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「え?俊おにいちゃんが風邪?」

制服を着替えて2階から降りてきた鈴世はバタバタと走り回っている姉に言った。

「そうなの。この前魔界に行った時アロンが風邪を引いててね。

それが移っちゃったみたいなの」

蘭世はいそいそと風邪だの氷枕だの思いつく限りの必要なものを大きめのトートバッグに詰めていた。

「大丈夫なの?」

「うーん・・・そんなに熱はないみたいだったけど」

「ふーん。だったら一人でいるより家に連れてきたほうがいいんじゃないの?」

「そういったんだけど、真壁くんがいいっていうし」

「そう・・・それにしても王族の人たちも風邪って引くんだね」

蘭世は一瞬立ち止まって鈴世と目を見合わせる。

「・・・・・・」

「だって王室の人たちは不死身でしょ?」

「・・・魔界の風邪なら引くんじゃない?」

「魔界の風邪?」

「・・・よくわからないけどぉ・・・とにかく風邪なのよ。それじゃあ行ってくるね」

蘭世はそういって家を出て行き、鈴世は手を振ってそれを見送る。

「風邪か・・・。移らなきゃいいけどね・・・」

鈴世はそういってリビングに入っていった。




*****     *****     *****





「真壁くん、大丈夫?」

蘭世が俊のアパートについたとき、俊はゲホゲホと咳でむせ込んでいた。

「・・・あれ・・・来ちゃったの・・・?おまえ」

俊は涙目になりながら布団から顔を覗かせる。

「だって、病気の時に一人じゃ大変でしょ?」

そういって、蘭世は寝ている俊の側に座り込むと、そっと額に手を当てた。



「熱い・・・熱上がってるんじゃない?真壁くん・・・大丈夫?」

「ん・・・大丈夫じゃない・・・かも・・・」

俊は目を閉じたまま小声でつぶやく。

蘭世は不謹慎だと思いながらも胸をドキリとさせた。

こんな俊を目にするのは正直始めてかもしれない。

実際、風邪を引いたのだって始めて見たし、それにこんな・・・弱気なトコなんかみたことなくて。。。



・・・・・・意外とかわいいカモ・・・・・



蘭世はそう思うとフッと口元をほころばせた。

でも、ダメダメ・・・こんなこと考えてちゃまた読まれて怒られちゃうな。。。

チラッと蘭世は俊の目を見る。

しかし、俊は熱のせいか少し朦朧としていて思考を読むにまでは至ってないようだった。

その時、蘭世はふとあることを思い出した。





―――魔界人は風邪を引くと能力が消える―――





・・・もしかして・・・真壁くんも能力消えたりするのかな・・・・?

蘭世はそぉ〜っと俊の顔に自分の顔を近づける。

だが、俊はその気配に気づくこともなく眉間に皺を寄せ、目を閉じたままである。





・・・普段なら絶対気づくはずだよね・・・





蘭世は俊に顔を近づけたままじっと俊の様子を凝視する。

でも、ただだるくて、気づかないフリをしてるだけかもしれないし・・・



・・・・・こういうときは・・・・・・



コチョコチョコチョ・・・・

とお決まりのように、心の中でくすぐってみるが反応は一切ない。

蘭世は姿勢を元に戻してフゥと息をついた。

「何やってんの?私・・・」

蘭世はフッと笑うともう一度俊を眺める。



・・・無防備だなぁ・・・



蘭世は辺りをキョロキョロとなにげなく伺うと、ニタリと微笑み、俊の額にそっと唇をよせた。

その時、



ゲホっ・・・ゴホゴホっ!!!



と俊が突然咳をしだしそれと同時に頭が枕から上がる。



ゴッチーーーーンっ!!!



「イッターーーイっ!」

蘭世は鼻に俊の額があたり、その痛さに俊の上に倒れこんだ。



「ゲホっ・・・な、なんだ?お前・・・」

「え・・・っとぉ・・・なんでも・・・ない」

鼻をさすりながらエヘヘと笑う。

「あれ・・・?ぶつかった?悪い・・・」

「だいじょうぶ・・・」

と蘭世がいった時、ふと耳からというより頭の奥から俊の声が響いてきた。






―――あ〜あ・・・せっかくこいつ来てんのに・・・体動かねえ・・・咳も止まねえし―――



「え?」



―――・・・キスしてぇ・・・でも風邪移すとダメだしなぁ・・・―――




「えぇ!?ま、真壁くん!?///」




「な、なに・・・?」

突然の蘭世の悲鳴にも近い声に驚いて俊も目をギョッとさせる。





「・・・・・・な、なんでもない・・・」








・・・こ、声が・・・聞こえるぅぅぅーーーーー!!!・・・









どういうこと!?どういうこと!?

真壁くん、しゃべってない・・・よね・・・

これって・・・これって・・・もしかして・・・

私、心読んじゃってるぅーーーーー???

