075 フリー
「ほら!走るぞ!鞄貸せ」
そういって俊は蘭世から鞄を取り上げると、二つの鞄を小脇に抱えて、
カンカンカン・・・っと勢いよくアパートの階段を駆け下りた。

「ま、待って・・・真壁くん。まだ・・・・靴が・・・はけてない・・・っと」
慌てているものだから思うように靴が履けずに蘭世は焦る。

「はやく!遅刻するぞ!っていうかお前、起こせよ!」
俊は苛立ちながらその場で足ふみして蘭世が降りてくるのを待つ。
「何よぉ。真壁くんが先に起きてくれればいいんじゃな〜い」





どっちがどうという問題ではない。
昨夜の夜更かしがたたったのか、2人して寝過ごしてしまったのだから・・・。



「こんなことで遅刻とかしてたら、せっかく許された外泊許可もまた取り上げられるぞ!」
走りながら俊は蘭世に言う。
「はぁはぁ・・・た、確かに・・・・学校くらいはちゃんといかないとね・・・。
お母さんの怒りがこっちに向いちゃうわ・・・」








蘭世の外泊が許されるようになってから、まだ日は浅い。

まだ高校生なのだし、それにそれに・・・と複雑な思いを抱えたまま、
望里はずっと蘭世が俊のところに泊まるのを許可していなかった。
だが、蘭世の強い希望と、俊も何か意を決したのか、頭を下げに来たこともあって、
先日、ついに外泊の許可を出した。


ただこの許可には、2人の説得だけではなく、もう一人、大きな力が働いていたことは隠してはおけない。
2人の気持ちを尊重したというのが大きな理由ではあるのだが、だが、それよりも何よりも、
母親である椎羅も、一緒になって望里に懇願した。

椎羅は今まで、大きな事件に巻き込まれてきたこともあってすっかり忘れていたが、
以前自分は蘭世を王子と結婚させたがっていたことをふと思い出したようで、
それからというもの、やたらと蘭世の外泊を後押しする発言を繰り返しだした。




「いいじゃありませんか。あなた。好きなもの同士一緒にいるのは当然でしょ?」

「しかしだな、椎羅。2人はまだ高校生だし・・・」

「そんな年齢など関係ないでしょう。2人は魔界人なんだから」

「いや、そりゃそうだが、お前、また真壁くんが王子だということを思い出したみたいだが、
魔界人っていっても、魔界はアロン様が継いだんだ。真壁くんは王にはならないぞ。」
望里はしてやったりといった顔で椎羅を横目で見ながら言った。

「まあ、あなた!私はそんなこと言ってるんじゃありませんわ。
確かに私は王子王子といって騒いでいましたわ。でもそれは蘭世の将来のためでしたのよ。。。
そしたら、その王子は蘭世の思い人だった。。。。
2人はいくつもの苦難を乗り越えて・・・・・・・ああ、なんて運命的なの!!!
あなたはそう思わなくて??」
椎羅は陶酔しながらつらつらとセリフを並べる。

「それはそうだが・・・それと外泊は別の話だろ。まだ早いんじゃないかと言ってるんだ。」
望里は椎羅にまくし立てられてあたふたしながら答えた。

「外泊っていっても真壁くんの所に行くんですよ?何も心配ないじゃないですか。
それともなぁに?あなたは真壁くんが信用できないとでもいうんですか!」
椎羅はピンを耳を立てた。

望里も蘭世もそしてお願いに来ていた俊までもこのピリっとした雰囲気にたじっとなる。

「いや、何もそんなことは言ってないだろ!」

「そ、そうよおかあさん落ち着いて・・・真壁くんの前なんだし・・・・・」

俊は久しぶりの江藤家の波乱の幕開けに何もできずにオロオロする。


「しかし、お前だって、真壁くんが王子だとわかる前はあんなに大反対してたくせに・・・」
望里はぼそっと言った。

「あれは、真壁くんが蘭世を好きでいてくれてたとは思っていなかったからです!!」


その言葉に俊は一瞬にして真っ赤になった。
(なんだ?それ・・・いつの話なんだよ・・・)

