THE NEW YEAR'S PARTY








  
この作品は新年を記念してフリー小説とさせていただきますので
   お気に召されましたらどうぞお持ち帰りくださいませ














「ったく・・・アノヤロウ、こき使いやがって・・・」

大広間の中央に重厚感を漂わせながら置かれているソファーに、俊はドサリと腰を落とした。

窮屈に身を包んでいる仰々しいマントを投げやりに肩から外し、無造作に隣に置く。

そしてう〜んと大きく伸びをしてソファーの背もたれに頭を乗せるとはぁと一息ついた。

ここは魔界城。

時は新年。ニューイヤー。

そこに人一倍気だるそうな男が一人。



「なんで、俺までこんなことしなきゃなんねーんだよ・・・」

俊はため息混じりに一人愚痴る。

まだ城の外では、いや、この大広間の外を一歩出れば、にぎやかな音楽と楽しげな声が聞こえてくる。

俊はまだ夜も明けないうちからここ、魔界の王であるアロンに半分拉致に近い状態で連れてこられ、

到着するや否やこの(大嫌いな)王族の衣装に着替えさせられ、魔界全体で開催されている新年祭に

半ば強制的に参加させられることになった。

俊の最大の抵抗もこんなお祭りごと時こそ最大限の力を発揮してしまうアロンの前では空しく散るだけで

勢いに押されて魔界中で行われている数々のイベントにて挨拶だのコメンテーターだの

なんだかわからない審査員なんかまでさせられ続けた。

そしてようやく今自由の時間を手に入れ、ここにいる。





事の発端はサンドの些細な言葉からだった。








*****     *****     *****







「なんか面白いことないかな〜」

アロンは退屈していた。

アロンが現王に就任してから魔界は緩やかにしかし大きく変わってきた。

王家は前よりもずっと民たちに近くなり、それに比例するように種族は種族個々としての分権が進められるようになり、

ゾーンの一連の大事件に大きく傷ついた魔界は新しい国家作りという目標に着々と歩んでいる。

アロンはこの魔界全体の前向きな流れに満足はしていたが、どこか物足りなさを感じていた。



「何かさ〜、こうみんなが一致団結できるようなこととかない?」



アロンは誰にともなく、椅子に座りながら言う。

すると側で仕えていたサンドが言った。



「そういえば、私先日人間界に行きましたときに、”くりすますパーティー”とか言う話を聞きました。

その”くりすますの日”とかいう日に人間界のあちらこちらでパーティーが行われるらしいんですよ。

装飾やら電飾やらいろいろと飾ったりして・・・人間界中が華やかになっておりました。」

「くりすます?それはなんだ?」

「いや、それは何を祝っているのかはわからないんですが・・・」

「ふーん、そういえば以前、蘭世ちゃんちでもそんなことしてたなぁ・・・あれかな?」

アロンは記憶の糸を手繰り寄せる。そしてアロンはハッと顔を上げる。

「そうだ!そのくりすますってのはなんかわかんないけど、もうすぐ新らしい年も迎えることだしさ、新年祭をしよう」

