放課後、体育委員の俊は体育祭に使ったリレーのバトンを体育館に運ぼうと向かっていた。
その体育館の入り口に見慣れた後ろ姿が一人。。。
(江藤?何やってんだあいつ)
蘭世は体育館の中をのぞいたり、また首をひっこめたり、腕をくんでなにやら思案したり、また中をのぞいたり・・・誰かをじっと見たりしている。
「おいっ!」
「わっ!ま、真壁君!」
「さっきからおまえ何やってんだこんなとこで。誰かいるのか?」
俊はひょいと体育館の中をのぞいた。
中にはバスケ部の男子が3人、ボールををうまくあやつりながら立ち話をしていた。
「あいつらに何か用か?」
「え?あっ、ううん。な、なんでもないのよ〜。ま、真壁君こそ体育館に何の用?」
「俺は体育委員。体育館に用があるの。ふつう用がないのはお前のほうだろが」
「あわわわ。いや、あの、その」
「何だよ。怪しいやつだな」
「あ、怪しいだなんて、怪しいだなんて、誤解よ〜、私じゃないのよ。私には真壁君がいるもん、楓ちゃんが・・・、あっ、やば」
っと蘭世は思わず口を押さえた。
「は?何言ってんだ、小塚?」
「いや、そのね。。。。どうせ真壁君には読まれちゃうから言うけど、もう、内緒だよ。楓ちゃんがあの、バスケ部のキャプテンの人のこと好きらしいの。この前聞いてびっくりしちゃった。でね、告白したいけど、彼女がいるかどうかもわかんないし、お願い、聞いてきてとか言われちゃって・・・・」
「ほう、で、またおせっかい焼いて、行ってくるとかゆってはりきってきたわけだ。」
「ぐっ、おせっかいだなんて。。。だってどうしてもって言われちゃったら断れないんだもん。で、ここまできたのはいいんだけど、私、よく考えたら、あの人の名前も知らないし、それになかなか一人にならなくって、ちょっとここで待ってたんだけどね、あははは・・・・・」
「あほらし、そんなこったろうと思ったよ。相変わらずお前は・・・」
「だって〜」
そこにふっとバスケのユニフォーム番号4番をつけたその男性が体育館の入り口まで近づいてきた。
「あれ?よぉ。真壁じゃないか。何してんの?ここで」
「うわっ!」
「きゃっ!(・・・ん?真壁?)」
「・・・いや、ちょっとな」
蘭世はきょとんとして俊とその男子を見比べていた。
「ん?なんだ彼女と一緒か。逢い引きするならもっと人のいないとこでしろよ。こんな入り口でいちゃいちゃしてねえで。」
「ば、ばかやろう。///逢い引きなんかじゃねえよ」
「はっはっは〜じゃあな〜」
とその男子はくるくるボールを人差し指の上で回しながら体育館を出て行った。
「くっそ〜、お前のせいで、俺まで怪しまれたじゃねえか。」
「なんで私のせいなのよぉ、っていうか真壁君!!」
蘭世は思わずむんずと俊の胸ぐらにしがみついた。
「なんだよ!」
「真壁君、あの人と知り合いなの?あの人、真壁って・・・」
「ああ、高杉。バスケのキャプテンだろ?クラブの部長会議でよく席が隣同士になるんだ。結構気のあうやつでさ」
「何よ〜。何で早く言ってくれないのよ〜。」
にかっと蘭世は笑った。
「なんだよ、その笑いは笑かしてんのか?」
「違うよ。もう!真壁君がお友達なら話は早いじゃないのよ。ね、真壁君、彼女がいるかどうか聞いてきて。お願い。」
「は?やだよ。めんどくせ。」
「お願いよ〜真壁君。私を助けると思って。。」
「お前を甘やかすと調子に乗るからな。だめだ。自分でなんとかするんだな。あっ、クラブさぼるなよ。じゃな。」
「あっ真壁君、待ってよぉ。もう意地悪なんだから。」
さっさと歩いていく俊をふくれっつらでにらみつけながら、蘭世は考えていた。
「高杉くんか〜。でも名前はわかった。真壁君の友達なら話がスムーズに行くかも。よ〜し、あきらめないぞ〜。楓ちゃん待っててね・・・」
