ときめき生誕25周年祭 個人小説1








特別の意味





                        written by kauran


キーンコーンカーンコーン・・・・



4限目の終了のチャイムが響いて、教室内の空気が一瞬にしてほぐれる。

蘭世も他の生徒同様、一度大きく伸びをしてからさっと椅子から立ち上がった。

そしてお弁当を2個抱えて教室を飛び出していく。

今日は、俊の分も一緒に作ってきたのだ。

俊はいつも学食で食べているのだが、時々蘭世が作ってきたお弁当を食す。

今日はその日だ。

夕食も作ってくれているから悪いといって昼食は遠慮する俊に蘭世は多少の物足りなさを感じつつも、

それも俊の性格だということを理解して、俊が遠慮を感じないようにお弁当の具材が余ったとき程度でたまに俊の分を用意する。



・・・今日は持ってきたことまだ言えてないから急がなくっちゃ・・・



早く持って行かないと俊は学食に食べに行ってしまう。

だから蘭世は4時限が始まった頃からずっとそわそわしっぱなしだった。

クラスの違う俊にお弁当を届ける・・・

そんな行動に走っている自分もなんだか好きで蘭世は無意識に足取りも軽くなる。

飛び跳ねるような勢いで蘭世は俊のいるクラスに向かう。

そして、くいっと教室の扉から中をうかがうと、それまで晴れやかだった蘭世の笑顔は一気に曇った。

俊の周りには女の子の人だかりができているのだ。



・・・な、なにあれ・・・・



「真壁くん、お弁当一緒に食べてくださーい♪」

「私も〜」

「お弁当作ってきたの〜食べて〜」

「いーえ私よ。」

「真壁さん、私と!」

俊は女の子の勢いに押され気味に窓際まで後ずさっていた。

俊がモテているということはもちろん蘭世もわかっているが、先週まではここまでではなかったのに・・・と

蘭世は首をかしげる。

そしてん〜?と考えて、はっとあることに気がついた。

先々週の土曜日ボクシングの練習試合が行われ、俊はこの地域で今一番という某高校の選手にKO勝ちしたのだ。

練習試合だったとはいえ、お嬢様学校として名高いこの聖ポーリア学園の生徒が

有名選手にKO勝ちしたということは地元ではかなり大きなニュースとして取り上げられ、

それまでボクシングなどに興味を持っていなかったうちの生徒達も、俊のルックスにもひかれ一気に注目した。

そしてこの土曜日、また別の練習試合がうちの高校で行われそこでも俊はKO勝ちを果たした。

興味本位で見にきていた生徒達も間近で俊の戦闘姿を目にすると、ボルテージは極限まで上がり

黄色い歓声が小さな部室に響き渡った。

そして休みが明けて今日。

彼女達の一気に火がついた想いは、その日だけではとどまらなかったようだ。

その光景が今、蘭世の目の前に広がっている。



・・・・こんなことになるなんて予想外だわ・・・。。



蘭世はあの女の子たちの集団に入っていく勇気もなくその場に立ち尽くしていた。

こんなことは前にもあった。

この高校に転入してすぐのことだ。

アロンたちもいたときで、二人が住むあの家に女の子達が押しかけてきたことがあった。

蘭世はもやもやするようなそわそわするような、なんとなく不快な気持ちに襲われたままその場を動けない。



そんな蘭世をドンと押しのけて曜子が教室にずかずかと入っていった。

「ちょっとどいて」

「か、神谷さん・・・!」

曜子は牙を剥くかのように俊の周りにいた女の子達を蹴散らす。

「ちょっとあんたたち!俊に近づくヤツは私が許さないわよ!」

「何よ、あんた」

「俊は私のフィアンセなんだから!」

「「はぁ〜〜〜???」」

「ね〜。俊〜」

曜子とその周囲の女たちが俊を見るその一瞬のスキに俊はその場からさっと逃げ出し、

前方の教室の扉から一目散に飛び出した。

「あ!俊!」

「「「真壁くん」」」

曜子を筆頭にして女の子の集団が大きな塊のように怒涛のごとく去った俊を追いかけた。

教室にはあっけにとられた男子生徒とその輪に入り込めなかった蘭世はしーんと残された。

蘭世ははぁと小さく息を吐いて、その場を後にした。




*****   *****   *****



屋上に吹き抜ける風が心地いい。

蘭世は柵にもたれて真っ青な空に大きく息を吐いた。

お腹の中から大きく息を吐き出すと、心の中のモヤモヤも少し一緒に吐き出された気がして、

空に向かって少し口端を上げた。

でも全てが抜けきったわけではなくてまた蘭世の表情は曇り顔に戻ってしまう。



「あ〜あ・・・私も神谷さんみたいに言えればなぁ・・・」



ああいう風に、「真壁くんは私のモノよ!」って声を大にして言えたら

何か変わるのだろうか・・・。

俊は以前あの泉を前にして言ってくれた「いつか・・・」という言葉を蘭世は思い出していた。

・・・あれは、あの意味は・・・そのままで受け取ってもいいんだよね・・・

それでも、正直、あれ以外にはっきりと何か別の言葉を言われたわけでもなく、

二人のそういう関係を周囲に示したわけでもなく、

それが他とは違う「特別」な関係なのかどうかというのは、自分たちの気持ちの中のものだけでしかないのであって

