春嵐のあとに


                           
  written by  りおリコ
















桜もだんだんと花開き、気温もポカポカと暖かくなってきた4月の初旬。



朝からすっきりしない空は昼過ぎからさらにどんよりとグレーがかり、
とうとう堪えられなくなって滴を落とし始めたのは夕方頃からだった。


部屋の窓から、暗闇の中霧がかった空を見上げてため息をつく。
どんなに見上げてみても空から落ちてくる雨は止む気配がない。
雨が降っているせいか、肌寒く感じる。
母に余っていた暖房器具を引っぱり出してもらい、部屋の中に持ち込んだ。



”女心と秋の空”



とよく言ったものだが、春の天気も変わりやすい。
雨脚は弱まるどころか、だんだんと激しくなる一方で、窓に叩きつけられるような雨音が響く。
台風さながらの強風で外の木々の枝も大きくしなりざわめいていた。
せっかくの桜もこの雨と風で散ってしまいそうな強さである。





今から1時間ほど前に彼からかかってきた一本の電話。

さすがの魔界の王子でも、天候ばかりはなんともできない。
・・・ううん。待って?

「真壁くんならお天気どうにかできるんじゃないの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「だって昔、大王様との決闘のときに雨降らしたことあったよね?」
「・・・あのときは仕方がなくやったことだ・・・・・・」
「雨は降らせることができても、晴れさせることはできないの?」
「やったことないからわからねぇよ!!」
「えぇ〜〜〜??」
「江藤。そこまでして晴れたからって本当にうれしいのか?」

彼が言わんとしていることはわかっている。



”ここは人間界であって、自分たちは人間界で生きているんだから”



・・・もちろん、能力なんか使わずにちゃんと晴れて欲しい。
正々堂々と、お天気と向き合ってみせるわ!
ちょっと言ってみただけなのにそんなに真剣にならないでよv

「仕方ねぇから、てるてる坊主でも作って窓際に吊るしておけ」
「もう!子ども扱いしないでよ〜〜」


そう拗ねて膨れてみたが・・・やはり作ってしまった。
窓際に吊るしたてるてる坊主の顔を愛嬌のある笑顔であるよう作ったのに、
なんとなく沈んでいるように見えるのは気のせいだろうか?



「これで明日雨がやんでくれればいいのに・・・・・・」








「こうなったら、やっぱり神頼みかしら?」


・・・そこでふと、思った。

「魔界に神様っているの?」
人間界には「神」と崇められて祭られている神様はたくさんいるけど。
生命の神は・・・・・・何者をも超越した「神」であろう。





もうひとつ、さらに深いため息をつき、カーテンを閉めた。
既に新居に荷物を運んであるため数日前とはうって変わって、ガラ〜ン、とした殺風景な部屋。
ここが長年過ごしてきた自分の部屋なのかと思うとなんだか寂しさがこみ上げてきた。







そんな部屋の中に吊るされた、1着のオフホワイトのウエディングドレス。
「純白より、クリームがかったオフホワイトのほうが白い肌が一段と映えると思いますよ〜」
店員の言葉に気を良くしてこの色のドレスを選んだ。
 


明日、このドレスを着て彼と永遠の愛を誓い合う。



永遠の命を持つ魔界人同士。
これから、気が遠くなるほどの長い年月を彼と一緒に歩んでいく。


それが私たちが選んだ道。


大切な誓いをする大事な一日。
だからなんとか、なにがなんでも晴れて欲しい。



そんな心とは裏腹に、無常にも天気予報はこの雨が明日も残る確率は高いとのこと。




「春の天気だって変わりやすいんだから、予報がはずれてもしかしたら晴れるかもしれないし」




つけていた暖房を切り、部屋の灯りを消し、胸に淡い期待を抱きながらそっとベッドに潜り込んだ。





瞼を閉じて思い浮かんだ光景は。


雲ひとつない晴れ渡った青空。満開の桜の樹に囲まれた教会。
宙に舞う花びらの数々。みんなの祝福を一身に受ける幸せ。
そして・・・・・・優しく微笑んで腕を取ってくれる彼。



この光景が明日現実となりますように。



心の中でそう願った。





外を駆け抜ける強風、激しく降り続ける雨音を耳にしながら、蘭世は眠りについた。











●kauからのコメント

りおリコさまより今の季節にぴったりなお話をいただいちゃいました。
(というより強奪)
俊と蘭世の結婚式前夜ということだそうです。
蘭世ちゃんのそわそわ加減がとってもリアルでかわいいでしょ〜v
王子の相変わらずのまじめっぷりもすっごくわかる〜☆
りおリコさま、素敵なお話どうもありがとうございました^^





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