手を伸ばした空の果て


    
筒井くんメインの俊×蘭世話。
     二人が筒井くんを訪ねたお話です。


                                                 






                                  お題配布先 : TigerLily 様












二人がそろって自分を訪ねてくれたのは、心地よい秋の風が頬をかすめていくそんな季節だった。

















最初に電話をくれたのは蘭世だった。






かつて愛した女性。



あれから何年たっただろう。。。

当時、愛していたといえるほど自分自身もまだ大人になりきってはいなかったが、

それでも確かにあの頃を思い出すと今でも胸が切なくなる。







彼女が想いを寄せる男、真壁が魔界とやらの王子として生まれ変わったという事実は、

自分がうっすらと思い描いていた江藤家の秘密に関する予想をはるかに上回る驚愕事項であった。

とても信じられる話ではなかったが、それでも筒井は蘭世の力になりたかった。

困り果てた蘭世を放り出すことなんて、到底できなかったし、

正直なところ、下心があったことは隠せない。真壁のことは二の次だった。

真壁だというその赤ん坊が本当に真壁なのかどうかも判断はつきかねたし、それすらどうでもいいくらい

自分は野心的だった。



しかし、実際真壁の子ども時代に瓜二つだと思われるあの子どもを目の当たりにしたとき、

筒井はそれをこれまた驚くほどすんなりと受け入れて、それに力を貸してやりたくなったのだった。










真壁とは、そんなに深い付き合いでも長い付き合いでもなかった。

自分の心ひかれる女性が見つめる視線の先にいた男。

ただ、それだけのことで、間違いなく歓迎すべき立場ではない男であったはずなのに、

どことなくいつも影のある表情をしていた真壁に、自分自身が感じている不安、あるいは不満といったものに相通ずるものを

筒井は勝手に感じていた。だから、なんとなく気になる男ではあった。



出会い方が違っていれば、本当にもっと近しい友人になっていたかもしれない。

真壁が実際どう思っていたかを聞いたことはないが・・・



どんなときでもクールなポーカーフェイス。

彼女のことをどう思っていたのかも、彼女を思う自分をどう思っていたのかも、

何一つ聞けずにわからないまま、次に出会った時にはもう幼い子どもに姿を変えていた。








本当ならばあの時、

もっと欲を出してもよかった。

彼女が想う男はそばにいない。

いるのは愛も恋もわからない幼い子ども。

もっと欲張って、抱いた野心をさらけ出して、強引に気持ちを押しつけてもよかったのかもしれない。

だけど、それができずにいたのは、彼女とヤツの関係性がそれをきっかけとして

さらに深く根付いた気がして、その入り込む隙すら見いだせなかったから。

それを押しのけた強引さは彼女に通用しないこともわかったし、

通用しなかったときのことを考えたプライド崩壊のための防衛策。



その魔界人同士とか人間とモンスターとかそんな単純なレベルではなくて

それを超えたなんとなく感じた二人の縁。

そのときの二人は確かに年齢だって離れてはいたし、蘭世を守るには明らかに不十分に見えた。

しかし、そんなことは何の関係もなかった。

二人の間には立ち入ることもできない何か厳格な扉が見えるようなきがして気おくれしてのを覚えている。

たかが、

3つや4つの子ども相手に・・・。







そして唯一彼女の側に入れる紳士的なナイトを演じていたがそれもつかの間、

その後気がついた時には、傷だらけ、泥だらけでベッドの上にいた。

何故泥だらけなのか、記憶は全くなかったが、どこかまるで夢遊病のように出かけたような痕跡。

いやな予感がして彼女たちが「いる別荘に向かったら、そこは荒れ果てた状態で、すでにもぬけの殻だった。

江藤家にも行ってみたがそこにも戻っている気配はなく、

突然の失踪劇に筒井は脱力した。

それと同時に、改めて二人が人間ではないという事実を確信した瞬間だった。



そしてそれっきり自分の中にそれら一連の出来事を封じ込めた。














何年かぶりに会った蘭世は、想像以上にきれいになっていて筒井は思わず息を呑んだ。

そしてそのすぐ後ろに立つ真壁を見て、筒井はほっと息をついてほほ笑んだ。








「しばらく・・・だな」

「ああ・・・」



ああ、そうだ。この感じ。やっぱり真壁だ。

なんだか懐かしさがこみ上げてきて妙に嬉しくなる。

聞きたいことは山ほどあった。しかし、何からどう聞いていいのかわからない。

それだけ時間が経ち過ぎていたのを感じた。

















「生きてたんだな」

ソファーに腰を下ろして深く息をついてから筒井は言った。

「・・・おかげさまで」

口数の少ない俊をフォローするように蘭世が続けた。

「筒井くんにはホント、なんてお礼を言っていいかわからないくらい・・・

あの時は本当にありがとう。そしてずっと私たちのことも黙っててくれて・・・」

「いや・・・そんなことは・・・」







実際には、とある女性に一度だけ話したことがある。

あの後、少しだけ付き合ったある女性。

一人で抱え続けるには少し重すぎる経験。それを共有してほしい・・・そんな気持だった。

信頼のおける女性だったから、「こんな話あったら信じる?」と前置きだけして

かいつまんで話した。しかし、それはいとも簡単に笑われてしまった。

あまりにも信じる気配がなかったから、そういう仕事の役がきたことにしてごまかした。