「新年祭・・・ですか?しかし、それは恐らく種族ごとですでに今まででもされているのでは?」

「それを、魔界中でやるんだよ!年が明けた瞬間から一斉に!そして盛大に!」

「それは楽しそうでございますわね〜」

隣で聞いていたフィラも楽しそうにうなづく。

「だっろ〜?ほらみんな今まで頑張ってきてるしさ、それを労う意味も込めてみんなでお祝いしようよ!」

「んまぁ・・・素晴らしいお考えですわ〜」

「ふふん♪今までそういうのがなかった方が不思議なくらいだよな。よし、これを成功させてこれからの新しい行事にするんだ!」

「新年って・・・それを今から準備するんですか!?」

「何だよ。できるだろ?」

「いや・・・しかし・・・民たちもそれぞれ準備をしているでしょうし・・・」

「それもぜ〜んぶひっくるめてやっちゃえばいいじゃないか。よし。これは楽しくなるぞ〜♪

おいサンド。大臣達と各種族の長たちを早速召集しろ。新年祭に向けての会議だ。」

アロンはそう言うと、スタッと立ち上がって楽しげに部屋を出て行った。

方やサンドは自らが言っってしまったことを大いに悔やみながら、今後の忙しさを想像してさらに頭をうな垂れさせた。




***





「それで、なんで俺もなんだよ!」

大晦日までバイトをして、ようやく自宅に帰ってきた俊を待ち構えていたのは、

大事な彼女・・・だけではなかった。

アロンは俊の言葉を聞いているのかいないのか、キョロキョロと部屋を見回す。

「おい、俊〜。ここあまりにも狭すぎないかぁ?別に城に住めとは言わないけどさぁ、

もっとあるだろ?他に。」

「いいんだよ!これで。」

「ったく〜・・・お前は仮にも魔界の王の兄なんだぞ〜。王にだってなってもおかしくない身なんだ。

なのにぃ〜〜」

アロンは物珍しそうに電気ストーブを覗き込む。

「あのなぁ・・・学校行きながら一人暮らしは大変なんだよ。って今そんな話してんじゃねえだろ!」

「新年祭・・・いいだろ?魔界中もみんなノリノリでさ♪いい祭りになるぞ〜」

「だから、それはいいけど、俺まで行くことねえだろ。お前らだけでやればいいじゃねえか」

「あ!またそんなこと言う!自分は関係ないみたいな顔しちゃって!」

「だって、現に俺はこっちで暮らしてるんだし、俺が行ったところで・・・」

「江藤家だって来るよ。ねぇ。蘭世ちゃん」

「え?あ・・・お父さんたちは行くって行ってたけど・・・」

蘭世は俊の顔を伺うように申し訳なさそうに言う。

「江藤家だってこっちで暮らしててもくるんだよ。江藤家だけじゃない、こっちにいる魔界人たちみんな戻ってくる・・・

そう・・・そんな日にしたいんだ!」

陶酔しきっているアロンを見て俊ははぁと大きくため息をつく。

「俊も絶対来て」

「もういいじゃねえか。俺は正月ぐらい家でのんびりしたいんだよ」

「俊の家は魔界城でもある」

確かに城の中に俊の部屋は用意されている。

ほとんど行くこともないが、常に準備されているのだ。

「ていうかさ。。。ホントマジで頼むよ。人手足りないんだ!」

そういってアロンは手を合わせて俊に頭を下げる。

「人手?」

