Aroused magic
お・ま・け




 story設定時期:中学時代/俊転生前
         若干脚色あり












その夜――――。



必要以上の疲労を感じて俊は自分のベッドになだれ込むようにして横になった。

夕方味わった初めての感情に今もまだ翻弄されたままで

頭の中がもやもやと混沌としたままだ。

蘭世の姿が脳裏をよぎる・・・



(江藤・・・・)



その時、ビュンっと強い風が吹いて俊はハッと飛び起きた。

そして何か白っぽい影のようなものが俊の目の前に浮かぶ。



な、なんだ・・・??



得体の知れないその正体を見極めるために俊はじっと目をこらす。

開いたままのカーテンの間からは月光が惜しみなく部屋の中に注ぎ込んでそのモノを鮮やかに映し出す。

それは・・・・・・



「誰だ・・・!?」



人らしきものが真っ黒いマントを背に着けたまま俊を背にしてそこに佇んでいた。

そしてそのものはゆっくりと俊に振り返る。

その拍子に漆黒の長い黒髪がマントの中から姿を現し、俊はその存在にビクリとした。

心拍数が大きく跳ね上がる。



「え、江藤っ!?な、なんで・・・」



そこにいたものは、つい先ほどまで俊の脳裏からまったく離れようとしなかった蘭世だった。

(なんで・・・ここに・・・)

そう俊は思ったもののあまりの驚きにそれは言葉になることなく、ぐっと息を飲み込んだ。

心臓が口から飛び出してきそうなくらいにドクンドクンと鳴り響いて呼吸すら乱れる。

そして次の瞬間に俊はそれ以上の衝撃を受け止めなければならなかった。


「なっ・・・!!!」



ゆっくりと振り返った蘭世のそのマントの下は一糸まとわぬ姿であり、

月の光に照らされたその白い肢体はまるで透き通るように艶やかで

この世のものとも思えないほどだった。

普段では見られない無表情。

しかし、その瞳には鋭い力が込められていてその視線は俊にまっすぐに向かっていた。

妖しくて、艶かしいその蘭世の姿に俊は凝視せざるを得ない。

自慢の黒髪がマントと一体化されて蘭世の裸体の所々を覆っていて、

それが返ってコケティッシュだ。



驚きを通り越して俊は唖然とする。

なぜここに蘭世がいるのかもわからないし、

しかもなぜこんな姿でいるのかもわからない。

かといって、それを何故だと問いただすこともできないまま、俊はその蘭世の姿をただ見つめることしかできなかった。

いや、

視線を離せないといったほうがしっくりくる。

月の光に照らされて青白く光るその肌に、そしてその艶やかな黒髪に・・・。








ゆるやかなうごきでマントをはためかせながら蘭世が俊の方に一歩ずつ近づいてくる。

その一歩ごとに俊の心臓はドクンと跳ね上がる。

しかし、それを制することも逃げることもできない。

動けない―――。



蘭世は俊のいるベッドのそばまでたどり着くと、ゆっくりと俊の頬に向かって手を伸ばす。

そして俊を見つめるとニコリと微笑んだ。

(えっ?)

ふっと気持ちが軽くなる。

いつもの表情だ。

それまでは蘭世の姿をしていてもそれはまるで別人のように感じていた。

しかし、今目の前で微笑んだそのやわらかい表情は紛れもなく蘭世のもので、

それが、また俊の思考を惑わせる。



「・・・え、江藤なのか?」

本当に蘭世であるのなら、返って今のこの状況は想像をはるかに超えている。

どちらかというとすぐに照れて真っ赤になってしまうような女だ。

それが・・・こんな時間に、こんな格好で・・・

いったい、どうしたというんだ・・・??



しかし、蘭世がその微笑を見せたことで俊の中でも少しゆとりができた。

硬直していた体がふっとほどける。少し声も出せそうだ。

「な・・・んで・・・ここ・・・に・・・?」

聞きたいことは山ほどあったがそれがせいいっぱいだった。

しかし、蘭世はその質問に答えることなく俊の頬に手を添えたまま俊の隣に座る。

その瞬間、俊の鼓動は再び大きく揺れる。



(誘っているとしか思えない・・・)



