あぶない☆バースディパーティー








  H22年蘭世ちゃん誕生日記念SSです。
   高2あたり設定。











「「「誕生日おめでとー」」」

店内に準備された個室。

一斉に放たれたその声の群集でその会は始まった。



「ありがとーー」



テーブルのちょうど真ん中に席を用意された蘭世は

ちょっと照れながら、それでも嬉しそうに周囲に向けて笑顔で応えた。



今日は日野が発起して開かれた蘭世の誕生日会だ。

日野、ゆりえ、神谷・・・

どうやって連絡をとったのか魔界からアロンとフィラも来ていた。

そして真壁俊。



「なんで蘭世の誕生会に私が出なきゃいけないのよっ ったく。」

曜子がいつものように毒づくが、それに蘭世が堪える様子は毛頭ない。ブっと頬を膨らます程度だ。

「んなこといって、この店探して予約したのだってコイツなんだぜ。結局一番はりきってやんの」

と日野に指さされた神谷は、一瞬ぽっと赤くなって「ち、違うわよ。」といってプイっと顔をそむける。

みんながそのやりとりをこれまたいつものように笑いながら見守る。

誕生会らしく賑やかで華やかで。



このメンバーで集まったのは1年ぶりくらいだろうか。

アロンとフィラが魔界に帰って以来だ。

そのせいか誕生会というよりも軽い同窓会みたいな感じにもなっていて

蘭世はしかり誰もが楽しそうだ。

ただ俊一人だけを除いては。



蘭世のこの誕生会を行うことは決して嫌なわけじゃないし、

みんなから祝われて嬉しそうな蘭世の表情を見るとそれはそれで心は和む。

ただ、なんとなく気分がなかなか浮かれないのは

俊が柄にもなく今日は蘭世と二人で過ごしたいなどと

勝手に一人で計画しそれがもろくも崩れ去ってしまったせいだ。



誕生日だからと、いつになく早い段階でバイトにも休みをもらい、

その時点で蘭世自身にも予約をいれておけばよかったものの

なかなか言いだせないでいたところに

日野の半ば強引な「誕生会やろうぜ〜」の誘い。

蘭世も「え?誕生会?www」と乗り気な感じだし、

まさか俊がそんな蘭世をさしおいて「江藤の誕生日は二人っきりで過ごしたい」だなんて言えるはずもなく

「まぁ、いいんじゃねえの」といつもの調子で否定もせずにいたら

あっという間に決まってしまった。












そんな経緯で今に至る。



俊はチラリと横に座る蘭世を見やる。

楽しそうに話題に花を咲かせる彼女を見ると

ほっこり気持ちが暖かくなるのと、その笑顔がこちらに向いていないことに覚えた軽い嫉妬で

気持ちがどうにも落ち着かない。



ここまで俺は心の狭い男だったっけ?

こんなに独占欲の強い男だったっけ?



それでも俊がふてくされているのを知ってか知らずか、

ことあるごとに蘭世が「ね♪」と同意を求めてくるのを見ると悪い気はしない。

「まあな」とかなんとか、

発する返事はいつもと同じ簡単でそっけないけど、

周りなんかほっといて、肩に腕をまわし引き寄せたくなる。

いや、いっそのこと見せつけてやってもいいくらい。

かといって、実行に移せるわけねえけど。。。





そんな時、「そうそうこれなんだけど・・・」とアロンが持ってきた紙袋の中からボトルを一瓶取り出した。

「何の瓶?」

「これは、ピスコっていって、魔・・・マカイ国で一つ年をとる日にみんな必ず飲むものなんだ。

また1年幸せに過ごせるようにって願いをこめて」

「へぇ〜。そういうのがあるのね。知らなかった」

蘭世をはじめ誰もが興味深そうに眺めている。

「蘭世ちゃんのために持ってきたんだ」

そういってアロンはあいているグラスにその液体を注いだ。

「あ、ありがとう。どんな味?」

「おいしいよ。甘いし」

「ふ〜ん、みんなで飲むの?」

「そ。一気にね」

そういいながらアロンは手際よくみんなにグラスを配っていった。

「じゃあ。ヴォールって乾杯のことばだから一緒に言ってね。」






「ちょっと待て」

俊は配られたそのグラスのにおいをかいだときツンと鼻につく香りを感じた。

「お前、これ酒じゃねえの?」

「お酒じゃないと思うけど?わかんないけど王家ではこどもの時から飲んでるし大丈夫でしょ。

問題ある?」

「コイツ酒飲めねえし」

俊は蘭世を親指で指さして言った。


過去蘭世がヘベレケになってるのを見たことがある。

気づいた時にはそうなっていたから、どれほど飲んでそうなったのかは知らないが

飲ませない方が賢明な気はする


「一杯だけだよ?平気だよね。蘭世ちゃん」

「うん。一杯だけなら」

「おい、マジで大丈夫なんだろうな」

「一杯くらいなら・・・お正月にお屠蘇飲んだりしてるし・・・」

「・・・」

「まあ大丈夫なんじゃねえの?こんだけしか入ってねえし」

日野の言うとおり確かにコップにホンの少量しか入ってないし

不安は隠せないが、まあ祝い事だしと考えている俊の頭上をアロンの言葉が飛びその思考を妨げる。





「ハイ!では蘭世ちゃんの幸せをここに祈って。ヴォール!」

「「「ヴォール!!」」」



一斉に放たれた言葉につられてみんなが一気に自分に与えられたグラスを煽る。




・・・げっ!!



