今日のために背伸びして買ったピンヒールの靴をカツカツと鳴らしながらひとりで歩く。
その音は教会の控え室の前で止まった。
”コンコン”
控え室の扉を軽くノックした黒いロングのストレートヘアの女性。
今日は結婚式ということでアップにまとめてある。
「ハイ?どなた?」
「江藤です。江藤蘭世です」
ゆっくりと扉が開かれて中から花嫁の母親らしき女性が出てきた。
「まぁ。今日はお忙しいところありがとうございます。どうぞ中へ」
「失礼しまーす・・・・・・・」
うわぁ・・・・・・・・・
「りおちゃん、きれーい・・・・・・」
「蘭世ちゃん!来てくれてありがとう!!」
「おめでとう!!りおちゃん!!!」
手を取り合ってはしゃぐふたり。
「りお、お母さんちょっと外に行ってるから」
「はい」
ふたりを残してりおの母親はドアを閉めた。
「本当に、とってもきれい。それに幸せが溢れてるわ」
そう言われて「エヘッ」と照れてブーケで顔を隠す花嫁。
それに比べて自分は・・・
蘭世はそう思わずにはいられない。
「?どうしたの?蘭世ちゃん。なんだか浮かない顔してる・・・」
「するどいなぁ。りおちゃんは」
首をすくめてカバンをブラブラとさせた。
「実はね・・・真壁くんとケンカしちゃったの」
「ケンカ?どうして?」
ううん。ケンカにもなっていないのかもしれない。
勝手に自分一方的に怒ってるだけ。
怒ってるというより・・・ふくれてるだけ・・・
なにが理由か?と言われるとよくわからない。
自分の気持ちが不安定なだけ。
りおちゃんが結婚すると聞いて焦っただけなのかもしれない。
「今日は真壁くんと一緒に来てくれたの?」
「・・・ううん。実は別々に来ちゃった・・・・・・」
ここ2週間。まともに連絡もしていないしまともに話もしていない。
バカな意地の張り合い。
「ごめんね。せっかくの結婚式なのにこんな暗い話をしてしまって」
「蘭世ちゃんの気持ち、私もよくわかるよ・・・」
「りおちゃんはうらやましいな。遼太郎くんがちゃんと言葉にしてくれる人で」
俊はなにも言ってくれない。言葉にしてくれない。態度で示してくれない。
だから・・・不安ばかりが募る。ひとりで空回りばかりしている。
そんな自分に蘭世は疲れきってしまった。
「う〜〜〜ん・・・そうでもないよ?遼太郎くんも」
ブーケで口元を隠しながらボソボソとつぶやくりおは苦笑い。
「でも・・・真壁くんは蘭世ちゃんのそばにちゃんといてくれるでしょう?」
”そばにいてくれるでしょう?”
りおがこの言葉をいうとズシッと重みがある。
「例え毎日会えなくても、声が聞けなくても・・・
なにかあったらすぐ飛んで来てくれる距離に真壁くんはいてくれるでしょう?」
優しい眼差しで蘭世を見つめるりお。
「例え言葉にしてくれなくても真壁くんはちゃんと蘭世ちゃんのことを大事にしてる」
”大事にしてる”
りおの言葉が蘭世の心の隅々までさざ波のように染み渡っていった。
「蘭世ちゃんは・・・真壁くんのことを信じてる?」
(私は真壁くんのことを信じていないのかもしれない・・・)
そう言われて気づいた。
なにも言ってくれないから信じられないのではない。
会えないから不安。声が聞けないから不安。
そんなこと言ったら・・・・・・・・
「私たちなんてとっくに別れててもおかしくないでしょう?」
りおはワザといたずらっぽく言った。
「・・・そうだね・・・・・・・・・」
焦ってもしかたがないこと。
不安になってもしかたがないこと。
でも・・・俊はそばにいてくれる。それだけで十分だったはず。
「ねぇ蘭世ちゃん。だれかにあとで私たち女同士のツーショット写真撮ってもらおう!」
「うん!!」
じゃぁ、またあとで、お式で号泣しないでよ?と蘭世は言い残して控え室をあとにした。
カツカツカツカツカツカツ・・・・・・・・
また慣れないピンヒールを思いっきり鳴らして歩いた。
背筋をピーンと張って歩いた。
教会の扉をギィ・・・と開けるとひとりの男性が目に入ってきた。
「あ・・・・・・・・」
俊がタキシード姿の遼太郎となにか話し込んでいた。
(真壁くん・・・・・・)
ヘンな意地を張らなければふたりで笑って「おめでとう」と祝福できたのに。
ヘンな意地を張らなければここまでの道のりを一緒に来ることができたのに。
「明日どうする?」そんな打ち合わせもしなかった。
もしかしたら今日の朝、家まで迎えに来てくれるかもしれない・・・
そんな淡い期待もしてたの。バカな蘭世。
「じゃぁな。がんばれよ」
軽く遼太郎に手を上げてこちらに向かってくる俊。
蘭世のほうへと近づいてきた。
「よぉ・・・久しぶり・・・・・」
「なによ・・・その久しぶりって言い方・・・・・」
「別に?本当に久しぶりだろーが?!」
だれのせいよ?バカ!!
