brothers  〜after〜


         ◇短編でもお読みいただけますが、前作の『brothers』を先ずお読み頂いた方が
          よりお楽しみいただけますv




お題 【欲望】
カップリング 【俊×蘭世】








扉をあけて外に出ると、ひんやりとした風が俊の身を包んだ。
俊ははぁと一つため息をついて空を眺めた。

今夜は月が出ていない。
済んだ空には星がまたたいていた。



「・・・ったく・・・アロンのヤツ・・・」
俊は一人、ポツリとつぶやいて、首からかけていたスポーツタオルを両手でぐっと握り締めて引っ張った。

俊は先ほどのアロンとの会話を頭から払拭させるかのようにぶんぶんと首をふった。

・・・・・・蘭世ちゃんとはもう結ばれたの?・・・・・・・
・・・・・・疲れを癒すには女の体が一番なんだよ・・・・・・・
・・・・・・蘭世ちゃん呼んできてあげるよ〜・・・・・・・

アロンが言った言葉が頭の中を何度も往復する。



蘭世とのプラトニックな関係をどうにかさせたいと思っていたのは事実であった。
俊も男である。
一緒にいれば当然、邪な考えが頭をよぎる。
押し倒したい衝動に駆られる。
しかし常に理性を無理やりにでも優先させて今まで耐えてきたのだ。

自分の身が運命に翻弄され続けていると感じ、下手に手を出していいものかとためらっていたのもあったが、
それよりも何よりも
一歩深く進むことで、今の関係が何か大きく変わってしまいそうで
妙に臆病になってしまってもいたのだ。



だが、実際、アロンとの会話は、そんな俊をやけに刺激させた。
ボクシングの試合に向けての、連日の厳しい練習と、ハードな減量という禁欲生活の中で、
自分もそしてアロンも神経が高ぶっていたのかもしれない。

アロンが欲を発散させたいと言った気持ちもわからないわけではない。
しかし、感情を表に出すのを苦手とする俊にとっては、ストレートすぎて対応しきれず、そして、
確実に実体験に基づいていると思われるそのアロンの言葉は、あまりにも生々しく連想させるものであり、
そのままでは、胸のざわめきは収まりがつきそうにはなかった。



「女にうつつを抜かしてる時じゃねえっつーの」

自分の心の動揺に気づきながらも、それとはうらはらな言葉で俊は自分自身を戒めた。
試合の日は着々と近づいてきている。
これぐらいのことで心を乱されている自分を俊は自嘲した。



「ひとっ走りしてくるか・・・」
心のもやは体を動かすことでしか俊は転化させることができない。
自分に言い聞かせるように俊はそうつぶやいて門を出ると、そこには想いを寄せる女の姿があった。

「あ・・・真壁くん・・・」
蘭世は俊の姿を見つけるとそうつぶやいた。

俊はその姿を確認すると、げっ・・・と小さくもらして門に背が当たるまで後ずさった。
「え・・・江藤・・・何やってんだ?こんな時間に・・・」
先ほどまで頭中で膨らませていた妄想を思い出して、俊は自分の顔に熱がおびるのを感じた。

「う〜ん・・・アロンがね・・・うちに来てるんだけどぉ・・・」
蘭世はうつむいて、右のかかとでもう片方の足先を小突きながらボソボソとつぶやいた。

「あ・・・・」
俊は先ほどアロンが発した言葉をもう一度思い出した。

・・・・・・蘭世ちゃん呼んできてあげるよ〜・・・・・・

「あぁ・・・さっきお前んち行くって出てったけど・・・・・・・あ、あいつ・・・何か・・・言ってたか?」
俊は心臓がバクバクしているのをひたかくしにして平静を装いながら言った。
冷や汗が流れる。

「え?ううん。何も言ってなかったけど・・・・なんていうか・・・///」

「な、何だよ・・・(汗)」

「フィラさんと・・・なんか・・・その・・・・いい感じ〜?みたいな・・・・」
蘭世はあははと顔を赤くさせながら笑った。

「えっ・・・・(アノヤロウ・・・畜生)」
俊はアロンの行動を想像してしまったのと、蘭世の赤らめた顔につられたのとで
一気に顔を真っ赤にさせて横向けた。この場を切り抜ける方法が思いつかない。



「何か、隣の部屋でもいづらくって出てきちゃった・・・」
蘭世は照れ笑いを続けながら言った。

沈黙が二人の間を駆け抜ける。
俊が蘭世の方に目を向けると蘭世も同じような目で俊を見ていた。
蘭世のうるんだ瞳に俊は引き込まれそうになる。

街灯の明かりがチラチラっとちらついた。

俊は無意識のまま、蘭世の頬に手を添えた。
俊の指先に蘭世の体温がじんわりと伝わってくる。
蘭世は一瞬びくっと肩をすぼめたが、俊の瞳から視線をはずすことはなかった。

キスくらいなら何度か交わしたことがある。
だが、今日は、今日だけは、そのいつものフレンチなキスのまま終わらせる自信が俊にはなかった。
蘭世の自分を見つめる目が何を意味しているのか、気持ちを読む余裕すらない。
自分の中の葛藤を消化させることで今はせいいっぱいなのだ。

頭の片隅で、止まれ、止まれ!と叫ぶもう一人の自分がいるのを俊は気がついていたが、
今、この状態では、それに答えるすべが見つからない。

息が交わるくらいに二人の顔がゆっくりと近づく。
俊は蘭世に添えていた手をそのまま蘭世の髪の毛の間に滑り込ませて後頭部にあてた。
そしてもう片方の腕を蘭世のウエストからゆっくりと背中にまわして体ごと引き寄せる。

何の合図もなかったが、どちらからともなく二人の目が伏せられていく。
蘭世の腕が俊の首に回る。
そして、ゆっくりと二人の唇が重なり合おうとしたとき・・・・・・・・・・・



