日曜日の昼下がり。
卓も中学にあがり、また一歩大人への階段を歩もうとしていた。


新しい学校、新しい通学路、新しいクラス、新しい制服・・・・
何もかもが新しくて、つい1ヶ月前までは小学生だったのに、制服に袖を通しただけで急に大人に成長したような錯覚を受ける。

いや、本当は卓自身が早く大人になりたいと強く願った意識の表れだったのかもしれない。





先日、お見合い騒動を巻き起こした従姉のココ・・・。
しばらく見ない間に彼女はぐんと大人になっていた。
一人の女性として大きく成長していた。
その姿に卓は目を奪われ、心をざわつかせた。
イヤイヤ結婚相手を探すというココに妙な怒りさえ覚え、思わず城から連れ出してしまった。




何故そんなことをしてしまったのか自分でもわからない・・・。
いままでは、ただおっかない姉ちゃんとしか見ていなかった彼女が、急にはかなげな女性に見えて、卓は胸を震わせた。


そして一人取り残されたような思い・・・・・
ココが自分の知らない大人の世界に行ってしまうような焦り・・・・・。
手が届かなくなりそうな不安・・・・・・。



そしてさまざまな気持ちが入り交ざったまま思わずしてしまったキス−−−−−−


彼女はほおを押さえて顔を赤らめた。
その姿も卓には衝撃的なもので、自分自身も何故そんな行動を取ってしまったのかわからないまま、飛び出しそうな勢いで大きく鳴り続けている胸をバレないように押さえた。






          ***************




あの時以来・・・・・卓の心はココの方に向かったまま戻ってこないことを卓自身も気づいていた。
気づかずにはいられなかった。


何をするにも彼女のことを考えながら行動している自分がここにいる。
こういう風に人を想うなんてことは生まれて初めてだった。
照れくさくて誰にも言えないまま、逸る気持ちをかろうじて抑える。


しかし、彼女は5歳上。もう結婚相手を探そうかという年齢だ。
だが、自分はといえば、まだやっと中学に入ったばかり。
この差が卓をイラつかせた。

そのせいだろう・・・・。
卓は早く大人になりたいとさらに強く願うようになった。
彼女につりあう男になりたい・・・・・。



周りの女の子達もだんだん少女から女性へと成長しつつあったが、
ずでに卓の目にはもう映らなくなった。
卓の心にはそれほどしっかりとココが大きく存在している。





             **************





今日は特に何をするでもなく、卓はぼぉーっと自宅で過ごしていたが、
一人でいればいるほど、ココのことを考えてしまう。

ココに会いたいと思った。
彼女との距離を少しでも埋めたいと思う。
会いたいと思えば無性に会いたくなる。



−ーーーーーーーーー魔界に行くか・・・・
卓はそう思い立つとすぐ、簡単に身支度を済ませて祖父宅前にテレポートした。
つくづく自分の能力をありがたく感じる。




(誰かに見つかると面倒だな・・・・・)



卓はそう思って、そぉーっと玄関のドアを開け、忍び足で地下室の入り口に向かう。



静かだった。

(誰もいねえのか?)
卓はふと足を止めキョロキョロと周りを見回した。
(とにかくよかったな・・・・)
見つからずに済みそうなので卓はほっと一安心してもう一度歩き出した。



そのとき、ガチャっとリビングのドアが開いた。
「あれ?卓?」
鈴世が目をパチクリとさせて卓を見ていた。


(ドキーーーーッ!!)
卓はその場に立ち止まったまま動けなくなった。



「なんだ?一人か?珍しいな」


(・・・そうだよな。出かけてる割には玄関開いてたもんな・・・)
安心したのもつかの間。卓はバクバクした心臓を悟られないようにそぉーっと振り返った。

「な、なんだ。鈴世いたのかよ・・・」
卓は冷静さを保ちながら言った。
「お前、また呼び捨てにして・・・・(汗)」
「他、誰もいねえのか?」
「ああ、みんな出かけてるんだ。天気がいいからな。俺は留守番だけど・・・。
お前こそどうしたんだ?・・・・・・ん?もしかして魔界に行くのか?」



鈴世のカンは相変わらず鋭い。
さすがだなと妙に感心しながら、卓はまたドキッとしてココへの気持ちをおさえながら、
「い、いや。ひ、暇だったからさ・・・・じいちゃんとばあちゃんの顔でも見ようかな・・・と・・・」
としどろもどろになりながら答えた。


