「真壁家のお宅訪問」













その日、真壁家の主人は、朝から不機嫌だった。
何をするにでも、いちいち大きな音を立てる。苛立っている証拠だ。
妻の蘭世は朝一から、本日の来客のための準備をしながらも、夫の行動に視線を走らせていた。








今日は午前中から、真壁家には初のテレビ取材が来ている。







チャンピオンとなってから、いろいろ新聞や雑誌などで俊の話題は取り上げられてきたが、テレビの取材は断り続けてきた。
それが、今回はジムのオーナー直々の依頼ということもあり、雄弁なオーナーの巧みな話術に乗せられ、さすがの俊も断りきれなかったのだ。

断らなかったのは自分のせいであるのに、実際、そのときのことを想像すると頭が痛くなった。
蘭世に対する八つ当たりも日に日に激化し、「だったら断ればいいでしょー」と
逆に蘭世を怒らせることもしばしばあった。
ただ、蘭世のその怒りというのは、すべて俊の苛立ちに対抗するためだけのものであって、当の本人は、テレビ取材ということで、相当浮き足立っているのが一目で分かる。
とんでもねえこと口走らなきゃいいけど・・・と俊は眉間に皺を寄せながらフンフン♪と鼻唄を歌う妻を横目で睨んだ。






つい先ほどから始まったインタビューは、真壁家のリビングで撮影されている。
何度も「チャンピオーン!もう少し笑ってくださーい」とディレクターから声が飛ぶ。

(くっそ、何で面白くもねえのに笑わなきゃいけねえんだ!)と一瞬さらに深く顔を顰めた俊の表情を蘭世は見逃さない。

「もう、あなた!テレビなんだから笑ってよ」
ソファーに座り、視線の前方に構えられたカメラに作った笑顔を向けながら、蘭世は密かに隣で座る俊に囁いた。
「うるせぇ。こういう顔なんだよ!」
蘭世の言葉に俊も顔を引きつらせながら答える。





「え〜、では、ちょっと緊張をほぐすためにも、お宅の拝見の方に移らせていただきましょうか」
とディレクターはポンと手を叩きながら、その場の空気を展開させた。

「あ、はい。どうぞどうぞ」
インタビュアの男性が席を立ちかけると、瞬時に蘭世も腰を上げ、案内人をかってでる。
「あっ、チャンピオンもお願いしますよ」
一息つこうとそのまま大きく伸びをした俊に向かってインタビュアは声をかけた。
「は?俺も・・・?」
「当たり前じゃないですかぁ。『真壁俊のお宅訪問』なんですから〜。ねぇ」
「え、えぇ」
同意を求められた蘭世は苦笑しながら答え、チラッと俊を見た。
俊の機嫌が悪くなるのを恐れているのだ。

だが、俊は半ばあきらめているのか、はぁーーっと一つ大きくため息をついたあと、
手をひざにつきながら、重い腰をゆっくりと上げた。
その姿を見て蘭世はほっと少し緊張を緩ませた。





「それにしても広いリビングですね〜〜そして、こちらがキッチン。。。こちらで奥様は毎日手料理をお作りになっているというわけですね〜」
「あっ、は、はい」
インタビュアがキョロキョロを部屋の中を探索しながら歩き回りながら二人にうまく問いかける。
「チャンピオン!奥様の手料理のお味はいかがですか?」
「・・・まぁ。。。うまいっすよ」
俊は蘭世をチラリと見てから、目をそむけて言った。
蘭世もその言葉を聞いてニコリと微笑む。
「そうですか〜。羨ましいですね〜。毎日愛妻の手料理!」
(ぶっ!愛妻??///あ、愛妻には違いねえけど・・・)
俊はその言葉に妙に照れて顔を赤くさせる。

さきほどまでのインタビューは防衛戦についてとか、トレーニングについてだとか、
ジムの話についてだとか、ボクシングの話がほとんどで、俊のプライベートに関しての話には全く触れてなかっただけに、突然のインタビュアの鋭いコメントに俊は面食らった。
そして、蘭世もその俊の姿につられて少しうつむいた。