「ほら、各イベントに挨拶して回らなきゃいけないだろ?あれ、どうやっても僕一人じゃ無理なんだよ。時間が足りない」

「別に全て行かなくてもいいだろ」

「そういうわけにはいかないよ!初めての国家イベントだよ?王が全て回れなくてどうすんだよ」

「だったら、そんな企画組むなよ!」

「どの種族だって大切にしたいじゃないか!仲間なんだから・・・みんなが出した案を全て大切にしたいんだ」

「気持ちはわかるけどよぉ」

「だから頼む!お願い!」

「他に誰かいねえのかよ。大臣だとかさ、親族だっていんじゃねえの?そうだ、お袋でもいいだろ」

「ダメ、僕の代わりは俊しかいない」

「全然魔界にいついていない俺よりもそっちの方が絶対いいって。」

「いーや!お前は気づいてないだろうが、俊の人気は絶対だ。」

「なんで」

「知らん」

「あのなぁ・・・」

「あの・・・いいんじゃない?真壁くん・・・こんなのって初めてだし、アロンもここまで言ってるんだし・・・」

「蘭世ちゃん♪」

「お前まで!?」

「みんなきっと喜ぶよ。真壁くんが来てくれたら」

「・・・でも・・・俺挨拶なんてできねえし」

「そんなの、こっちで全部台詞用意するからそれさえ言ってくれるだけでいいよ〜」

「・・・・・・」

俊が無言になったのをきっかけに、アロンはよしっ!と立ち上がった。

「決まり!もう待てない。行くぞ!時間ないし」

そういってアロンは俊の腕を掴む。

「おい!待て!俺はまだ行くとは・・・。」

「うるさい。行くって行ったら行く。王の命令は絶対なんだ!」

「コラ!何が王の命令だ!待て!」

「じゃあ蘭世ちゃん、俊を先に連れて行くから後で城に来てね」

そういってアロンは引きずるようにして俊を背後から抱えテレポーテーションした。



「行っちゃった・・・」

蘭世はその光景をポカンと口を開けてみていたが、ふぅと一息吐くとクスリと微笑んだ。







*****     *****     *****







俊は疲れた体をソファーに沈めた。

今何時なんだ・・・?

魔界の時間は未だによくつかめない。

でももう外も暗くなってきているし、そろそろお開きのはずだ。

「あ〜あ」

俊はふてくされた顔でまたため息をつく。

元旦は蘭世と一緒に過ごそうとしていた。

特に約束をしていたわけでもなかったが、クリスマスもバイトであまり長くは一緒にいられなかったし、

ようやく手に入れた休みにのんびり蘭世と初詣なんか行ったりして

俊なりの予定を立てていたのだ。

アロンの立てたこの新年祭の企画は確かにいいものだ。

アロンの目指すものも理解しているつもりだし、この祭りはちょうどいい節目になるだろう。

それはわかる。

しかし、何で俺まで!!!

アロンの手伝いをしたくないわけじゃない。

自分だって役に立つのならそれでもいいのだ。

しかし、その役割が問題だ。

裏方ならなんだってやるのだ。誰がなんといおうと、やはり自分だって王家の一族なのだし、

普段全て魔界のことはアロンにまかせっきりなのだから、頼まれれば断りはしない。

だからってなんでこんな表舞台に立たせるんだ!!!

