想いが重なるとき
「では、精霊の森にいたのに大きな音がしたとたんに光に包まれ、気づくと想いが池のほとりにいたと・・・?」
望里が腕組みをしながら言った。
「はい・・・」
ソファに腰掛けていたランゼが望里の顔をじっとみながら答えた。
「で、お前はランゼ・エトワール、種族は精霊・・・・・と言うんだね?」
「・・・・・・はい。」
「・・・・・・う〜む・・・」

望里は組んでいた腕をさらに深く組みなおして考え込んだ。
「で、私達のことを君は知っていると・・・」
「・・・ええ、まあ。お父様、お母様、リンゼ、サンド、・・・そしてシュン王子・・・ですわよね。
いつもと皆さん雰囲気はまるで違いますが・・・皆さんは私をお分かりでないのですか?」
悲しげな顔をしてランゼは言った。
「いや、わからないというのではないのだが・・・・」
そういって望里は皆と顔を見合わせた。



「どういうことなのでしょうな」
サンドが口を割った。
だが誰も答えを出せないまま黙り込んでいる。



「事情がよく飲み込めないのだが、、、、ただはっきり言えるのは君はどこか違うところから
どうも迷い込んでいるような気がするな。」
考え込んでいた望里が顔を上げて言った。
「どこか違うところ?」
椎羅が尋ねる。

「ランゼ、よく聞いてほしいんだが、まず我々は精霊族ではない。私は吸血鬼だし、椎羅と鈴世は狼人間だ。そして我々の娘・・・蘭世も吸血鬼だ。江藤蘭世という。」
「精霊族ではない?・・・何をおっしゃってるのかよくわからないわ。どうみてもお父様にお母様に・・・・」
ランゼは一人一人確認しながら言った。
「ああ、君も確かに我々の娘とまったくうりふたつだ。だが、恐らく別人。我々も君のご両親や、サンド、そして真壁くんも恐らく別人だろう・・・」
「・・・真壁くん・・・?」
「ああ、彼だよ。」
ランゼはチラッと俊を見た。
「王子ではいらっしゃらないのですか?」
「いや、確かに彼は魔界の王子だが、今は人間界に暮らしている。君の知っている王子は・・・?」
望里が説明しながらランゼに尋ねた。
「魔界城に・・・お住まいです・・・。」
やっぱりなといった顔で望里はうなずいた。

「・・・ではそのもう一人の蘭世さんはどちらに・・・?」
ランゼは尋ねた。
「それが・・・・いなくなってしまっていて・・・探しに行こうとしていたところなんだが・・・」
望里が困惑しながら言った。




「まさか・・・・入れ替わったとか・・・?」
沈黙していた俊が静かに口を開いた。
誰もがはっとして一斉に俊の方を向いた。
「入れ替わった・・・・?」
ランゼが青ざめながら言った。
「そんな・・・・そんなことってありますの?ではここは一体どこ・・・・?」
「どういうことなのでしょう。だが確かに精霊族にもエトワールという名の一族はおりませんし・・・こんなに蘭世様に似た方がいるとは思えませぬ。。一体どこから来られたのか・・・」
サンドも顎に手を当てて考え込んでいるが答えが出ない。



「さっき俊くんが言った入れ替わったという話・・・あながち間違っていないのかもしれない・・・」
望里が言った。
「どういうこと?」
椎羅が神妙に尋ねた。
「話をまとめてみると、同じような世界が二つ存在しているような気がしないか?ランゼくんの住んでいる世界と我々の今いるこの世界。同じ人物が存在するがところどころ違う・・・。
この子は姿かたちは蘭世とそっくりだが、話し方、立ち居振る舞いはまったく違う。
君の方がずいぶんお嬢さんだ。」
望里は椎羅にウインクを送りながらランゼに言った。椎羅も困惑しながらも微笑む。
ランゼは黙って望里の話を聞いている。


「この子が嘘や作り話を話しているようには到底思えないし。。。
例えば・・・これはあくまでも私の推論でしかないが・・・何かの拍子に異次元の扉が開き、
何かのきっかけでその空間に入り込んでしまった。で、今までいた世界とはまったく違う世界に迷い込む・・・」
望里が言った。
「異次元の扉・・・?」
俊が答えた。
「ああ、そういう話を本で読んだことがある。実際に存在するものなのか確証はないし、現実に起こりうるものなのかもわからない。だが、このことはどう考えても通常の話では片付けられない。この子はあまりにも蘭世に似ているが、やはり蘭世ではない。別人だ。同じ世界にこれほど似ている人間がはたしているものなのか???」
そういって望里はランゼを見ながら言った。