蘭世のおせっかい虫はますます大きくなりつつある。
その日の夕方、
「蘭世のやつ、結局部室に顔出さなかったわね。あんのやろ〜。俊、あんな子ほっといて帰りましょ」
陽子がいつものように悪態をついていた。
「・・・」
(あいつまだ体育館でねばってんじゃねえだろうな。)
「あーーーーっ!蘭世!あんなとこに。こらーっ、蘭世。マネージャーが部活に顔出さずにどういうことよ!」
陽子が吠えた。
「あっ。」
蘭世は楓と一緒に中庭のベンチで話し込んでいた。
「ごめんなさい」
「あ、真壁君、ごめんね。私が蘭世を引き留めてたの。怒らないで。ほら蘭世、じゃ、そういうことで。また明日ね」
「あ、楓ちゃん、がんばろ〜ね〜」
「な〜にががんばろ〜ね〜だ。ね、俊こんな子ほっときましょ」
「ごめんなさいってばあ。明日からちゃんと行くから」
ぎゃーぎゃー、陽子はまくし立てている。蘭世はそれに答えている。
「あっ、お嬢さん、お迎えにあがりやした。」
陽子の使用人、惣が迎えにきていた。
「何よ。いいわよ。私は俊と帰るんだから。」
「いや、そういうわけには。。来客がお越しになってて、親分からお嬢さんを早く連れて帰ってこいとのお達しで・・・」
「え〜!?。やーよ。わ〜、俊〜!」
あわただしく陽子は車に乗せられ帰っていった。
「はああわただしい人・・・」
蘭世はくすっと笑って言った。
「真壁くん、今日ごめんね。怒ってる?」
「別に。どうせ、高杉のことで、くだらん作戦でもたててたんだろ?」
「あ〜くだらんって言った〜。この作戦はばっちりよ。ふふふ。見ててよ〜真壁君。」
ふ〜、俊は蘭世をあきれ顔で見た。蘭世は思いっきり意気込んでいる。でもそんな蘭世を見るのは俊もホントは嫌いではなかった。
「しゃあねえな〜、明日はちゃんとクラブ顔出せよ」
(ま、こいつらしいけどな。人のことで、そこまで一生懸命で)
「うん!」蘭世はにっこり微笑んだ。
数日後、
今日は部長会議のため俊は会議後、一人で校門に向かって帰っていた。
そのとき、背後から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「真壁〜。」
「ん?なんだ高杉か」
「よっ。お疲れ。それにしてもお前、ほんと初々しくねえのな。ほんと1年か?」
「悪かったな」
「くくく。おもしれえやつ。相変わらず、ぶっきらぼうだな。彼女に愛想つかされるぜ」
「ほっとけ」
「でもいいよな。お前はちゃんとした彼女がいて。今日は一緒じゃねえのか」
「ああ、まあな。・・・そんなちゃんとした彼女に見えるか?」
「そりゃそうだろ。いつも一緒にいるしさあ。とても入り込める雰囲気じゃねえぜ。まあ、あのげじ眉の女は別として。ははは。あの子もエネルギーあるよな。モテる男は憎いね〜。このこの。」
「あいつらはあれでいいんだよ。中学のころからだからな。」
(でも俺等ってそんな風に見えてんのか。まあそうかもな。それなら江藤ももっと自信持ちゃーいいのにな)俊はふっと笑った。
「余裕の笑みかよ〜。むかつく野郎だぜ。」
(なんだ?こいつ彼女いねえのか。じゃあ小塚ラッキーじゃん。)俊は蘭世とのやりとりを思い返していた。
「それはそうとさ、折り入って相談があんだけど・・・」
「相談?俺に?」
「ああ。実はさ、お前の彼女さ、よく小塚さんと一緒にいるじゃん?あれって知り合いなの?」
「えっ、小塚?(なんでここで小塚かでてくんだ?)あ、ああ。あいつも中学から同級生だったんだ。」
「は?同級?なに?お前年ごまかしてんの?」
「ばっ、ごまかしてんじゃねえよ。///ちょっと事情があってな」
「ふうん、そっか〜。どうりで初々しくないわけだ」
