れまくる)王子  in宝石店での二人のやり取り+α」です。
>恐らく、王子は蘭世ちゃんの指輪のサイズを知ってても、自分のは知らないに違いない!
>きっと、普段はしないだろうし、できない(仕事上)からどうでもいい。
>一方蘭世ちゃんはもう、何があってもはめてそうですから、じっくり選びそう。(指輪の裏面の言葉とかも?)

>そんな、ラブラブっぷり!?なやりとりを見てみたいです。(イジメて頂いて結構です。(^^♪))

>宝石店ってかブランド店みたいなところで、そんなオーラが出てたら。。。

ってことでした。
できるだけ答えようとしたんですが、うぅ・・・こんなものになってしまってすみません。イメージ完全に壊しちゃました??
甘めが出せてませんが、そのあたりは行間を読んでいただいて・・・^^;

よろしければ、どうぞご笑納くださればうれしいです。
リクありがとうございました。
お気分害されてなければ、また次の分もどうぞ〜☆



ちなみにkauは普段、結婚指輪をはめてません。別に邪な気持ちがあるわけではないのですが^^;
職場の机に当たってカチャカチャうるさいので・・・^^;
しかもダンナの好みでプラチナではなくホワイトゴールドなのですよぉ。太目のファッション的なものをはめたいというので・・・。
プラチナでは全部細いですからねぇ・・・。
しかも、買い忘れてて、式の1週間前に購入しました^^;一応その前に見てたんですが、目星をつけていたのが売れてしまっていて、
デパートあちこち駆け巡りました^^;あって良かったわ(笑)







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