061 カミング・アウト
「付いてこれないんなら置いてくぞ!」

俊は、息を荒げてフラフラになっている蘭世に声をかけた。

「ひっど〜い!待ってくれたっていいじゃな〜い!」

蘭世は走っていたのをいったんやめて、呼吸を整えながら、息ひとつ乱さない俊を恨めしそうに眺めて、
抗議した。




いつもの通学路。。。
ただ、いつもはたくさんいる学生の姿はもうあまり見当たらない。
2人が走っていた理由はただ一つ。


そう、二人揃って寝過ごし、遅刻寸前なのである。
昨晩、俊のアパートでともに過ごした二人は、その夜更かしがたたったようで、
仲良く寝坊し、現在に至っているのである。






「もうそこじゃねえか。ほら、がんばれ」
あまりにも蘭世がゼイゼイと息を乱しているので、俊は少しかわいそうになって少し声を和らげた。
「う、うん・・・」
そういって2人はまた走り出した。








遅刻ギリギリのところで2人はようやく校門の手前についた。
が、
俊はそこで急に立ち止まった。

蘭世は急にとまれずに、俊の背中にそのままぶつかってしまった。



「わっぷ・・・ま、真壁くん、どうしたの?遅刻しちゃうよ?」
そういって蘭世は俊の後ろから前方を覗くと、
校門に繋がる塀の側にうずくまっている着流し姿の男性を捕らえた。
「ん?・・・惣・・・さん?」




惣は少し頼りげない顔をもちあげてこちらを見た。

「あ、これは、曜子お嬢さんのお友達で・・・」
惣は丁寧に挨拶したが、いつもの覇気が見られなかった。


「何やってるの?こんなところで・・・。どうかしたの?
あ、まさか・・・神谷さんの何か・・・?」
蘭世は曜子のことが頭に浮かんで少し顔を青ざめて尋ねた。

「あ、いえ、お嬢さんはいつもどおり、ハツラツと教室へ向かわれました。」

「じゃあ、どうしたの?」

「・・・・はぁぁぁぁ・・・・なんでもありません」
惣は何も言わず大きなため息だけひとつもらした。


蘭世と俊は顔を見合わせた。
(何でもないって感じじゃないわよねぇ)


「何か・・・・・・悩み事?
なんだったら話ぐらい聞くけど・・・」
「え!?」
蘭世がそういうと、惣はぱっと顔を上げてすがるような目で蘭世を見た。



「俺は行くぞ。やってらんねぇ」
俊はそういってその場を去ろうとした。
「ちょっと真壁くん!惣さんが困ってるのにそれをほっとくの〜?かわいそうじゃない!」
蘭世は俊を引き止めた。
「あのな・・・俺はウジウジした男は嫌いなんだよ。それにこいつはゾーン・・・



そう言いかけて俊は惣を見ると彼は今度は明らかにすがる目つきで俊を見つめていた。



キーンコーンカーンコーン・・・・・・・
そしてそれと同時に始業のチャイムが鳴った。

俊は額に右手を当ててため息をついた。
「あーあ・・・鳴っちまったじゃねえか・・・・ったく・・・わーったよ。何なんだよ」



そういって俊は壁にどすっともたれた。
惣はポツリポツリと話し始めた。













「じゃあ、惣さんは、神谷さんのことが好きなのね・・・」
蘭世は言った。
「す、す、好きだなんて・・・///お、恐れ多いことで・・・・」
惣は真っ赤になりながらうろたえた。



俊は眉間にしわをよせながら黙って聞いていた。
(何かと思えばこんな話・・・・くだらねー)

「ねぇ真壁くん・・・この人ホントに元ゾーンなのかしら・・・ずいぶんと違うわよねぇ・・・」
蘭世は首をかしげながら俊にこそこそっと言った。

「知るかっ。んなこと!何で俺がこんな相談に乗らなきゃなんねえんだ!!」
俊は苛立ちを隠せずに言った。

「えー、でもかわいそうじゃないよぉ」

「うるせえ、勝手にやってろ」


2人の声はコソコソ声からいつしか大声に変わってしまっている。




「・・・・あのぅ・・・・」
2人の口論にそぉっと惣が割り込んだ。

それを拍子に俊は壁に預けていた身を持ち上げた。
「俺は行くぜ」



そういって俊はもう一度立ち去ろうとした。


すると今度は惣がそれを制した。

「あ、しゅ、俊さま!」


「(はぁ?俊さまだぁ?)・・・・な、何だよ」



「あの・・・あの・・・あなたはお嬢さんのことをどのようにお思いで・・・・?」
惣は恐る恐る・・・・だが、一言一言丁寧に俊に尋ねた。


「はぁ?」
(何言ってんだ?こいつ・・・俺と江藤がこんな風に一緒にいるのを目の前で見てるくせに・・・)