プク〜と頬を膨らませプイッと顔をそむけてしまった。
(バカバカ。たった今自覚したばかりなのに・・・・・)
そんな蘭世の思考を読んでるのか読んでいないのか、
俊は蘭世の隣に立った。
「ひとりでここまで来たのか?」
「ひとりじゃなかったらどうやってここまで来るの?!」
「そうだな・・・・・」
蘭世と俊の間に沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは蘭世のほうだった。
「さっきね、りおちゃんの控え室を訪ねたの」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「りおちゃんね、とってもきれいだった・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「輝いて見えた。幸せのオーラが見えた」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「そう見えるのはりおちゃんが遼太郎くんに愛されてるからだと思った」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「だけど・・・・・・・・・・」
「だけど・・・・・なんだよ?」
蘭世は一呼吸置いて続きの言葉を発した。
「それは違ってた。りおちゃんはずっと遼太郎くんのことを信じてるからなんだって」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「私は・・・真壁くんのことを信じていなかったのかもしれない・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ごめんなさい・・・・・・・」
勝手にひとりですねたりして・・・・・・・
蘭世は口には出さなかったが俊にはその思いが伝わってきた。
「 そうさせたのはおれだ」
「えっ・・・・・・?」
俊がそう言いかけたとき。
『ご列席のみなさま。新婦の入場でございます。ご起立してお迎え下さい』
参列者が一斉に立ち上がり、バージンロードのほうに向いた。
扉がゆっくりと開かれ、パイプオルガンの音色が教会中に響き渡った。
父親に導かれてバージンロードを歩き出すりお。
ベールでりおの表情はあまりわからない。
そんなりおを遼太郎は祭壇の前で待っている。
えっ?・・・・・・・・・
蘭世の右手にふわっとぬくもりが伝わってきた。
俊の左手がしっかりと蘭世の右手を握った。
(真壁くん?)
りおの父親と遼太郎がお互い会釈をし、りおの腕は父親から遼太郎へと渡された。
遼太郎とりおは祭壇へと進む。
『ご着席下さい』
参列者は一斉に着席した。
俊と蘭世の手はしっかりと握り締められたまま。
(真壁くん・・・恥ずかしいから手を離して・・・)
心の中で俊に呼びかける蘭世。
その声は俊に聞こえているはずなのに俊は手を離そうとしない。
(真壁くんってば!)
賛美歌が流れ、儀式が進む。
誓いの言葉
指輪の交換
そして誓いのキス・・・・・・・・
まるで自分のことのように感情移入してしまった蘭世は自然と涙が溢れてきた。
そんな蘭世の姿を横目でチラッと見る俊。
握り締めていた左手にさら力を込めた。
( 江藤・・・・・
「いつか・・・・・」と言ったあの言葉は忘れていない。
おれはこんなんだからうまく言葉にしてやれねーけど・・・・・)
俊の思考が蘭世の頭の中へ流れてくる。
(真壁くん?)
俊の表情を確認しようと蘭世は横を見た。
(今この場所で誓うよ。近い将来、必ず・・・・・・)
(真壁くん・・・・・・・・)
不器用な人がここまで言ってくれた。
もうそれだけで十分。
たとえもしこの先結婚できなかったとしても。
傍にいられるだけで、傍にいてくれるだけで幸せなの。
そんな大切なことを、傍にいられることの幸せを忘れていた。
そのことを気づかせてくれてありがとう。りおちゃん。
先のことはわからない。
だからこそ「今」を大事に生きていくのね。
「真壁くんが好き」
改めて心の中でつぶやいてみた。
チラッと横目で見ると案の定俊の顔はゆでダコのように真っ赤。
さっき控え室でりおちゃんと「女同士のツーショット写真を撮ろう」と約束したけど
それとは別にカップル同士でも写真も撮ってもらおう。
いつか。
いつの日か。
私も今日のりおちゃんのようになれるようにがんばる。
りおちゃんに追いつけるように・・・・・・・
りおリコさんのサイト『It's Always Pure』サマの閉鎖に伴い、お礼作品を拝見させていただきました。
とっても素敵なお話なので、ついついkauはずーずーしくもフリーとおっしゃってくださるりおリコさんのお言葉に甘えて頂いてきてしまいました^^;
こんな真壁くんがkauは大好きです。
彼の大きな手からのぬくもりが実際に伝わってきそうですvv胸キュンxxx
りおリコさま宅の閉鎖は非常にkauに淋しさをもたらしましたが、
今までの感謝も込めて、大切にお預かりさせていただこうと思います。
どうもお疲れ様でした。
またちらっとでもお姿拝見させてくださいませ☆
どうもありがとうございました♪
kauran
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