し、しかも・・・真壁くんってば・・・

なんてこと考えてんのよぉぉぉ///



蘭世は突然の出来事にのたうちまわる。

幸い、俊は意識が遠ざかっているおかげで、そんな蘭世の様子にはまだ気づいていない。



で、でもこれは・・・



とってもラッキー・・・なことなのでは???



蘭世はふっと考えを頭の中でめぐらす。

ちょっと・・・試しに・・・・



「ねぇ・・・真壁くん・・・」

「・・・んー?」

「あのさ・・・わ、私のことどう思ってる・・・?」

「はぁっ!?な、何言ってんだ!急に///」

―――な、なんだコイツ唐突に・・・。そんなの言わなくてもわかるだろ―――





って。。。思考もそんな感じなの??

俊の心に耳を?傾けていた蘭世はガクッと肩の力が抜ける。

でも、めげないぞ!





「じゃぁ、もし、ある人が私に言い寄って着たりしたら、どうする?」

「別に?・・・ゲホゲホ。。。そんな物好きいんのか?」

―――なんだ?また。誰か言ってきてるのか?まさかまた筒井とか?

―――ま、いい気はしねえが、コイツが他に行くわけでもなし・・・―――





な・・・すっごい自信・・・

少しムカッとしたものの、そういう風に思ってくれてるのは何となく嬉しくもあり・・・。





―――蘭世は俺だけのモンだし―――






ドキーンっ!!!

ら、蘭世って・・・・・言った!!!???






蘭世は心臓が大きく鳴りだす。

そんなこと普段は絶対口にしない俊の心がわかって

蘭世の鼓動が飛び出しそうなくらい早く動き、収まらない感情があふれ出しそうで涙目になる。





どうしよう・・・



これは・・・う、嬉しいけど・・・



心臓に悪いっ!!!





俊はチラリと蘭世を見る。

「どうしたんだ?お前」

いつもとどこか様子の違う蘭世についに気づき俊が声をかける。



「え、あ・・・あの・・・ごめん。。。なんでもない」

「・・・そこ痛えんじゃねえの?赤くなってんぞ」

そういって俊は先ほど自分の額がぶつかった蘭世の鼻を指でつまむ。

シーンとした空気が流れる。

「ちょ、ちょっと真壁くん・・・イタイ・・・」

「え?あれ?」





―――なんで治んねえんだ?―――






「あ、それは、風邪引いて、能力消えちゃってるから・・・」

「・・・・・ん?」

俊はそれまでトロンとさせていた目をパッと見開き蘭世を見つめる。





―――今、俺・・・口に出したっけ?―――





「あっ・・・」

蘭世は思わず口を両手でふさぐ。

その反応を見て俊がさらに目を見開く。



「お、お前まさか・・・今・・・」

「あ、あの・・・」

蘭世はその時、風邪で能力が消えた後のことを思い出した。

その風邪によって自分の能力が他人に移ってしまうということを・・・。





―――な、なんで?なんでだ?―――





俊の動揺交じりの思考が蘭世の頭にとめどなく流れ込んでくる。





・・・ど、どうしよう・・・





俊の気持ちが知りたいってずっと思ってきた。

俊のように気持ちを読むことができたらってずっと・・・。

だけど、今、その能力がどうやら備わってしまったらしい。

実際にそういう境遇に立たされた今、蘭世は戸惑っていた。

こんなにまっすぐ気持ちってのが入ってくるなんて思ってなかった。

いつも自分の考えを読む俊に怒ってばかりいたけど、

まさかここまでだとは・・・。

俊の方をチラリと見るとバチッと目が合う。

俊はピクッと左眉を上げるとバッと布団を頭からかぶって反対側を向いてしまった。





蘭世はシュンとなった。

せっかく看病をしようと思ってきたのに、どういうわけかこんな時に限って

思考を読むという能力を頂いてしまって、そのせいで俊はふてくされてこの始末。。。

恐らく、俊は必死で思考を閉じようとしているのだろうけど、

熱のせいか、上手く閉じることもできずに、そしてその熱のせいでその思考は結果に向けて

まとめあがることもなく、同じようなことをだらだらと繰り返されている。





・・・なんだか・・・

看病って雰囲気じゃないし・・・





こんなのは・・・きっとフェアじゃないよね・・・。





「あ、あの・・・私・・・真壁くんの風邪と一緒に能力が・・・移っちゃったみたいなんだよね・・・あはは〜」

と空笑いをしてみても俊の反応はまったくなく、

ただならぬ空気が漂い続ける。

蘭世ははぁ・・・と息を吐いた。





「今日はやっぱり帰るね・・・とりあえず要りそうな物持ってきたから・・・ここ・・・置いとく・・・」

俊の反応は、・・・ない。

寝ちゃったのかな?