チラッと蘭世を見ると蘭世もじぃーっとこちらを見ていた。

「な、何だ?」

「どう思ってるの?」
蘭世も同じように俊に尋ねる。


「お、お前まで何言ってんだ!?」

「一度聞いてみたかったのよ。なんだかんだいって真壁くん、神谷さんの攻撃をはっきりと拒否したりしないし・・・」
蘭世は上目遣いに俊を見ながら言った。

「し、してるじゃねぇか。どこ見ていってんだ!」

「だって・・・」





俊と蘭世のやりとりを聞いているのかいないのか、惣はまだじっと俊を見ていた。
だが、先ほどのすがる目ではなく、今度は一人の男としての目になっていた。
以前のゾーンの目を彷彿させる鋭い目だった。


俊もその目を見つめ返しながら蘭世に言った。






「お前は先に教室言ってろ」

「なんでよー」

「ここからは男同士の話なんだよ。いいからいけ!」

「もう!ふんだ。肝心なところは逃げちゃうんだから・・・・じゃ、惣さん頑張ってね☆」
蘭世は俊にイーダと顔を歪ませてその場を離れた。







「これで2人だけになりました。はっきりお聞かせください」
惣はテキパキと言った。
(こいつ、するどい目のわりにはやっぱ抜けてるなぁ)


俊はふぅと小さくため息をついた。
「あのなぁ、お前が何を疑ってるのか知んねえけど、じゃあお前は俺と江藤のことはどういう風に見えてるわけ?」



惣は思いのよらないことを聞かれたという風にきょとんとして答えた。

「・・・蘭世どのですか?お嬢さんのよきライバルだと・・・」

「それだけ?」

「違うのですか?」

「違うだろ!!」

(こいつは神谷のこと以外は何にも見えねえのかよ。。。ったく・・・)





「あのなぁ・・・わかったよ・・・この際だからはっきり言うけど・・・ゴホン・・・
俺と江藤はその・・・・・・なんだ・・・
・・・・・・朝、一緒に寝坊して、一緒に遅れて遅刻してくる仲だ!わ、わかるだろ!」

(あー、何で俺、こんなことコイツに言わなきゃなんねぇんだ?)
俊は顔を真っ赤にさせながら視線も合わせられずぷいっと横を向いた。



惣はまだきょとんとして話を聞いていたが、しばらくするとその意味がわかったようで
みるみる顔を輝かせた。



「そ、そうなのですか〜、ではお嬢さんのことは何とも?」
「何とも」

「そうですかそうですか〜いや、ホントお手間とらせました!そうですか〜」
惣は「そうですか〜」と連呼しながら、小躍りしそうな勢いでその場を離れて行った。



「あっおい!(変わり身の早いヤツだな・・・)ったく・・・まあいいか・・・」





照れはしたものの、はっきりとはいえなかったものの、蘭世との仲を自分の口から
告げたことは思っていたほどイヤではなかった。
逆に胸のところにつっかえていた何かが言葉と一緒に吹き飛んだような気がした。






俊はふっと笑って校門の方へ振り向き校内へ足を踏み入れた。
すると塀の反対側に見慣れた姿が塀にもたれてたっていた。

「え、江藤・・・!!!」
俊はその姿を見つけるや否や、先ほど自分が発した言葉を思い出し、もう一度顔を真っ赤にさせた。




「な、なにやってんだ!教室に行ってろって言っただろ!」

「だって・・・気になったんだもん・・・」
蘭世の声は少し小さかったが、穏やかだった。
そういうと蘭世はニコっと微笑んだ。


その笑顔がとても幸せそうだったので、俊は思わず、つられて笑顔になった。


(こういうことが幸せっていうんだろうか・・・)
俊は慣れない感情が胸の中に膨らむのを感じ気付かれないように大きめの呼吸をした。



(言葉にすることがこんな感情を生むなんて知らなかったな・・・)
突然の出来事に思わず白状?するはめになってしまったが、
思いがけずに振って沸いたチャンスに少し感謝をした俊であった。
少し余裕のできた俊はほらよっといって手を差し伸べた。
蘭世はさらにとびきりの笑顔を見せてその温かい手に自分の手を添えた。
「教室にいくまでな・・・/////」
2人は手をあわせることで気持ちを重ねながら暫しの幸せに浸っていた。





あとがき

「フリー」の続きにあたるお話です。
でも、全くストーリーが違うので、別話として読んでいただいても全然支障なしです。
(ていうか・・・もう読んだあとだと思われますが・・・

それにしても惣の存在薄いな〜。ホントに元ゾーンなのかしら・・・^^;

カミングアウトといっても、王子はな〜んにもはっきり言ってないんですけどね・・・(笑)
惣に言っただけだし・・・。
ヘボ小話になってしまいました。お許しを・・・。

ちなみに「カミングアウト」ってここでは「公表する」というシンプルな意味で使わせていただきましたが、
ホントがもっとホモセクシュアル的な意味合いが強いんですよね。知ってました?
kauranは今回調べて、初めて知りました。
でも、乙女もどきの私にはそういうお話を書く技量がないので至って普通なお話になってます^^;