やっぱりそうだよな・・・。

そう思って、それからは誰にも話していない。








「お礼をいう間もなく、あの時は追手が来てしまって、そして筒井くんにも酷い目に合わせてしまった・・・。

本当にごめんなさい」

「いいよ、そんなの。何かあったんだろうけど実際何があったのか俺全然覚えてなかったし・・・朝起きたらなんか泥だらけでさ・・・」

そういって笑うと二人もそれにつられて苦笑する。

「ただ、すごく気がかりだった。別荘には誰も残ってないし、荒れた状態でどこいったかもわかんないし、

捕まってしまったんだろうって・・・ひどく落ち込んだよ・・・。というより時間が経てば経つほどそれも何だか

夢だったように思えてさ・・・君たちの存在自体が夢のようにも思えた」

「・・・そうだよね・・・こんな話信じられないもんね・・・普通」

「だけど、しばらくして町で鈴世に偶然出会ってさ、それで君たちのことも聞いた。

真壁も元の姿にまで戻ってとりあえずは命もとられずにすんで元気にしてるって・・・。それを聞いた時どれだけ安心したか・・・」

「うん・・・ごめんね。私たちがもっと早くにお礼に来るべきだったのに・・・」

「いや・・・そんなことは本当にどうでもいいんだ。ただ・・・マジで嬉しかった・・・無事でいてくれたことが・・・」

そういってほほ笑むと蘭世は目をじんわりと潤ませた。

真壁は表情を崩すこともなく視線を下方に向けたままだ。

相変わらずだな・・・。

筒井は口元を緩ませた。

二人の姿をこんな穏やかな気持ちで迎えられたことに筒井は安堵した。

見た限りではあの頃の二人とそう大きくは変わってなかったが、二人の間の大きな何かは

確実にふたりをしっかりとつないでいるように思えた。

二人の間を流れる空気が穏やかだ。

以前感じていた一方的な風の流れがやんわりと二人の周りを取り囲んでいる感じ。

それはやわらかいようでいて強い。



彼女を最初みた一瞬、忘れかけていた気持ちがムクリと起き上がるのを感じてはいたが、

それは、安らかに、潮がゆっくりと引くように、平坦になった。





真壁と蘭世を包む空気は邪魔をするとがった意識をもはじきとばし、すきいることができそうな破れた入口も見つからなかった。

それを目の当たりにして、

筒井は初めて二人の共通の友人になれた気がしたのだった。








「いろいろあったらしいけど・・・」

「・・・あぁ・・・まぁ・・・」

「ま、俺にははるかに想像つかない話なんだろうな・・・聞く必要もないか・・・

それよりも二人がこうして一緒に訪ねてきてくれたことがホントに嬉しいよ。ありがとう」

「ううん。こちらこそ本当にありがとう」

「・・・で?それだけ?」

「え?」

「いや、二人揃ってきたんだから、結婚の報告でもあるのかなって思って・・・」

「け、結婚!?そ、そんなんじゃ・・・///」



顔を真っ赤にして否定する蘭世とは反対に真壁はしれっとして今もなお表情を崩さない。

筒井はおや?っと思う。

昔の真壁ならもっと照れて慌てて否定しそうなものだが・・・



「俺たちまだ高校行ってんだ」

動揺を隠せない蘭世の代わりに今度は真壁が答える。

このタイミングなんだよな・・・。

筒井は感心して真壁を見る。

「あ・・・そうなの?なんだ・・・じゃあまだか」

「まあ・・・もっと先だな」

「え・・・///」

蘭世が驚いた顔で真壁を見ている。

「何だよ」

その視線に真壁も気づいて眉を顰める。

「い、いえ・・・」

蘭世はうつむいたまま目をぱちくりさせている。






要は真壁は自分の中である程度の将来を見据えているわけだ。

そして、その気持ちは相変わらず彼女には伝えていない・・・と・

筒井はそんな二人の様子を見て肩をすくませた。





「何だよ・・・のろけるのもいちゃいちゃするのも帰ってからにしてくれない?」

「べ、別にいちゃいちゃなんかしてねえだろ!」

ぱっと真壁は顔を赤らめてそして慌てて否定する。




お♪見れた。真壁のテレ顔・・・。

今日一番見たかった表情。

筒井はそんな真壁を見て満足だといわんばかりにアハハと笑った。




なんかもう・・・あてられてるだけな気もするけど・・・。

そんな二人を見てほほえましく胸の辺りがほんわりと暖かくなるのを感じた。






そして近い将来、もっと幸せそうな二人を見ることになるのだろうと

ふとそんな予言者めいた考えが頭をよぎったのだった。





筒井はソファーのひじ掛けにもたれて肘をつく。

そして目の前に座る二人を眺めながら自然と口元が緩むのを感じていた。











<END>








あとがき

筒井くんって・・・

俊の抹殺計画のときに操られて以来、音沙汰なしになってたので

ずっと気にはなっていて、結婚式までには再会している話をかきたかったんですが、

さて、どのタイミングで再会させようかと思案しておりました。

俊と蘭世が別れる前、別れたあとすぐ、ゾーン復活後、ゾーン転生後、ポーリア在学中、ポーリア卒業後・・・云々。

それで、とりあえず二人の関係がゆるぎないものになってから再会させようと思って書いたのが今回の作品です。

そしてそのゆるぎないということを筒井くん自身に感じてもらいたかった(ある意味・・・鬼)

うまく表現するのはちと難しかったですが・・・。

まあタイミングによってはいろんなver.が書けるかもですね。

基本的に筒井くんにはそれほど思い入れがないんですが(オイ)

機会があればまた挑戦しましょう☆

ありがとうございましたw








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