慣れていこうよ












 
トントン・・・

「・・・まだ帰ってないのかな〜?真壁くん・・・」

言葉にしてみるものの、部屋の中に主がいないということは、いつもはドアの隙間から漏れ出る光が

今日は見られないことから蘭世は薄々感じていた。





すーっと冷たい空気がアパートのひっそりとした廊下を駆け抜ける。

蘭世はぶるっと身ぶるいしながらもう一度トントンとドアをノックした。

案の定、返事はない。

今日は大晦日。明日はお正月ということで、今日のお弁当はおせち料理。

明日は俊もうちにくることになっていたが、年越しを一緒に過ごせたらと思って、

蘭世は思わず飛び出してきた。

俊は年末ということで、今日は遅くまでバイトに入っているということは聞いていた。

蘭世は少し思案したのち、バッグから一つの鍵を取り出した。





先日、俊からもらったこの部屋の合鍵。

夜遅くに弁当を差し入れにくるものの、俊も留守にしがちだ。

そのまま外で待たせるのも、そのまま帰らせるのも、年の瀬だし何かと物騒だから

部屋で待っとけという理由で、俊は蘭世に合鍵を渡した。





蘭世は黙って手のひらに乗せた鍵を見た。

もらったものの、まだ一度も使ったことがない。

学校が冬休みに入り、俊も朝からバイトにいけるようになったため、その分、帰ってくるのも

早くなった。

蘭世はお弁当を届ける頃にはもう俊も帰宅している。






もらったものの、いざ使うとなると蘭世は少し躊躇した。

うれしいようなドキドキするような、ホントに入っていいのかどうかもいまいちつかめない。

彼の知らない一面を覗きみるようなそんな妙な興奮が蘭世を襲う。

「でも、でも真壁くんが入って待っとけって言ったんだもんね。入ってもいいのよね」

蘭世は思わず口に出してそう自分に言い聞かせ、よしっと一言気合を入れて、

ゆっくりと鍵を鍵穴に差し込んだ。

その瞬間、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「よぉ。来てたのか?」

いきなり声をかけられて、蘭世はガッチャーンっと持っていたお弁当の袋を落とし、

ぎゃっ!と奇声を発して飛びのいた。

「お、おぃ!」






蘭世が振り向くと俊がちょうど階段を上ってきたところだった。

蘭世がひっくり返るのを俊は目撃し、目を丸くして急いで蘭世を引き起こした。

「ま、真壁くん・・・帰ってきてたの?びっくりした・・・」

蘭世は驚いた心臓の鼓動を抑えようと胸に手を当てながら大きく深呼吸した。

「なんだ?冷たくなってるじゃねえか・・・入っとけっていっただろ」

俊は蘭世の手が冷たくなっているのに気づきそう言いながら、自分の鍵でドアを開けた。

「ほら、とりあえず入れ」

「う、うん」






蘭世は落としたお弁当を拾い上げてから部屋に入った。

主に明かりをつけられた部屋は、見慣れているはずなのに、少し違った感じがした。

そして俊のにおいが蘭世の胸をくすぐる。

(やっぱり・・・勝手に入るのはなぁ・・・)

妙な違和感を覚えて蘭世は黙って靴を脱いだ。





「あ〜あ、こんなになってる〜!今日、お節料理だったんだよ〜」

蘭世は持ってきたお弁当箱をあけると、先ほど落としたために横に寄ってしまっている食材を目にして、

あ〜あとため息をもらした。

「いいよ。食えりゃ」

俊もコートを脱ぎながら言った。

俊がキッチンの明かりをつけて手を洗い、ガスに水の入ったやかんを置く。

一連の作業がとてもスムーズで、蘭世はぼぉーっと俊の背中を見つめていた。

この部屋にこの人ありきのような、そんな感覚。

「なんかね、入ろうと思ったんだけど、入ろうとしたらこの部屋が拒否してる気がしたの」

蘭世はコートを脱ぎながら言った。

「はぁ?拒否?なんだそれ」

俊は電気ストーブに電気を入れながらきょとんとした顔で振り向いた。

「やっぱり、鍵を開けるのも、部屋に明かりをつけるのも・・・真壁くんじゃないと変な感じ・・・」

蘭世はちょこんとテーブルに向かって座りながら言った。

「そうか?・・・よくわかんねえけど?」

俊は蘭世の隣に座り込んで首をかしげた。

「やっぱりここは真壁くんの部屋だから、勝手に入っちゃいけない気がするの。

 真壁くんの空気がここにあるっていうか・・・。その空気を乱しちゃいけないっていうか・・・」

「俺が入っていいって言ってんだからいいじゃねえか」

俊は怪訝そうな顔をして言う。

「ん〜。そうなんだけどね。それに慣れればなんてことないんだろうけど・・・」

俊は黙って蘭世の顔を見つめた。

「それに外で待ってるのも、ロマンティックで結構楽しいかな〜なんて・・・」

蘭世はエヘっと首をすくめて舌を出した。





(・・・うっ・・・かわいい・・・かも・・・)

俊は蘭世の仕草に胸がきゅっときしむのを感じた。

そんな小さなことで気をもむ蘭世もかわいいと思ったが、そういう風に思わせているのが自分であるということも

俊の自意識を高ぶらせることになる。

俊はそっと蘭世の頬に手を当てた。

蘭世はドキリとして思わず体を強張らせる。

「・・・すぐ慣れるさ・・・」

そういって俊は口端をあげるとそっと蘭世の唇に口付けた。

ひんやりとした唇が徐々に熱を帯びてくるのがわかる。

「慣れてもらわないと俺が困る・・・」

唇を離してそう耳元で囁くと俊はそのままその口を蘭世の首元に寄せた。

「・・・うん・・・」

蘭世はまだ慣れない行為に戸惑いながらも、俊の首に両手を回し、ゆっくりと自分の体を倒していく俊の重みを

体全体で感じていた。






どこか遠くから除夜の鐘が耳に届いてきた。

「年越しでってのもいいな・・・」

俊は蘭世の髪を撫でながらイタズラそうに笑った。

「・・・バカ・・・」

蘭世は顔を赤くしてそういいながらも、俊の体を自分に引き寄せた。

来年の今頃は、もっと慣れてる・・・・

この部屋にも、この体にも。。。。。








<END>



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あとがき

年末に何書いてんだぁ〜〜〜!!!(汗汗)
しかも贈り物だというのに・・・。ご、ごめんなさい・・・。
14巻の気持ちが通じあったあと何ヶ月かたっている・・・という設定です。(勝手に設定^^;)
めっちゃ内容のない内容になってしまってますが、
新年のお祝いにということで贈らせていただきます。
新年早々目を汚させてしまって申し訳ありませんでした。

こんなkauranですが、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます・・・^^