「・・・・・・・・・ふう〜ん・・・・・」
鈴世はじっと卓を見ながら相づちを打った。

「な、何?」
卓はどぎまぎしながら、いたたまれなくなって思わず聞いた。


「いや、別に。。。せっかく来たんだからまあ、こっちこいよ。お茶ぐらい入れるよ」
鈴世はにこっとして言った。




卓は促されるまま、リビングのソファに座った。
(あーあ、こんなことしてる場合じゃねえのになぁ・・・)

「なんだ?今日はおとなしいんだな・・・」
鈴世は紅茶の入ったカップをカチャカチャ言わせながらお盆をテーブルに置いた。

「・・・そんなことないけど・・・」
卓はボソボソと言った。

鈴世はくすりと笑っていった。
「ホントは別の用事で来たんだろ?それでもお前一人で魔界に行くのも珍しいけどな・・・。
見つからずに行かなきゃならない用事なんて、よっぽどの用事か?」

その言葉に卓は思わず顔を真っ赤にさせた。
「そ、そんなんじゃねえよ!」
と慌てて否定するが、その態度は肯定したのも同然である。

「みつけなきゃよかったかな?」
鈴世はニヤリとして言った。

「べ、別に・・・//////」
鈴世の容赦ないつっこみに卓はもう何も言えずに閉口したままである。



鈴世はそのかわいらしい行動の甥っ子を見て優しく微笑んだ。
「お前って・・・・そういうところはホント兄さんそっくりだな」
「・・・・・えっ!?」
卓は鈴世の思いがけない言葉に照れも忘れてきょとんとした。
「親父?」
「ああ。・・・・照れ屋でぶっきらぼうで・・・顔も小さい頃の兄さんにそっくりだしな。。。
そういう風に照れてるのを見ると思い出すよ」
鈴世はふふっと手を口もとに当てて微笑んだ。

「あぁ、・・・・親父は一度生まれ変わったっていってたな・・・・そんなに似てる?」
卓は普段あまり自分の感情を見せない父の意外な情報に興味をひかれた。

「ああ。そっくりだよ。・・・でも卓・・・・、時には積極的に自分の気持ちを表すことも大事だぞ。
お前の心に誰がいるのかは知らないが、俺も応援するからな。」
そういって鈴世は軽くウィンクした。

卓は再び顔を赤らめた。
「な、な、な・・・・なんでわかるの・・・・?」
「ハッハッハ、やっぱり?なんかそんな気がしてさ♪」
鈴世は笑った。
(やられた!!)
卓はついもらした自分の気持ちにさらに顔を赤くさせた。

「でもな、兄さんも、普段はどうしょうもない照れ屋だけど、キメるときはきちんとキメる人だ。
お前にとっても見習うべき人だよ。がんばらなきゃな。」
鈴世は少し真面目な顔に戻して卓に言った。
「親父が・・・?」
「ああ、俺も子供の頃は兄さんの考えが理解できないときもあったけど、今となっては
わかるな・・・。男らしい人だと思うよ。お前もその血を引いてるんだ。
やるときはやれる男だよ。きっと」



卓はほぉーっと息をついた。だが、心は自然と落ち着いていた。
「・・・鈴世にはかなわねえな・・・。俺・・・・ちょっと魔界に行ってくる・・・。
会いたい人がいるんだ・・・・」
卓は紅茶のカップをゆらゆら揺らしながら言った。
「・・・・・そうか。がんばれよ・・・・」
鈴世はニコッと笑ってポンと卓の肩を叩いた。

卓はカップを置いて、すくっと立ち上がるとドアの方へ向かったが、
もう一度振り向いて言った。
「今度、また話聞いてくれる?親父やお袋には言いにくいからさ。。。。
なんだか鈴世には言いやすい・・・・」
卓は目をそらしながら言った。

「ああ、俺でよければいつでも☆」
鈴世は優しく言った。
卓はニッと笑って部屋を出て行った。






鈴世は卓の後姿を見届けた後、
穏やかなくすぐったいような気持ちで天井を見上げた。

あの卓が恋ねぇ・・・・・・

でも最後に見た彼の表情は今までに見せたことのない大人の顔をしていた。
今度聞ける話は、幾分進んだ話を聞けそうだな・・・

鈴世はふっと笑って少し冷めた紅茶を口に含んだ。





あとがき

鈴世と卓の叔父と甥の関係のお話でした。
日常的な坦々としたお話になってしまいましたが・・・・・。
鈴世って、弟のイメージが強いですが、(弟だけに)
兄的立場になると、とてもいいお兄さんぶりを発揮できるんじゃないかと思って、
書きました。

卓の初恋へのとまどいはうまく表現できていましたでしょうか・・・
原作では知らない間に恋に目覚めていたものですから、
ちょっとこの機会に書いてみたんですけど・・・










053 アイタイ。