「うるせえ」
「じゃあ、タメならなおさら好都合だ。」
にかっと高杉は笑った。
「ん?」
「小塚さんって、彼氏とかいんのかな?」
「・・・いや。いないと思うが。。。何で?」
「何で?そこまで言わすのかよぉ〜〜〜〜///・・・あの子いいじゃん。いっつも花壇に水やってんだよ。なんか気になっててさ〜、そしたらよく一緒にいる女子はなんとお前の女!なんて俺はついてるんだろ〜って思ったね。へへ」
「ぷっ。お前、江藤みたいなやつだな。」
「へ?」
「いや、こっちの話。」
「それでさ、どうなのかな〜っと思ってさ。」
(なんだ、こいつらじゃあ両思いじゃねえか。やったぞ、おい)
心の中で俊は蘭世に話しかけていた。
「ふうん。話しかけてみれば?」
俊はがんばってポーカーフェイスをくずさないまま言った。
「えっ!!////そんなこっぱずかしいこと出来るかよ〜お前、簡単にいうなよ。」
「そうか?そうでもないと思うけど?あんがいうまくいくかもしんねえぜ」
「何で?何で?なんでそこまで言い切れるんだ?」
高杉はすがるように俊の胸ぐらをつかんだ。
(なんだ、行動まで江藤そっくりだな・・・)
親しみを覚えて、俊はふっと笑った。
「俺に聞くより、本人に聞いた方がいいと思ってさ。んじゃがんばれよ」
じゃあなっと俊は手をふってその場をあとにした。
(なんかこういうの楽しいな。やばい、俺まで江藤に似てきてねえか?まっいっか。)
スキップしたいきもちを押さえて小走りで俊は家路に急いだ。
(江藤のやつ喜ぶだろうな〜〜)
楓より蘭世のことがきになっていた俊だった。
「あっ真壁ぇ・・・」
高杉はしばらく立ちつくして考え込んでいたが、よしっと気合いを入れ直して、校舎の方に舞い戻った。
次の日の朝、
「真壁君、おはよう」
ろうかで俊を見かけた蘭世は走り寄って声をかけた。
「おす。」
にやりと笑って、俊は蘭世を見た。
「ん?なあに?今日はなんだか楽しそうね。何かいいことでもあったの?」
「いや、お前の顔がおもしろくてよぉ」
「な、ひどーい、なによそれ」
ばしばし、蘭世が俊を軽くぶった。
「いてえな、冗談だよ。近いうち、きっとうれしいことあるぜ。お前にも」
「何?何?何があるの?」
「言わねえ。」
「何でよ。そこまで言うんだったら教えてよ〜。気になるじゃない」
「・・あっ!!」
「え?何?」
「・・・じゃあ小塚に聞くんだな」そういうと俊はあれっといってあごで中庭を指し示した。
「えっ?楓ちゃん?」
隣には高杉の姿があり、ふたりで花壇のそばに座って楽しそうに話し込んでいた
「あ〜〜〜!!高杉君。どうなってんの?あれ〜いつの間に。。。まさか楓ちゃん告白・・・?でも昨日はそんなこと言ってなかったのに〜。おっかしいな〜。昨日のうちに何があったんだろう。」
腕を組んで蘭世は首をかしげている。
「くっくっく」
「なに?真壁君何か知ってるの?何?何よもう、教えてよ〜」
「別に何もねえよ。ただ、お前と小塚が友達で、俺と高杉が友達だった。あ〜よかったなってことだよ」
「はあ?なに?わけわかんない。もう真壁君、自分だけわかった顔してずるいんだから〜。」
きゃあきゅあやりとりしている二人を花壇の二人は見上げていた。
「あの二人に感謝ね」
「ああ、まったく」
二人はにこっと微笑みあいながらこれからの時間に気持ちをふくらませていた。
あとがき
蘭世と俊というのは、カップルとしての理想像ではないでしょうか?
(まあ少なくとも私には(^^;))
特に誰もがんばったわけじゃないけど、(一番がんばったのはオリキャラ汗)
二人の存在自体がキューピッドの役割を成していることを表現したくてかきました。
表現できてるかな。