「ねえ・・・」
鈴世が口を割った。
「じゃあ、お姉ちゃんは・・・?
一斉にみんなが鈴世を見た。
「お姉ちゃんは、同時にランゼさんがいた世界に行っちゃったってこと?」




俊は一連の会話の流れを黙って聞いていた。
あんなに楽しみにしていたデートに向かう途中に何の連絡もなく突然蘭世は消えた。
携帯もつながらない。
第一、気配が―――――ない。。。。
(江藤・・・・)



俊は一瞬だったが蘭世が自分の名を呼ぶのを感じていた。
だが、ほんの一瞬だったし、蘭世のことだ。また深く想い込んだか何かだろうと気に止めていなかった。特に用事がなくても蘭世が心で俊の名前を呼ぶのは珍しいことではなかったのだ。だが・・・・・


「・・・あの時だ・・・・・」
俊が重い口を開いて静かに言った。
「12時を少し回ったころだったと思う。あいつが俺を呼んだんだ。でも一瞬で・・・。
俺もいつものことだろうと思ってそのままにしていたんです。だけど、考えられるのはあの時だけだ。現に今、どんなにあいつの気配を探しても見つけられない・・・」
目を深く閉じて俊がうつむいた。



皆が一斉に黙り込む。
(ちくしょう・・・あの時気づいていれば・・・)
俊はぐっと握った手に力を入れた。
(もっと気をつけていれば・・・・)
俊はいまさらと思いながらも後悔を隠せない。
「・・・すみません・・・あの時俺がちゃんと気づいていれば・・・」
俊がぽつりと言った。
「・・・何も俊くんのせいではないよ。そうと決まったわけではないし、もしそうだったとしても偶然の出来事だ。それより少し様子を見よう。とりあえずわしは魔界に行って来る」
望里はマントをつかんだ。
「俺も行きます!!」俊も後に続く。
「ああ」
「私も行くわ!」
椎羅が望里のそばに駆け寄った。
「お前はここにいなさい。」
「でも!」
「いいから。。。蘭世がふと戻ってくるかもしれん」
「・・・ああそうね。」
「鈴世、お前は悪いが、少しそのへんを探してきてくれないか?」
「うん、わかった!行くよ!ペック」
鈴世はくるんと小狼に変身して玄関へ向かった。
「君も一応、ここにいなさい。」
望里はそうランゼに言った。
「では行こう」
「はい」
「・・・心配はいらないよ」
望里は椎羅と椎羅に肩を抱かれたランゼにウインクして言った。
そして、望里・俊そしてサンドは魔界へテレポートした。




          ****************




「なんだか、大変なことになっちゃったけど、大丈夫よ、心配はいらないわ」
呆然と立ち尽くしているランゼに椎羅はそう声をかけた。
「・・・」
「お茶でも入れるわ。落ち着くわよ」
そういって椎羅はソファーにランゼを促しキッチンに向かった。

「あの・・・」
「ん?」
ランゼは椎羅に尋ねた。
「王子・・・あの真壁という方は・・・」
「ああ、真壁俊くん?王子らしくないでしょ?ふふふ。でもれっきとした王子なのよ。」
「そうですか・・・なんだか、私が存じ上げてる王子とは感じがまったく違うので・・・」
「あら、そうなの。あなたもうちの蘭世とは全然違うけどね」
うふふと笑って椎羅は答えた。

「やっぱり、こちらの蘭世さんとあの王子は婚約されていらっしゃるのですか?」
ガチャガチャガッチャーン!!!
突然のランゼの言葉に椎羅は持っていたカップを床に落とした。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「あら、おほほほ、ごめんなさいね。ちょっと突然で驚いちゃったものだから・・・
コホン・・・・あの二人はそうね恋人同士ってところかしらね。
あなたはその王子と婚約してるの?」
「・・・はい、王子とは幼馴染で・・・突然私がいなくなってしまったとなれば、きっとご迷惑が・・・」
「そうねえ」
(婚約だなんて・・・蘭世が聞くと大喜びだわね。。。。)
ふと蘭世の姿を想像して椎羅はぷっと吹いた。

「それに万一、蘭世さんと入れ替わっているとなれば・・・そのまま結婚してしまうことに・・・」
「なんですって!?」
「一週間後なんです。結婚式・・・わたくし、ずっと夢見て参りましたのに・・・・
私一体どうしたら・・・」
ランゼはホロホロと泣き出した。
「・・・一週間後・・・」
椎羅はランゼの側によって肩を抱き寄せた。
「大丈夫よ。きっと元に戻れる方法が見つかるわ。信じましょ」
(一週間後だなんて・・・・どうしたら・・・蘭世!!・・・)
ランゼを励ましたものの椎羅は不安の想いでいっぱいだった。





                             
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