「バァァァァ−−−−−!!!」

二人の隣に、薄いグレーな男が勢いよく登場した。

「うわっ!」
「きゃぁ!」

その衝撃を受けて
蘭世は足を滑らし腰から地面に落ち、
俊はそれをとっさに支えようとしたものの、弾みが強すぎて前方に倒れこんだ。

「な、な、な、なんなんだ!サンド!!!」

「あ、これはこれは王子に蘭世さま。ご無沙汰をばしております・・・」
サンドはにっこりと無邪気に微笑みながら言った。

「何がご無沙汰だ!朝会っただろ!・・・ったく!いきなり出てくるのはやめろ!」
俊は大声で怒鳴りつける。

「おや、お邪魔でございましたでしょうか・・・申し訳ございません。
大王様にアロン様のご様子を報告しなければならないので様子を見に参ったのですが、
ちょっと出てくるところを間違えてしまったようですね」
サンドはあはは〜と頭をかきながら言った。

「アロンは、江藤んちに行ってる。さっさと行け!・・・(あっ、今行ったらまずいのか?・・・まあいい。知るかっ)」
俊はサンドを睨みつけて行った。
「あ、そうでしたか。失礼をいたしました。でも俊さまも蘭世さまと仲良くされているとのご報告ができますね。では・・・」
サンドは坦々とそう言い残して、さっと霧になった。

「えっ!?あ・・・///オイっ!!ちょっと待て!」
俊はぼっと顔を赤くさせ、サンドを呼び止めようとしたが、もうサンドは行ってしまった後であった。
俊はチラリと視線を横に走らせると、地面に座り込んでいた蘭世とちょうど目が合った。
蘭世は顔を赤くさせて、ぱっと視線をはずした。
今すぐにでも頭から蒸気があふれ出しそうになっている。
俊も顔を反対側に横向けて左手を自分の額に手を当てて、はぁとため息をもらした。



「あ・・・・あの・・・私、うちに戻るね」
蘭世は小さい声でそうつぶやいた。顔はまだ赤いままだ。

「お、おぉ・・・」
俊はそういって蘭世の腕をもって引き上げて立たせた。

「じゃ、じゃぁ・・・」
「あぁ・・・」
「・・・・」
「・・・・」
沈黙がまた二人を包んだ。
「あ、あの。。。真壁くん、離してくれないと・・・・」
蘭世は顔をうつむけたまま言った。
俊はえっ?と言って、目を少し下にずらすと、まだ自分の手が蘭世の腕を掴んだままであったことに気がついた。
「あっ・・・わりぃ・・・」
そういって俊は慌てて手を蘭世の腕から離した。

蘭世はしばらくきょとんと俊の顔を見ていたが、そのあとクスっと笑った。
俊もそれを見てふっと顔をほころばせた。

「じゃぁ、また明日な」
「うん♪真壁くん、これから走るの?」
蘭世はそう俊に聞いた。俊のトレーニングの格好を今更ながら気づいたようだ。
「あ?あ・・あぁ。まあな」
「そっか・・・・・・頑張ってね」
蘭世はそういって俊の頬に軽く口付けた。そして、じゃぁねと言って駆け足で自分の家に向かって走り去った。



「・・・・///」
俊は一瞬呆然としていたが、蘭世の行動が理解できた途端、顔をぼっと赤らめた。
「・・・くっそ・・・何でこの俺がアイツに動揺させられんだよっ!!!」
そう吐き捨てながらも顔を緩ませながら俊は、欲の発散に向けて走り出した。








俊が、汗を流して帰ってくるとアロンが戻ってきていた。
「あっれ〜?俊、走ってきたの?がんばるね〜」
アロンはソファーで半分眠りながらそう俊に声をかけた。

(誰のせいだ!誰の!)

自分が爆弾に火をつけたとは頭の片隅にも気づいていないアロンを見て俊は苛立ちを隠せずにアロンを蹴飛ばした。
「いったいなぁ・・・・何すんだよぉ・・・」
完全に眠りにつこうとしているアロンに俊の蹴りは全く効くきざしはない。
「・・・蘭世ちゃん、さっき・・・出てったみたいだったけど、・・・来なかっ・・・た・・・・の・・・?」
アロンはそう最後まで言い切ったのか言い切れなかったのかぐらいのゆっくりした言葉を放ったあと、
すーっと寝息を立てたかと思うとその呼吸は大きないびきに変わった。

「・・・このやろう・・・・」
俊は豪快にいびきを立てる弟に魔力で電気ショックを与えようとしたが、
効きそうにないことがわかると、はぁ。。。とゆっくり肩を落とし、
ぱさっととタオルケットをアロンの体に投げつけて、その場を離れた。



友人にしろ、兄弟にしろ、男同士ってこんなもんなのかな・・・と俊はシャワーで汗を流しながら思った。
今までは、こんな話を他人にしたこともされたこともなかった。
(今のところは一方的にアロンがしゃべりっぱなしではあったが・・・)
アロンは弟という感覚は未だになじめずにはいたが、苛立ちながらもこんな関係は悪くはないもんだと
感じながら、男二人の生活を微妙に楽しみ始めた俊であった。






<END>




あとがき


相変わらず、中途半端な、何が書きたいのかわからない内容になってしまいました。
独立した話にしたかったんだけど、(その予定でしたが)完全に続き物になってますね^^;
まぁいっか(いつもどおり)
蘭世とのほんのりラブが書きたかったんだけど、
題名brothersだしな〜と思って、アロンも帰ってこさせました^^;
アロンが蘭世んちでしてきたことはどうぞご想像ください(笑)
ではでは、お読みくださいましてありがとうございました☆











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