「あら?あら?」
インタビュアは二人を見比べながら続ける。
「もしかして、赤くなってます?お二人とも・・・。いや〜、いいですね〜。新婚って感じで・・・。初々しい!」
(くっそ、テメエがそんなくさったことペラペラと言い放つからだろうが・・・)
俊はブイと顔を背ける。
「真壁さんはシャイな方だとお聞きしてましたが、こういうところをおっしゃってたんですね〜。奥さん、ご主人はご家庭ではいつもこんな感じなんですか?」
容赦ない指摘に蘭世は「まぁ・・・オホホ」と適当にあしらいながらこれ以上、俊にマイクを向けられないように「ささ、次ぎ行きましょう!次!」とインタビュアを慌てて部屋から押し出した。



「さすがに広いお宅ですね〜。こちらは・・・っと・・・おっ!バスルームですね〜」
廊下に出て、歩くインタビュアは次のドアをそっと覗いてレポートを続ける。
「おきれいにしていますね〜。お風呂掃除は奥様が?」
「え?あぁ、普段の簡単な掃除は私がしますけど、週に一度は主人がしてくれるんです」
蘭世はにっこりと答える。

「えぇ!?真壁さんが!?意外と家のこともされるんですね〜」
蘭世の答えにインタビュアがすかさず食いついたので蘭世は「しまった!」と思った。
しかし、思ったときはもう遅く、その問いかけは完全に俊に向けられていた。
「あぁ、まぁそれくらいは・・・」
俊はぼそぼそと答える。

「ほぉほぉ・・・お二人は新婚さんということですが、一緒にお風呂に入っちゃったりするんですか?」
予想だにしていなかった質問に俊はずっこけそうになる。
テレビに写るからと、昨日蘭世がワックスがけをしたことが今になって恨めしく思う。
「はぁ?な、何ですか?それは」
俊は冷静さをかろうじて保ちながら、作り笑いをしてとぼけてみる。
「いや〜、新婚といえば一緒にお風呂かな〜と思いまして・・・アハハハ。イヤ、一般論ですよ」
(な〜にが一般論だ!ったく・・・このヤロウ・・・油断もすきもねえな)
俊はカメラの向きを確認して、写らないようにジロリとインタビュアを睨む。
彼は一瞬、身を怯ませながらも、彼もインタビュアとしてのプライドを持ち合わせているのだろう。ニコッと口元を緩めた。

「えっと、えっと、次二階に行きますか?」
俊とインタビュアの視線の戦いに蘭世は割り込みながら言った。
「そうですね〜。お願いします」



「ここは?ゲストルームですか?」
「ええ、今はお客様用に準備してるんですけど、子供ができれば、子供部屋に・・・」
「ほぉほぉ。なるほどね〜。で、こちらは・・・・主寝室ってわけですか〜」
「え、ええ」
「光が差し込んできて、すごくいいお部屋ですね〜」
「そうですか?」
「朝なんかすごく気持ちよさそうです」
「ああ、そうですね。時々、すーっといい風が入ってくるんですよ」
蘭世はそういいながら、出窓になっている窓を開けた。
「ほぉほぉ。お二人でさわやかな朝を迎えられるというのはどんな感じですか?」
インタビュアはまたしても俊に向かって問いかける。
どうしても、真壁俊のベールに包まれた新婚ぶりを聞き出したいようだ。
「ど、どんな感じって・・・」



俊は一瞬昨晩の光景を思い浮かべてしまって顔を一気に赤らめた。
早めに眠ろうとしていたのだが、緊張して帰って眠れず、後で部屋に入ってきた蘭世のベッドにすっと潜り込んだのだった。
そして、いつものように、いや、いつもよりも熱く愛しあったあと、そのまま、一つのベッドで二人寄り添いながら朝を迎えていたのである。
窓を少し開けたままにしていて、今朝もそのさわやかな風で目が覚めたのだった。

まるで昨夜のことを全て知っているかのような鋭い質問に俊はうろたえる。
(バ、バカ・・・そんなに照れたら、丸分かりじゃないのよぉ・・・)
蘭世は俊の行動にハラハラしながらも、何か言えば、自分に矛先を向けられそうで、
黙り込んだままだ。

「おや〜?聞いてはいけないことを聞いてしまいましたかね〜?アハハハ。やっぱり新婚さんですものねぇ。ここはこれ以上聞くほうが野暮ってもんですね。アハハハ〜。」

(アハハハじゃねえぞ。コラ!何聞きやがるんだ!)