「ゲホっ・・・ゴホッ・・・」

面白いぐらいに、同時にせき込む。



「な、なにこれ・・・」

「お前・・・これ・・・ケホ・・・なんだよ・・・。めちゃめちゃきついじゃねえか」



「え?そう?」

アロンは首をかしげながらフィラを見る。

フィラもきょとんと首をかしげている。

しかし、二人以外のメンバーは焼けつくような喉のひしめきにどうにか耐え、苦痛に顔をゆがめる。









「大丈夫か、江藤?」

俊はそういって江藤の方を見た瞬間、目を見張った。

「うん。平気☆」

見た感じ、いたって素面。

「キツクね?」

「う〜ん・・・キツイっていやあキツイかな」

意外とコイツ酒強いのか?この俺でさえも、油断していたとはいえ、喉が痛くなるくらいの度数なのにと、

あっけにとられて蘭世を見た。

しかしその刹那、蘭世を見た俊のその目はそのまま硬直する。






「真壁くん・・・♪」

そう呼びながら俊の腕に自分の腕を絡ませ身をあずけにきたのだ。

目を潤ませ、もう周りも何も見えていないようなその態度。

かといって、以前みたことのある感じとは違って

顔も姿勢も呂律もしっかりしているし、

とても酔ってるようには見えない。

ただ、その態度だけが、何もかもとっぱらったように

まっすぐ俊に向かっているのだ。





「えっ!?」

俊は目だけでなく体も硬直した。

「な、何だよ///急に・・・」

「好き・・・」

そういって蘭世は俊の瞳をじっと見つめてきた。





「なっ・・・///」




「え、江藤・・・酔ったんじゃねえの?」

日野もそしてゆりえもことの成行きが気になりながらもとまどいを隠せない。

一人曜子だけが、酒の勢い関係なく、頭が噴火していた。

「ラ・・・ラ〜〜ン〜〜ゼェ〜〜〜!!!あんたって人はぁぁ!この曜子さまの目の前でぇぇぇ!!!離れなさいよ!!」

「い〜〜や〜〜!真壁くんは私だけのものなの☆そうよね♪」

「え、江藤・・・??」

「神谷さんも・・・落ち着いて・・・」



これは・・・・何だ・・・?酔ってるのか?



