想いが重なるとき
「では、戻りたい!と強く念じたら戻ってこれたというのか・・・?」

魔界城では、先日異次元への移動で騒ぎになっていた死神を呼び出し、尋問を続けていた。
的外れな調査をするより、実際に体験した話を聞くほうが早い。
蘭世もシュンも同席し、話を聞いていた。

「そんな単純なことで?」
アロンはいぶかしげな顔をして聞いた。
「それなら、この蘭世殿がそうすれば、元の世界に戻って、向こうに行ってしまったランゼ殿もこちらに戻ってこれるんじゃないのか?」
そうメヴィウスに言った。


「だが、この者だけが移動したわけではない。同時にその世界から同一人物と思われる者がこちらにきておるのじゃ。この者だけの意識だけでは・・・恐らく両者の気持ちがしかも同時に一致しないことには難しいのではないか・・・?偶然なのか必然なのか・・・運命とはそういうものじゃ。。。」
メヴィウスが補足した。




「運命・・・?」
蘭世が尋ねた。
「さよう、こういった経験をするのは、通常ではありえないことじゃ。ただし、強い運命の元に生まれたものは、それぞれの潜在的な力が強すぎて異次元空間に何らかの影響を与えてしまう。
例えば、今回のように全く別の位置に存在するふたつの空間をお互いに引き寄せあい、一点に重なりあったとき、厖大な力がそこにはたらく。互いの運命の力が強ければ強いほど・・・
そのとき、何らかの拍子にお互いの存在していた場所が入れ替わってしまうのかもしれぬ」
メヴィウスが答えた。

「ふ〜ん。でもこいつがそんな強い運命を背負ってるようには見えないけどな・・・だって王家ってわけでもないんだろ?お前・・・」
アロンは蘭世をじろじろ見ながら言った。
「う、うるさいわね。私は・・・そ、そりゃ普通の魔界人だけど・・・・ランゼさんがそうなのかも・・・」
蘭世はそういってチラッとシュンを見た。
シュンは何かを考えている様子で、目線を少し前方の床に固定したまま何も話さなかった。

「いや、どっちがどうというわけではない。運命の強さなど、目に見えるものでも、血筋がどうと言うものでもない。先ほども言ったように潜在的に秘められたものなのじゃ。
そのパワーを引き出すものがその場にあるかないかの問題であろう」
メヴィウスが言った。




(運命か・・・)
話が一応終わったので蘭世は与えられていた部屋に戻っていた。


蘭世は昔、そのことを痛感したことがあった。
ゾーンとの戦いのとき・・・
自分に使命が与えられたこと、
指輪に力を吹き込めたこと、
2000年前の生まれ変わりであること、
そしてもう一度俊とめぐり合うために生まれてきたこと・・・
すべて運命というものに動かされてきたとしか思えなかった。
自分自身にゾーンを倒す力なんてホントはありえない。
ただの吸血鬼なのだ。
他にすごい力をつかえるわけではないのだ。
先ほどのメヴィウスの話にそって考えると確かにそうなのかもしれない。


強いパワーを引き出すものがその場にあるかないか・・・・


俊がいたのだ。
自分のパワーの源はすべて俊の存在。
俊のために動いた。
俊のために力を注いだ。
俊がいたから・・・・・
魔界を救いたいとかゾーンを倒したいとか・・・・そんな大それた望みではなかった。
俊を助けたかった。俊と一緒に生きたかったのだ・・・・・。
ただそれだけ。それだけで本当に力が出せるのかどうか蘭世自身にはわからなかったが、
それしか思いつかない。

(真壁くん・・・・おっきな運命を背負っているのは真壁くんよ。
私はただその力になりたかっただけ・・・・・
真壁くんに会いたい・・・)
蘭世は窓の外を見た。
大きな月がその神秘的な光で魔界中を照らしている。
その月光の中を一人の男がぼんやり歩いていた。
「あ、真壁くん・・・じゃなくて王子・・・」
立ち止まって月を眺めているそのシュンの姿はまるで今にも消えそうなくらいはかないものに見えた。
蘭世は俊がゾーンとの戦いの中で時折見せていた表情を今のシュンの姿に重ね合わせていた。
(真壁くん・・・・やっぱりほっとけない・・・!!!)
そう思ったのと同時に蘭世は部屋の外に駆け出して行った。






月明かりの下をまた歩き出したシュンを蘭世は追いかけた。

「真壁くん!」
蘭世は思わずそう呼んでしまったが、シュンは立ち止まって振り返った。


「・・・・・・どこへ行くの?」
蘭世はシュンに尋ねた。
まだそんなに夜もふける時間ではなかったがあたりはとても静かだった。
「・・・別に。散歩・・・」
「さんぽ〜?今から?」
2人の声が静かに響く。



「・・・・・」
「ねえ、一緒に行っていい?」
「・・・好きにしろ・・・」
そういってシュンはくるりと振り返ってまた歩き出した。
蘭世もそれに続いていく。



さわさわと吹くそよ風と2人の足音だけがあたりに響く。
魔界の景色は昼間とは違い、幻想的な雰囲気をかもし出している。
月の光がその姿を一層引き立たせていた。


「・・・きれい・・・」
蘭世は思わずそのまま口にした。
「・・・そうか?いつもと変わらないが・・・」
「あっ私、夜の魔界ってあんまり知らないの。普段は人間界に住んでるし、
魔界に来てもお昼間が多いから、あんまりこういう景色って見たことがなくって・・・
こんなにステキだったのね♪」
蘭世は声をときめかせながら答えた。

シュンは相槌もなく黙って聞いていたが、ふと言った。
「もっときれいなところがある・・・」
そういってシュンは蘭世の腕をつかんで再び歩き出した。
(えっ!?)
蘭世は思いがけずに腕をつかまれたことに驚いたが、振り払えずにそのままついていった。







                             
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