「早く、ゲストルームが子供部屋に変えれればいいですね」
とどめの一言が完全に俊の機能をおかしくさせる。
ひっくりかえりそうになっている俊の姿はそれだけでも
普段見られない分、価値のあるものになりそうだ。

俊が飛び掛りそうになったその前にディレクターが「じゃあ、この辺でカメラをとめて、まとめに入ろう」と話を止めた。
「そ、そうですね〜〜。じゃ、じゃあ、皆さん、下のリビングでお茶でも・・・」
そういって蘭世はみなを連れて階下に下りていった。

「真壁さん、すみませんでしたね。」
皆が下に下りていったのを確認すると、インタビュアは後に残っていた俊にそう声をかけた。
「・・・・ったく・・・何を聞き出したいんだよ!」
苛立ちを抑えながらも、少し声を荒げて俊は言った。
「いやぁ、真壁さんのプライベートってほとんど出てないから、ついね・・・。
奥さんもすごくおきれいだし・・・。視聴者はきっと釘付けになりますよ。
美男美女の夫婦ということで・・・。
しかも真壁さん、すっごく照れられるから・・・。照れというのは、言葉で何か答えるよりも、伝える影響が大きいんですよ。いや、いい絵が撮れたと思いますよ。ありがとうございました。」

(・・・・やられた・・・・か・・・)
んじゃと手をかざして、階下に下りていく男を俊は苦笑しながら見送った。





「はぁぁ。。。やっと終わったね」
取材陣を返したあと、蘭世はどさっとソファーに体を落とした。
俊はもう一つのロングソファーですでにダウン状態である。
「・・・大丈夫?疲れちゃった?」
蘭世はこんなに疲れている俊が可笑しくって笑いを堪えながら尋ねる。

「もう二度と受けねえ」

「でも・・・楽しかったじゃない?(あなたの見れない部分が見れて・・・クク)」

「・・・・聞こえてるぞ」

「ギクっ・・・だ、だってぇ・・・・・・キャッ・・・」
俊は手を空に差し伸べて力を働かせた。
その瞬間、蘭世の体が横たわっている俊の体の上に引き寄せられた。

「な、何?疲れてるんじゃないの・・・?」

「疲れ方が別なんだよ。」

「で、でも・・・」

「早く子供部屋にしねえといけねえしな」

俊はニヤリと笑って、蘭世の頭を抱き寄せて先ほどまでの緊張を一気に掻きだすかのように蘭世の愛を深く求めた。








あとがき

いかがでしたか?
真壁家のお宅訪問、何だか、このインタビュア、いいのか!?と疑問を持ちながらも書き出したら後に引けず、こんなものになってしまいました・・・(汗)

夢菜さんのリクエストは『真壁家へのテレビ中継』というものでした。

真壁家へテレビが来て、インタビューされたり、家の中を拝見するうちに、二人のラブラブ生活が明らかになってきて、公共の場に二人のラブラブっぷりをさらして照れる王子と、それを喜ぶ蘭世ちゃん

という感じだったのですが、リクに即してますかね〜〜?書いてて分からなくなってきちゃったんですが・・・。
しかも、完全に王子いじめと化してますが・・・^^;

こんなお宅訪問番組きっとゴールデンでは放映しないと思いますが・・・^^;(深夜向け?)
素敵な部分はここでは割愛されたということで・・・^^;

しかも、kauranの都合上、卓はまだ産まれていないという設定で書かせていただきました。ややこしくなっちゃうので^^;

夢菜さん、リクエストありがとうございました。
こんなのでよろしければぜひ、ご笑納ください・・・^^;









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