「あいつ・・・絶対面白がってやがる・・・」

アロンはアロンなりに兄を立てようとしているのかもしれないが、半分は絶対面白がっているに違いない。

あの顔つきでわかる。でも何故か言いなりになってしまう自分が恐い。

「アノヤロウ・・・覚えとけよ・・・」

そういって俊が少しウトウトと仕掛けたとき、コンコンと大広間のドアのノックする音が聞こえた。

俊は目を開けてそのドアの方を見る。

「はい?開いてるけど」

するとゆっくりと重厚なドアが開き、そこからメイドのような姿の女性が顔を覗かせた。




「失礼いたします。あの王様が俊様を最上階のお部屋にお通しするようにとのことで・・・」

「はぁ?まだ何かあんのかよ・・・」

「お仕事ではないようなんですが・・・」

「用があるならそっちからこいって伝えてくれ」

「え、あ、あの・・・申し訳ありません、必ずお連れするようにとのお達しでございまして・・・」

そのメイドは深々とお辞儀をしたまま顔を上げない。

初めて間近で見る現王の兄君に恐縮しているのか少し体も震えているようで

俊は少し気の毒になった。

「・・・はぁ・・・わかった。行くよ。」

「あ、ありがとうございます」

メイドはパッと頭を起こし安堵した顔で微笑み、俊もそれをみて少し苦笑した。




***





「こちらです。どうぞ」

こんな部屋があったのか。。。

初めての場所に足を踏み入れて俊は少しキョロキョロしながら部屋の中に入る。

するとそこにはアロンではなく、蘭世が薄い紫色のドレスに身を包んでソファーに座っていた。

「あ・・・」

「真壁くん!」

蘭世のあまりの美しさに一瞬目が奪われる。

ドレス姿は初めてではないが、以前に見たどの姿よりも洗練され、輝いていた。

そして、ソファーの前のローテーブルにはおいしそうな料理とお酒も並べられていた。

蘭世が席をたって俊に近づく。

「これは?」

「アロンがここで待ってろって・・・」

「なんだ?あいつ」

「あの・・・」

先ほど俊を連れてきたメイドがそっと口を挟む。

「王様が、お二人にこちらで新年を祝っていただくようにとご配慮なさったようで・・・」

「アロンが?」

「これを・・・」

そういって白い封筒に入った手紙を差し出す。

そして深くお辞儀をして部屋を出ていた。

俊がその中のカードを取り出す。



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いろいろやらせちゃってごめん

これは僕から二人への”おとしだま”だよ。

(人間界じゃ新年のプレゼントのこと”おとしだま”っていうんだろ?)

これでかんべんしてね。

これからもよろしく

                   アロン



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アロンの直筆だと思われるカードを目にして俊は一瞬口ごもり、ずんと胸が熱くなるのを感じた。

「字下手だな。」

「真壁くん!そんなこといっちゃダメでしょ」

蘭世はぶっと吹き出しながら俊を諌める。

「お年玉って・・・ちょっとまちがって理解してねえ?」

何となく照れくさくて悪態ばかりついてしまう。

「アイツ・・・気使いやがって・・・」

そんな俊の気持ちを知ってか知らずか蘭世が言った。

「アロンも真壁くんと一緒に新年祝いたかったんじゃないかなぁ・・・。」



「・・・・・・」

「ゾーンの事件が終わって、バタバタしたまま今日まで来ちゃったけど、

だからこそ今回の新年祭、真壁くんにも参加してもらいたかったのよ。きっと。

二人でがんばって守った魔界でしょ?お礼言いたかったんじゃない?」

そういって蘭世は微笑んだ。

「やることが大げさなんだよ、アイツは。」

「照れくさいんでしょ?普通にはお礼言えないのよ。

似てなさそうで似てるのね。やっぱり兄弟って」

「似てねえ。アイツの考えてることは俺にはわからねえ」

「そっかな。口には出さないけどお互いを思いあってるとこなんかすごくよく似てると思うけど」

「・・・・・・ばーか」

そういって、俊は蘭世の頭を軽くこづく。

「せっかくだ。食おうぜ。俺、あちこち連れまわされて何も食ってねえんだ。腹ペコ」

そういって俊はソファーにドカッと腰を落とした。

そして、用意されていたお酒をグラスに注ぐ。

「未成年だけど・・・」

「いいんじゃねえの?ここ魔界だし。お酒なのかなんなのかよくわかんねえし」

俊がフッと笑う。

「そうだね。って、正直、この料理もすっごく豪華だけど、具材がなんなのかよくわかんないよね・・・」

蘭世はそういって苦笑する。

「魂じゃあねえみたいだし・・・大丈夫だろ」

俊はそういってグラスを蘭世に渡す。

「人間界じゃないけど・・・あけましておめでとう」

「あけましておめでとう」

そういって二人がグラスをチンと合わせた瞬間、

魔界の夜空に大きな花火が上がった。

「うわっ」

「すごーい。綺麗だね〜。」

そういって二人は顔を見合わせて微笑むと俊は蘭世の手からグラスを取りテーブルに置くと、

肩を抱き寄せてそっと唇を重ねた。













<END>









あとがき

ひっさびさの新作でしたが、いかがでしたでしょうか?
もう間に合わない!って思ってたんですが、意外と早くお掃除が終わったので(ていうか終わらせた)
頑張って書きました。
慌てて書いたのでかなり乱文ですが・・・
しかし、俊蘭というより兄弟愛みたいになってしまいました。。
最後無理やり甘く持ってったみたいな・・・^^;
すみません。。。
こんなのでよろしければどうぞお持ち帰りくださいませ。

2008年もどうぞサイト共々よろしくお願いいたしますvv










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