遠い夏は夢の如し


エピローグ




夏が今年もやってきた。

「あっちぃ〜・・・」

昼一で、アポを取り付けた取引先へと向かうため、炎天下の中、

筒井圭吾は、ネクタイを緩め、ハンカチでパタパタ仰ぎながら歩いていた。

そして、大通りに面した電気屋のショーウィンドウの前を通りかかったとき

ふと足を止めた。

売り出し中のテレビの中で、真壁俊が、インタビューに答えている。

ワイドショーか何かの番組なのだろう。

真壁は、たくさんの報道陣に囲まれて、どこかはにかみながら

言葉少なに答えていた。

世界タイトル2度目の防衛と合わせて電撃結婚のニュースが昨日のスポーツ誌の一面を飾っているのを

圭吾は確認していた。

新聞も、今放映されているワイドショーも、どちらもタイトル防衛よりも確実に

世界チャンピオンの結婚話に重点を置いていた。

相手の名前は一般人として伏せられてはいたが、それが蘭世であろうことは

圭吾はわかっていた。



「筒井くん?」

ふと名前を呼ばれて振り向く。

ゆりえが大きなおなかを抱えて立っていた。

ゆりえが日野とこの前の冬に結婚したことは聞いていた。

できちゃったから・・・と言ってはいたが、それでもうれしそうなゆりえの顔が印象的だった。

「久しぶりね」

「あぁ、元気だった?」

「うん。母子ともに」

そういってゆりえはにこりと微笑む。

そして、圭吾の側に来て、ガラス越しのテレビに視線を移した。

「やっと結婚だな・・・」

「意外に冷静なのね」

「結婚してもらわないと、身を引いた意味がないだろ?」

「強いんだ」

「そういうわけじゃないけどさ・・・」

圭吾はフッと笑う。

「君らも、二人にはさっさと結婚してほしかっただろ?」

ゆりえは圭吾の顔を見る。そしてすぐ視線を下方に落とした。

「ん・・・。筒井くんには申し訳ないけど・・・ね・・・」

「君らがそんな風に思う必要はないよ」

「・・・でも、一応気にはしてるの・・・だって、

筒井くんも今は友達の一人だし、筒井くんが素敵な人だってことはわかってるし・・・」

「そういう風に言ってもらえるとうれしいよ」

ゆりえは少し複雑そうに笑った。

「俺は、二人を祝福しようと思ってる。」

圭吾はテレビの中の真壁を見ながら言った。

「ちょうど君らが結婚した時期だったかな?偶然、蘭世に会ったんだ。」

「え?ほんと?」

「あぁ。。。そして少し話した。とても悪いことをしたと蘭世はひたすら謝ってた。

そんなこともう俺としてはよかったのに。

俺としてはそんなことより、二人がうまくいってるのかということのほうが気になっていた。

そして、彼のことを聞いてみた。

そのとき、俺は、もし、あのときの俺の判断が間違っていて、真壁はもう蘭世のことを

なんとも思ってなかったりなんかしてたら・・・なんてちょっと期待したりしてた。

でも、俺はそのとき、あぁ、俺は完全に負けたな・・・って思ったんだ。

蘭世と一緒にいた3年間、一度も見せたことのない表情を

そのとき蘭世は見せた。

特にニコニコしてるわけじゃなかったけど、

幸せそうで、心も落ち着いていて・・・穏やかだった。

あぁ、コイツにはこんな顔もあったんだって思った。

そして、それはあの男が引き出した表情なんだって・・・」

「・・・・・・」

「それで全部吹っ切れたんだ。たぶん、あの姿が蘭世の全てで、

あの男がいるからこそ、本来の蘭世でいられるんだろうってね」

「筒井くん・・・」

「なんてね・・・かっこよすぎるか・・・」

「かっこよすぎるよ・・・」

「ハハハ。でも強がりじゃないよ。ホントにそう思ったんだ。。。

おっと、こんな時間、行かなきゃ・・・。じゃぁまた。元気な子産めよ」

「筒井くんも・・・慰めにならないだろうけど。

筒井くんだったらすぐ、素敵な人が見つかるわよ」

「ありがと。慰めとして受け取っておくよ。じゃな」

そういって圭吾は手をかざしてその場を離れた。

ゆりえはその後姿をしばらく見送った後、またテレビの方に視線を送った。



「幸せにならなきゃね・・・」



そして、お腹をさすりながら、ゆりえはその場を去った。

街路樹から蝉がかしましく鳴いている。

夏が来れば思い出す。

つらいだけだったの夏が変わっていく・・・。







<END>







あとがき

長々となりましたが、ここまでお付き合いくださいましてどうもありがとうございました。
うぅ、最後はどこかの話と似通ってしまいました。
どうしても思考が偏っちゃって・・・スミマセン・・・。
新作といえるのかどうか・・・
あぁ、でも圭吾ってどこまでもいいやつ。。。
夢のために女を捨てちゃう男よりよっぽどいいんじゃないかと思いますが・・・^^;
恋と言うのはそう簡単にいかないんでつよね・・・。

ちなみにこの話はkauの夢を元にとブログに書きましたが、
元ネタはkauとイチローが昔付き合ってたという夢です(笑)
夢では結局、kauとイチローは別々の道を進んでいくというものだったので
(イチローさんは奥様いるし、kauにも旦那さんいるし・・・←夢と現実がごっちゃになっている)
ハッピーエンドにはならないかもと言ってたのですが・・・
結局こんな感じにしちゃいました。やっぱときめきはハッピーが一番ですもんね。

最後は一気に書き上げたのでかなり乱文になってるかと・・・。
読みづらい部分や、言い回しのおかしい表現もあるかと思いますが、
どうぞお見逃しくださいませ・・・。









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