「ご、ごめんね。真壁くん・・・」
蘭世は慌ただしさをわびるために小声で俊に伝えた。

「反対されてたのか?俺・・・いつの話だ」
俊はわけがわからなくて蘭世に尋ねる。

「まだ出会った頃の話よ。真壁くんまだ人間だったか人間の男の子はダメだって・・・お母さん
大反対しちゃってて・・・ああ、真壁くんに言ってなかったよね・・・」

「反対ってどんな?」

「説明するには長くなるよ・・・また今度ね」



大反対だったの様子に俊は気になりながらも、今はこの騒ぎの方が問題だ。
まだ2人で口論している望里と椎羅をを見ながらはぁ〜とため息をつく。
(でもおばさんのこの様子じゃよっぽどのことされてたのかも・・・気付かなくてよかったといえばよかったか・・・)




「・・・・何なの!もう!あーたは、2人の中をこの期に及んで反対するんですか!!!」
椎羅は興奮してもう顔もすでに狼と化してしまっている。



望里は幾分、身の危険を感じてついに降参した。
「わ、分かったよ・・・。もう蘭世も自分で判断できる年だろう。。。
好きにしなさい。。。。真壁くん頼んだよ」



「は、はい・・・」
「ありがとー、お父さん!」
「あ〜、よかったわね〜蘭世♪真壁くんよろしくね☆」
「は、はぁ」
(これって許可されたってことなのか?おばさんに脅迫された感じだけどな・・・)






そんなこんなで蘭世の外泊は許可?され、一緒にいる自由を許されたのだ。

「せっかく親父さんが(恐怖に苛まれながら)許可してくれたんだ。
自由になったからっといって、だらしない生活をするわけにはいかないからな・・・」
俊は走りながら蘭世に言った。

「そ、そうね・・・ゼイゼイ・・・そう・・・なんだけど・・・・ダメ・・・私もう走れない・・・」
蘭世はかろうじて返答しながら、ぱたっとたちどまって、大きく何度も呼吸をして息を整えた。

「あ!お前、ゆってるうちから・・・今日からお前も、部活んとき一緒に走れよ!ほら、行くぞ」
俊はその場でジョギングしながら容赦なく言った。

「ええええ!私も走るの〜?マネージャーなのに〜・・・・外泊許されたといっても
なんか、余計つらくない???」
蘭世は半分泣きそうな顔して言った。

「お前は自分に甘いからな、叩きなおさねえと・・・・」
俊はニヤっとして言った。

「なによぉ〜、寝坊したのは自分も一緒なのに〜!!!」
蘭世は大声で抗議する。

「う、うるさい!ほら行くぞ」
俊は蘭世の手を取って、また走り出した。
無意識か意識的なのか・・・・掴んだ手をさらにぎゅっと握り締める。
汗ばむ手のひらからお互いの空気が交差する。



(あ。。。)
思わず掴まれた手を見ながら蘭世は引っ張られるまま俊についていった。
息が上がりながらも、この小さな自由という幸せを心の奥ではずませながら
しっかりと噛みしめていた。








あとがき

ちっとも甘くもなく、コメディでもなく、なんでもない日記みたいになっちゃってすみませんでした。
「自由」も無理やりつけた感があります。あぁ、こんなんUPしていいのか!!情けないわ。
このお話、ほんとは、先があるんですけど、話が長くなるのと、コロッと内容が変わっちゃうので、
2作品にわけました。
違う題をつけて(また無理やりになると思いますが)またUPしたいと思います。
でもあんまり期待しないでね。(^o^;)

高校生で外泊を許されるのってもう今は当たり前なのかな〜?
私は結婚が決まるまで彼氏と旅行とかは絶対ダメだったんですけど
(嘘ついていってましたが・・・)
江藤家の両親は寛大ですかね〜?
実際のところ、俊も案外真面目だから(ワルのくせに←最近やたらこだわる)毎回ちゃんと帰らせそうですけどね・・・☆