Aroused magic





 story設定時期:中学時代/俊転生前
         
若干脚色あり








「あ・・・・っ」

「降りだしやがったか・・・走るぞ!」

つい数十分前まではそんな気配なんて全くなかったのに

傘を準備する間も与えることなく、突然の激しい雨が俊と蘭世を襲った。

連日に及ぶ小テストにことごとく打ちのめされた2人を待っていたものは、精神的消耗の激しい補習だった。

指名を受けたのは俊と蘭世の2人だけ。

最初はにやけ顔だった蘭世も、適当にすりゃいいと侮っていた俊も

教師一人に生徒二人という補習スタイルの前では、気の抜く隙もなかったし、

そんな中で苦手なお勉強に真剣に取り組まざるを得ない状況にほとほと疲れ果て、

夕刻、日も沈みそうな時間になってようやく解放された二人は

ダラダラと帰途についていたそんな矢先のことだった。



「補習の上にこんな雨なんて、全くついてねえぜ!」

「ホントーーー!!せっかく真壁くんとの補習だったのにぃ」

「・・・バカっ・・・まだんなこと言ってやがる」



スコールのような雨はまたたく間に地面をも水浸にし、走る二人の足元も否応なしにビシャビシャとはねさせる。

少し戻ればコンビニもあったのだが、雨足がここまでひどくなるとも思わずに

反対方向に走り出してしまった二人は、傘の調達もできないままひとまず、本屋の軒下に身を預けた。

二人してカバンを頭上に掲げて走ったものの、それで防げるほどの雨量ではなく

髪を結んでいなかった蘭世の長い髪も今は十分に水分を含みきって

雫が滴り落ちていた。



「あ〜あ・・・びっしょびしょ・・・」

俊は払いながらそうつぶやく蘭世の姿を確かめた。



(・・・こいつ・・・ヤバくないか・・・?)



全身びしょぬれで、勿論髪もそうだが、薄地の制服のワンピースもすっかり濡れて

下着もすけてしまっている。

自分だってシャツはベッタリと肌に張り付いているのだから同じように濡れた蘭世もそれは当然の姿なのだが、

俊は目のやり場に困りながらもどうすべきか考えをめぐらせた。



「やみそうにねえなぁ・・・」



黒く低く立ち込めた鉛色の空を俊は睨む。

すると隣でクシュンと小さく蘭世がくしゃみをした。

「寒いか?」

といっても羽織らせるものもないのだが。

「あ・・・ううん。大丈夫」

そういってニコリと微笑む蘭世の額から頬にかけて雫がまた一粒零れ落ちた。





なぜか・・・・・・・

ドキリとした。





その流れ落ちた水滴がすごくキレイに見えて、目を奪われる。

自分の肌にも流れ落ちている雫が一瞬、冷汗に変わった気がした。



(何考えてんだ・・・俺は・・・)



俊は自分の持っていたハンカチで少し乱暴に蘭世のその雫を拭いてやる。

「・・・あっ///・・・ありがとう・・・」

蘭世は少し恥らいながらそう言った。


ありがとう・・・だなんて

それは蘭世のためにした行為というより、むしろ自分の為の行動だった。

蘭世のそんな姿を見せられる自分に、自信が持てなかっただけ。

俊の中の血がドクンドクンと騒ぎ出すのを防ぎたかっただけ。



このヤロウ・・・

そんな無邪気に俺を見るなよ・・・。



俊はいたたまれなくなって目をそむける。

この場から、この雨の中に逃げ出したいくらい・・・。

だが、こんな状態の蘭世をこのまま置いていくわけにもいかなくて、俊ははぁと息をついた。





この本屋の角で、二人は違う方向に向かって帰る。

俊の住むマンションはここからなら3分もかからないくらいだ。

しかし、蘭世の家には全速力で走っても5分以上はかかるだろうし、

この雨の中、そこまで体力が持つかどうかも怪しい。

ましてや、この姿を街中にさらさせることにも俊の中では抵抗があった。

蘭世のこんな姿を他の誰の目にも触れさせたくない・・・




なんなんだ・・・この感じ・・・。

女に興味・・・なかったはずなのに・・・

この女だけは・・・




「チッ」

自分の中でもてあます感情に俊は少しイラついて舌打ちした。

「お前・・・とにかく・・・俺んちまで走れるか?あと3分くらい」

「えっ?」

蘭世はきょとんとした顔で俊を眺める。

「お前んち・・・まだこの先距離あるだろ。傘も貸してやれるし、どちみちその格好ヤバイだろ・・・」

「あ・・・」

蘭世はようやく自分の姿がどういう状態かということに気づいたかのように全身を見渡す。

そして顔を赤らめるとカバンを胸の前で抱え込んだ。



「はぁ・・・これだからほっとけねえんだよ」

俊は一人ごちる。

「えっ?」

蘭世はパッと顔を上げて俊を見たが、俊はそれに気づかないフリをしたまま言った。

「もうお袋も帰ってると思うし、お袋の服でもよければ貸してやれるよ。ほら行くぞ」

「う、うん」

そういって走り出した俊に蘭世も慌ててついていった。








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