どうすればいい・・・?こいつの目的はいったいなんだ・・・

逸る鼓動と心で大きく目覚めた本能を精一杯の思考能力と理性で押さえ込む。

ありえないこの状況にこのまま溺れていきそうなのを俊は必死で止めていたが、いつまでもそれが続くわけもなく、

月明かりに照らされたその蘭世の白い体が俊の理性を刻々と奪っていく。



「え、江藤・・・・」



俊がそう蘭世を呼ぶと蘭世はそっともう片方の手も俊のほほにそえて両手で俊の顔をはさんだ。

黒い大きな瞳が俊の両瞳を視線でからみとるように覗き込む。

そして―――ゆっくりと蘭世の顔が俊に近づいてくる。

夕刻に香ったシャンプーの香りが俊の鼻をかすめた。



・・・・・あっ・・・・・・



同じ匂い。

そして先ほど、蘭世に自分がしようとしていた行動がフラッシュバックのように脳裏をよぎる。






その時ついに俊のたががはずれた。

蘭世の体をそのまま押し倒し、自分の下に組み敷く。





「・・・・・どうなっても・・・もう知らないからな・・・」





そういって俊は蘭世の上に覆いかぶさった。



















◇     ◇     ◇     








・・・・・・はずだった。

ドスンという音とともに体全体に衝撃が走る。

俊は「ん?」と目を開いた。

そこには蘭世の姿はなく、俊は布団を抱きしめたままベッドから転がり落ちていた。



「・・・あれ?」



俊は辺りをキョロキョロと見回す。

カーテンの隙間から月の光だけが一本の筋になって部屋に入り込んでいた。

(夢?)

はぁーーーー。。。。。

俊は大きな息とともにガタンとベッドに体をもたれかけた。

「な、なんだ・・・・び、びっくりした・・・」

どこからどこまでが夢なのかよくわからないまま俊はボーっとしたままだった。

そしてふと机に置いたままの蘭世が忘れていったスカーフと、そして一度蘭世が袖を通したスウェットを見つける。



「っくそ・・・夕方のせいだ・・・」

蘭世のあんな湯上り姿をマジマジと見てしまったから

そして思わずその姿に惹かれて口づけをしそうになってしまったから・・・

どっと冷汗が流れ出す。

(俺・・・まさか・・・あいつのこと・・・・)

いや、違う!ちょっと男の本能がくすぐられただけだ。

俺は至って硬派なはずで、女には興味がなくて・・・



「チッ・・・ああ!もう!」

そういって俊はガバッと立ち上がり布団をひっつかんでまたベッドにもぐりこんだ。

今夜は・・・・眠れそうにない・・・・・









◇     ◇     ◇










「あ、ま、真壁くん・・・お、おはよう!」

翌朝・・・

通学途中の昨日雨宿りをした本屋の角で俊は蘭世と出くわした。

(げっ・・・)

よりによって朝一で会ってしまうなんて。。。

昨日の動揺を引きずったまま、俊は「よ、よぉ」とどもりながら答えた。

夢のことは別としても、蘭世とキスしそうになったのは確かなことであって・・・

蘭世もそれを意識しているのか顔を赤くさせて俯いている。



「あ、あの、昨日・・・どうもありがとう。お世話かけました・・・」

「い、いや・・・」

「借りた服・・・洗って返すから」

「あ?ああ・・・いつでもいいってお袋言ってたから」



蘭世と目が合う。

見つめ合う。

男の本能がくすぐられただけ?

・・・・・・いや・・・たぶん・・・そうじゃない・・・それだけじゃない。。。

コイツだったから・・・



昨日見てしまった夢は、それらがきっと交錯してしまったんだろう。

夢の中でふと見せた蘭世の揺らいだ微笑みがきっと俊の中での全て。

あの妖艶なままの蘭世であったならきっと俊はいくら夢であったとしてもその手を振り払っていた。

それがなんとなくわかる。



「真壁くん?」

恐る恐る蘭世は俊の顔を覗き込む。

黙ってしまった俊に少し不安を感じたのかもしれない。



(夢のことも・・・この気持ちのことも今はまだ封印だ)



「ほれ、これ忘れ物だ」

そういって俊はパンツのポケットから蘭世のスカーフをとりだし蘭世に渡した。

「あ、やっぱり忘れてた?ないな〜って思ってたの」

そういって蘭世はよかったと笑顔になる。

俊はまた自分の鼓動が早くなるのを感じて目をそむける。



(やべぇ・・・どうすりゃいいんだ俺)



「ったく・・・世話がやける女だ」

「な、なによぉ」

「行くぞ!遅刻する」

「あ〜!!」

俊は急に自覚してしまった感情の制御の仕方を暗中模索するしかなく、やりばのない焦燥感をもてあましたまま

とりあえず、慌ててついてくる蘭世のカバンを取り上げて蘭世の腕をとった。

走る。。。

気持ちを悟らせる時間を与えないように、

でもなんとなく掴んだ腕は離せないまま、

二人の間を吹き抜ける風を浴びながら俊は黙って走った。
















おまけのあとがき

実際はこれをおまけにすべきか第4話にすべきか・・・と思ったのですが、
おまけとして書き出したので結局そのままおまけにしました。
せっかくだからどうにかして裸マントをだせないかなと模索していたわけなんですが
ここまで長くなると思ってなかったので「おまけ」にしようとしたんす。

相変わらず未遂好き・・・(笑)
だってやっぱりうちはこうでないとね・・・あかんか?
ニヤニヤしながら読んでくださるとガッツポーズっす^^





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