それならそれでいいか・・・

蘭世はふぅと息を吐いて手をついて立ち上がろうとした。その時。

布団の中からそっと手が伸びて蘭世の腕を掴んだ。





―――もう少しだけここにいろ―――





「えっ・・・?」

蘭世は俊の方を見ると俊は目を閉じたままである。

「あの・・・ま、真壁・・・くん?」

「・・・・・・」

「あのぉ・・・私・・・真壁くんみたいに上手く能力操れないし・・・、

こんな時に・・・その気持ち読んじゃったりとかって・・・よくないかな〜って・・・思う・・・んだけど・・・」





―――・・・・・確かに・・・それは困るけど・・・でも・・・



―――それでも・・・今日は・・・



―――そばに・・・―――





・・・真壁くん・・・

俊の気持ちがゆっくりと伝わってくる。

気持ちを読まれるなんて、死んでも嫌がるはずなのに、

それでもここにいてほしいだなんて、

相当体が堪えてるのかもしれない。

それに、そんな風に言われちゃ側を離れられなくなる。

ううん・・・離れたくなくなるじゃない・・・。





「わかった・・・ここにいるね・・・」

蘭世はそういって俊の額に手のひらを当てる。

俊はそっと目を開ける。

そして蘭世の姿を確認すると、少し困ったような顔をしてからまた目を閉じた。

蘭世は口元をほころばせて俊の髪を撫でる。

意外とその髪は柔らかくて手触りがよくて・・・





蘭世はそっと立ち上がって持ってきた氷枕に冷凍室から出してきた氷と水を入れる。

そして水で濡らしたタオルを一緒に持って俊の元に戻った。

氷枕は普通の枕と入れ替え、タオルは俊の額に乗せる。





―――あー冷てぇ・・・―――





「気持ちいい?」

「・・・あぁ・・・」

「何か食べたいものある?」

「・・・・・・」

俊が目をそっと開く。

そして蘭世を見つめるとまた布団を頭からかぶってしまった。





―――ダメだ・・・お前が食べたいなんて・・・ベタなこと・・・―――





「ちょ、ちょっと真壁くんっ!何考えてんのよぉ///」

「ばっ!!お前!読むなよ!」

「だから、私は読まないようにする芸当なんてまだできないんだもん!」

「俺だって熱のせいで思考閉じれねえんだよ!」

「だからって・・・そんなこと考えなくていいでしょーーー病気中なのにぃ」

「しょうがねえだろ!病気だろうがなんだろうが、俺だってオトコなんだよ!」



グッと蘭世が口を噤む。そして顔を赤らめる。

嫌なわけじゃなく・・・

ただただ、恥ずかしいだけで・・・

そんなことを言う俊にドキドキしてしまって・・・

私の気持ちが読まれていないだけよかったなんて・・・



また私ってば・・・不謹慎・・・。



「と、とにかく・・・真壁くん!今日はちゃんと寝てください!早く治さないと

いつまでも私に気持ち読まれちゃうままよ」

「いつまで移ったままなんだ?」

「真壁くんの風邪が治ればたぶん消えるはずよ」

「・・・はぁ」

俊は大きく息を吐いて「寝る」とだけ言ってまた目を閉じた。





―――あぁ・・・だる〜―――





俊のだらっとした声がまた聞こえる。

いつもより子どもみたいな俊を見て蘭世はくすっと笑ってそっと額に口付けた。

俊はパチッと目を開けたが、そのまま顔を赤くして蘭世に背を向けた。





*****     *****     *****





「絶対にバチが当たったんだろ。お前・・・」

俊は蘭世のベッドに腰をかけながらニタリと笑いながら言った。

「ケホっ・・・何よぉ・・・真壁くんが移したんでしょ〜?」

額に冷えピタを貼られた蘭世が涙目で俊を睨みつける。

―――熱出してたときはあんなに素直でかわいかったのにぃ〜憎たらしい・・・―――

「おうおう、悪かったな。憎たらしくて」

「あぁぁ。読んでる!」

「さんざん読まれたからな。仕返し」

「仕返しって・・・普段から読んでるのは真壁くんの方じゃない!ケホ」

「どうせだからこの際お前の能力も移してもらおっかな。変身・・・したことねえし。俺」

「な、なに?」

俊はまたニタリと笑うと、そのまま蘭世の唇に口づけを落とした。








あとがき

のこさんからのリクエスト作品でした〜。
リク内容は『真壁君の思考を蘭世にガンガン聞かせてやりたい!』 という
非常に面白いネタを頂きました。
いろいろ内容についてネタを聞かせていただいていたのですが、
結局こんな定番的な感じで蘭世に能力をつけさせるはめになってしまいました・・・
ごめんなさいーーー!のこさん!
こんな感じでもよかったでしょうか・・・???
たいして甘くないしぃ・・・。。。凹み・・・orz

のこさんからはもう一つネタをいただいておりましたので、
よろしければそれも書かせていただければと思いますv
(1作にまとめられればと言ってましたがやっぱできませんでした・・・すみません)
こんなのじゃもういいです!って場合は言っちゃってください・・・(>_<)












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