「アロン!お前、なんてもの持ってくんだよ!!」

俊はアロンを睨めつけ叱咤する。



「え〜。これが普通だよ?主役はみんなこうなるもんだし」

「「「え゛っ」」」

アロンの言葉に室内がシンと一瞬にして静まる。




「誕生日の人が幸せになるために飲むものなんだから・・・ねえフィラ」

「ええ。そのとおりですわ」




「祈るだけじゃなくて?」

「そう☆自分の殻を破って素直になるのさ☆ほら、幸せそうだろ?」

そういってアロンが蘭世の方を見ると、それにつられてみんなが一斉に蘭世を見る。




当の本人は、その視線をもろともせず、素直に?なっているのか俊にくっついている。

「素直って・・・言えば・・・素直・・・かしら?」

ゆりえが首をかしげながら蘭世を観察する。

「まあ真壁のことを好きなのは当然だけど、確かにここまでなのは初めて見るか・・・

どうなのよ。真壁」

日野が頬杖をつきながら俊につめよる。





「どうって・・・」

確かに人前でここまでくっついてくることはないが・・・

「酔ってるようには見えないしなぁ・・・」





「酔ってないよ」

蘭世がすぐさまにっこりと答える。

「ただ、真壁くんのことが大好きなだけ♪早く二人になりたい・・・」

「・・・・・お、おまえ・・・絶対酔ってる!!とりあえず離れろ!」


「い〜や。真壁くんだってこうしたいでしょ?」

「なっ・・・///」

た、確かについ先ほどまでは、引き寄せたい、見せつけたいって思ったりもしたが、

それはあくまでも、心の中だけのひそかな欲であって、

いざ、行動に起こすのは別の話だ。






「そうなのか?真壁〜」

ニタつきながら日野がからかう。

「んなわけあるか!おい、アロン、コイツどうしたら戻るんだよ」



「そのうち戻ると思うけど?魔力がはたらいてるからな〜。個人差あるよ」

「「「魔力?」」」

神谷、日野、ゆりえはそろってアロンの方を怪訝な顔をして振り向く。



「ば、バカ!」

俊は慌てて身を乗り出し、アロンの口を塞ぐ。

しかし、乗り出した身に後ろから蘭世がくっついてるのがわかる。




「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

俊はしばらく考えたのちすばやく立ち上がった。





「と、とりあえず、今日はコイツ連れて帰る!!!」



「えー!ダメ!ダメよ俊!それだけは」

曜子は蒼白。

「え〜〜!面白いのに〜」

日野は残念顔。





周囲のガヤはこの際無視するに限る。




「ほら江藤!帰るぞ!」

「はあ〜い。じゃあみんなまたね〜v」

「避妊しろよ」

最後に爆弾を落とした日野が曜子にかみつかれているのを視界の端にとらえながら、

俊は蘭世の腕をひったくるようにつかみ、店を出て路地を曲がると、人気が周りにないことを確認しテレポートした。






*****     *****     *****






「とりあえず水飲め」

テレポートしてきた自分のアパートで俊はグラスに水を注ぎ蘭世に渡す。

「・・・ありがとう」

蘭世は受け取った水をコクリと喉に流し込む。






・・・治ってるのか?






俊が蘭世を覗き込むと

先ほどまでの勢いはどこへいったのか、いつもの蘭世に戻っている。

俊の視線を感じて蘭世は顔を赤らめて俯いた。





「ご、ごめんね・・・真壁くん・・・」

「・・・いや・・・」

「なんか気もちが止まらまくなっちゃって・・・」

「覚えてるのか?」

「・・・うん・・・」

「・・・・・」

やっぱりアロンのいう魔力なんだろうか?

俊はともかく、普通の人間である日野たちもなんともなく、誕生日の蘭世だけがおかしく?なるなんてことあるだろうか。




じっと蘭世を見つめる。




「気分は?」

「今はなんともない。・・・なんだったのかな?」

「さぁ。魔界のものはわかんねえ。」

「そだね。ただ・・・せっかくみんながセッティングしてくれた誕生会なのに、悪いことしちゃったな」



「お前が悪いわけじゃねえだろ。言うなら妙なもん持ってきたアロンが悪い。

・・・それに・・・返って得したかも」




きょとんとして蘭世が顔を向ける。

俊はその頬に手をそっと添えた。

蘭世の胸がトクンと響く。



「せっかくの誕生日なんだから・・・」





お前のいうとおり。

二人で過ごしたかったんだ・・・・







という台詞は飲み込む。

その代わりに、指先を蘭世の頬にそって滑らせ顎に添える。

そしてそのまま蘭世の小さな唇を奪った。










唇を離すと蘭世はうるんだ瞳で俊を見つめていた。



「真壁くん・・・」



「でも・・・さっきはちょっとびっくりしたけどな」

「え?」

「あんな江藤見たことなかったし・・・」





「あっ・・・」

そういいながら俊はもう一度蘭世の唇を軽くついばむ。そしてついばみながら言葉を続ける。

「あんな姿誰にも見せたくなかったから、連れて帰ってきたけど・・・元に戻っちまったのはちと残念・・・」





「も、もう・・・真壁くんのバカ・・・///」

蘭世の言葉はそのまま唇で塞ぐ。



「でもあれがお前の本心なわけだろ?」

「わ、わかんないよ・・・もう・・・」





「本心。。。探ってやろうか・・・?」





その言葉とともに俊の口付けが深く甘くなる。

なんだかんだと結局二人っきりになれたのは

日ごろの行いがいいせいかな・・・と、うっとりと瞳を閉じていく蘭世を薄目で垣間見ながら

俊はフッと口元をほころばせた。









<END>







あとがき

なんだかんだとようやく書き上げました。
ちっとも誕生日には間に合いませんでしたが・・・。

そして脈略のない文・・・。

魔界のモノに振り回されるときめきらしいちょっとしたコメディー感と
大好きな俊蘭の甘い感じを出したかったんですが
難しかった。

てか無謀だった。

漫画ならきっともっと躍動感とか出せるのになと思いながら
文しか書けない自分を呪う。
その文も稚拙だしさっ・・・。

あんまりプロットを考えずに書きだした結果でした・・・謝。

ちなみにピスコというのはペルーのお酒です。
ちと拝借。
ヴォールは確か誓いみたいな意味のある外国の言葉です。(どこかは忘れました)

一つ、どうでもいい裏話。
最初、王子の一人称で書いてたんだけど、気づいたら第三者目線になってて
慌てて最初から修正しました。
今回は王子にはなりきれませんでしたっ
ホンマどうでもいい話でした・・・^^





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