蘭世は大いに不安が残る。

信じてないわけじゃないんだけど・・・

目の前で女の子に囲まれる俊を眺めるのは正直面白くなく、

かといって独占欲丸出しでその場に入っていくことは、俊の気持ちを考える上で効果的ではないような気がして

鬱屈された感情が胸の中にたまる一方で蘭世の心はドンドン重くなる。



二千年前の生まれ変わり・・・



ちょっと運命を感じた瞬間も、冷静な俊にはそれほど心に何か衝撃を受けるものでもなかったようだし

自分だけの一方通行な想いは結局何も変わっていないのではないかとさえ思う。

そんな不確かなモノにでさえ、確かさを求めてしまう。

自分だけが空回りしてしまっているようで蘭世は少し悲しくなった。

俊への想いは誰にも負けない自信があるのに、同時に

もっとそばにいて欲しい、もっと好きになってほしい、もっと・・・もっと。。。

どんどん欲張りになって、それが逆に蘭世を苦しめていく。

純粋にただ「スキ」だけではどうしていられないんだろう・・・



ジャンとランジェが寄り添う姿が頭に浮かぶ。

ランジェさんもこんな風に悩んだりとかしたのかな・・・

でもきっとジャン王子はこんな風にランジェさんを不安にさせたりしなかったはずだわ!

蘭世はそう思うと心の中にムカムカした気持ちが沸き起こる。



「なによ・・・・・・真壁くんの・・・・・バカーーーーっ!!!」



「バカで悪かったな」

その声にビクっとして蘭世は慌てて振り向く。

「ま、真壁くん!」

「あ〜腹減った・・・」

俊はそういうと蘭世の隣にストンと腰を落とした。

「た、食べてないの?」

「あんな状況で食えると思うか?」

「・・・だ、だって・・・」

「お前のがあるし・・・」

そういって俊はん、と蘭世に向かって手を差し出す。弁当をよこせという合図。

蘭世のモヤモヤはすっと晴れていったが、今日は何故か素直になれず、

蘭世はプイと顔を背けた。

「真壁くんには、いーっぱいお弁当を持ってきてくれる人がいるでしょ!」

「はぁ?」

あまり聞きなれない蘭世の嫌味に俊はきょとんとしながら顔を歪める。

「だから!真壁くんには私じゃなくたっていっぱいお食事用意してくれる人がいるじゃないの!」

蘭世はぶっと膨れたまま俊のとなりにしゃがんで睨む。

「・・・ヤキモチ・・・」

俊はそういって蘭世から視線を逸らす。

「ち、ちがうもん」

違うわけがない。明らかに完全なヤキモチなのだが・・・

俊はチラリと蘭世を横目で見た。

・・・ヤキモチなんて珍しいな・・・

ふとそう思う。

そういえば今まであんまり蘭世のヤキモチだとか嫉妬めいたものだとかは見たことがない。

女の、そういうところが面倒で今まで拒んできた俊だったが、

蘭世のその姿はそんなに嫌でなく、むしろかわいいとすら思ってしまう、そんな自分の変わりようにも驚いてしまう。

でもこの状況をどうすっか・・・

下手したら泣き出しかねないし、そうなってしまえばお手上げだ。



俊はふと空を見上げる。

先ほど蘭世が思い浮かべたジャンとランジェの姿が俊の脳裏にも浮かぶ。

蘭世を探して屋上までやってきたとき、ちょうどその感情が俊にまで届いていた。

そしてまたあのデジャヴを感じた。

たぶん、きっとあの二人にもこういう状況があったのだろう。

何かが原因で機嫌をそこねたランジェをジャンが取り繕う・・・そんな状況。





「もしさ・・・」

蘭世が黙って振り向く。

「これから二千年たったとしたら・・・お前はオレを見つけるかな・・・」

「え・・・?」

「見つけてくんねえかもな。オレは「バカ」だしな」

「そ、そんなことない!絶対見つけるに決まってるもん!今回ちゃんと・・・見つけられたように・・・」

「でも。。。真壁くんは見つけてくれないかも・・・」

蘭世の目がうるうると大きく揺れている。

・・・結局泣くし・・・

俊はふぅと小さく息を吐く。しかし、すぐふっと微笑んだ。

「オレは見つける自信あるけど」

「・・・真壁くん・・・」

「たぶん、こんなに世話がやけておせっかいで注目を引くヤツ他にいないだろうしな」

「・・・ぐっ・・・何それ・・・(汗)」

俊は蘭世の方を向いて、そっと肩に腕を回した。

「大丈夫。絶対見つけられる。。。ムカつくけどそんな運命だ・・・」

そういって俊はハラリと零れ落ちた蘭世の涙を唇で掬い取ると

そのまま蘭世のアゴに手をかけて唇にキスをした。

これがオレのせいいっぱい・・・。

お前を特別に想ってるってことがコレで伝わってくれればいいんだが・・・



二人の間に風が吹きぬけて、蘭世の髪がそれにあおられてなびく。

俊はその髪ごともう一度引き寄せてギュッと強く蘭世を抱きしめた。







END







あとがき

書きたいことがうまく文にできませんで、こんな感じになってしまいました・・・

別にこれが「特別」って意味なわけではないですが・・・^^;

でも、こんな真壁くんが好きなのです・・・(照)

お祭りにしてはインパクト不足ですね。。。ガク。。。

お弁当はいずこへ。。。?(笑)





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