ときめき生誕25周年祭 個人小説








願いはこの胸の中に







                                 written by kauran







ゾーンとの戦いがどうにか終焉を告げ魔界にも平和が戻った。

現在は、アロンの王位即位式の準備に、先日の戦いのすさまじさも忘れてしまいそうなほどの忙しさである。

大王亡き後の混乱を治めるには俊の力が必要だとアロンにも王家側近達にも泣きつかれ、


魔界のことはわからないからと逃げ腰だった俊もさすがに、魔界に入りびたりの生活がここ数日続いていた。



会場設営の作業がひとまず落ち着いて俊は大きくのびをした。

学校を終えてすぐ魔界に来てそのまま作業に加わったものだから、さすがの俊にも疲労感が漂う。

普段、ボクシングで鍛えていても、やはり使う筋肉が違うのだろう。

体のあちこちに倦怠感を感じ、俊は大きく腕をぐるぐる回しながら、

まだ日の昇るベランダに出た。

人間界はもうすでに夜の時間帯なのだが、魔界とはやはり時間の進み方が違うのだろう。

どう違うのかまではわからないが、まだ日の高い空を仰ぐと心地よい日差しと風が俊を包んだ。

そこからゆっくりと景色を見渡すとここからはよく見える。

魔界全体がゾーンから受けた悲しみをこらえながらも新しい魔界への準備に勤しんでいるようだ。

たぶん、彼らたちには彼らたちの生活や思想や生き方がここにあって、

それらが危機にさらされたことは、自分が思う以上に彼らに大きな影響を与えたんだろうなと

今になって改めて思う。

そして自分がそこの王子であって、ここにいまいるということが何となく不思議な気がした。

みんなが自分を王子として慕ってくる。

自分はアロンとは違ってそういう風に生きてきたわけでもなく、そんな器なんて持ち合わせてなんかいないのに、

誰もがそんなことはまったく気にも留めずに、まるで以前からずっと俊がここにいて共に生きてきたように

語りかけてくるものだから、最初は気恥ずかしいような気もしたが、俊にはめずらしくすぐに打ち解けられた。

そして、一時は受け入れることすらできなかったこの世界も、今はここのために力をつくしたいと思うようになった。



・・・不思議なものだな・・・感情って・・・。



ふと城の下を見ると、フィラのドレスを手がけている女性とその娘らしい女の子が帰るところだった。

少女の方が先に俊に気付いて大きく手を振り、母親の方はそれを嗜めながら深々とおじぎをしていた。

俊はくすっと笑ってそちらに向かって手をかざす。



こういう風に穏やかな空気をずっと感じることさえ忘れていたようなきがする。

人間だったころは物心がついたころから、何かにいつもつっぱっているような感じだったし

王子として生まれ変わってからは、ゾーンのこともあってずっと気が張り詰めた状態だったから

今のこんな感じがとても新鮮だ。

心の中の波もとても静かに漂っているのわかる。



・・・そういえばここをゆっくり歩いたこともなかったかな・・・



よく見れば、こんなにきれいな景色のところは見たことがない。

建物もあちらこちらに建っているが、どこか異国風でメルヘンで、

自分には合わないなと苦笑しながらもその景色をずっと眺めているのも悪くないとさえ思う。

こういうのどかなところで、そしてアイツが側で笑っていて・・・



俊は城の城壁に頬杖をついて蘭世の姿を思い浮かべた。

そして先日、天上界でカルロに言わされた台詞をふと思い出して、思わず顔を赤らめた。

周りに誰もいないことを確認してふぅと小さく息を吐く。



・・・「幸せにする」・・・か・・・。



自分で言ったことなのになんとなく他人事にようにも思える。

そんな台詞、今までに一度だって口にしたこともなかったし・・・。

でもあのとき、口にしたことで気持ちの中で何かが大きくゴトリと音を立てて動いたような気がした。

それが自分の中で現実味を帯びたというか、

改めて蘭世に対する想いが身にしみたというか・・・。



蘭世を守ってやれる自信がなくて、去ることしかできなかったあのときをふと思い出す。

魔界人だからとか、能力がなくなったとか、本当はそんなこときっとどうにでもなったのに

今になってなんて浅はかだったんだろうと思う。

離れられないことに気づくまで、どれだけ遠回りしたんだろう。

蘭世を危険な目に合わせてやっと気づくなんて・・・

あのとき、何よりも大事なものを本当に失うかもしれなかったことを考えると俊はぶるっと身震いした。

カルロがなぜあの台詞を誓わせたのかも、今だからこそわかる。

天上界で、魔界人に戻っていなくてもきっと同じ台詞を言えただろう。



大切なものは能力だとか、自信だとか・・・そんなものではなくて・・・

想いをつなぐ

絆・・・・・



ささやかでもいいから、自分自身の手で、

アイツを幸せにしてやりたいと、今心からそう思う。

王子とかそんなもの以前に、オレは一人の男で、一人の女を大事にしたいっていう

それだけの願いが、今の自分の唯一の願いであり望みである。



穏やかな世界に戻って、そんなことばかり考える自分はなんて女々しいんだろうって思うが、

そんな今だからこそそう思うのかもしれない。



俊の体がピクリとその愛しい気配を感じる。

その気配を探すと、蘭世が城に向かって走ってくるところだった。

椎羅からの何かの言伝なのだろうか。

小包を抱えて息を切らしている。

俊はテレパシーを飛ばす。



(江藤)



蘭世はそのテレパシーを感じ取ったのか、ピタリと立ち止まってキョロキョロと辺りを見渡している。



(こっち)



蘭世がこちらを見上げて俊の姿を確認すると、パッと笑顔を見せて手を振った。

何度も見ているその笑顔が、今日もまたキラキラして、俊は眩しくなる。

早くその体をこの腕の中に納めたくて、瞬時に蘭世の側にテレポートして体を包むと、

もう一度城のベランダにまで飛んだ。

一瞬のことで何が何だかわからないといった表情の蘭世がまたかわいくて、

俊は誰もいないことを確かめると、背中からもう一度蘭世を抱きしめる。



「ま、真壁くん・・・ど、どうしたの?///」

「・・・ここからの景色・・・綺麗だったからさ」

俊に顔を向けてから蘭世はそこからの景色を眺めた。

「ホント・・・きれいだね・・・」



いつか、必ず・・・伝えるから・・・



俊はそう心に誓って蘭世の香る髪に鼻を埋めた。










END







あとがき

なんか意味のないストーリー性のないただの文になってしまいました。

場面はゾーンとの戦いが終わり、あの名シーン「いつか・・・」の間あたりです。

祭りのテーマである「絆」をどこかに入れたかったんだけど

結局無理やり入れたみたいな感じにもなってしまったし・・・。

玉砕・・・。。。






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