想いが重なるとき
「はぁぁぁぁ・・・・・・」
城内の客間に通された蘭世は豪華なソファーに倒れこむように腰を落として
大きなため息をついた。


騒ぎが大きくなるからといって、城を出ることも許されず、半軟禁状態に蘭世は先行き不安になる。
「これからどうなっちゃうんだろ・・・」
こうなってしまった原因もわからないままでは動くにも動けずに気持ちだけが焦る。
(真壁くん、どうしてるかなぁ・・・、心配してるかな〜。
あっでもそのもう一人のランゼさんって人があっちに行っちゃってるのなら気づかずにそのまま
デートなんかしちゃってたりしてーーーー!!!あああ、どうしよう・・・)
落ち着かないまま蘭世はまた立ち上がって部屋中をうろうろした。




トントン・・・
そんな中、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「・・・はい」
「・・・私だ・・・少しいいか?」
(あ、真壁くん・・・じゃないんだっけ・・・)
「・・・どうぞ」
ガチャっと重厚なドアを開けてシュンが入ってきた。


「どうだ?少しは落ち着いたか」
シュンと俊は全く同じ顔同じ声・・・だが、王子の衣装のせいだろうか・・・やはり違和感を感じる。


「あの・・・ホントに結婚式するの?」
蘭世は言った。
シュンはソファーにかけることもなく窓際に立って外を眺めていた。
「・・・・・・」
「それに、あの・・・私には、す、好きな人がいて・・・あなたと結婚するというわけには・・・・」
(なんでこんなことを真壁くんとおんなじ顔の人に言わなきゃいけないの〜ふぇ〜ん)


「・・・・真壁というのか?そなたの世界の私は・・・」
黙ったままだったシュンがふと口を開いた。
「え?う、うん・・・」
チラッと上目遣いに蘭世はシュンを見た。
するとシュンもじっと蘭世を見ていた。
(どきっーーーーー!!!なんでそんな風にじっと見るのーーー?真壁くんに見られてるみたいで・・・・)
蘭世は真っ赤になりながら俯いた。



「お前の好きな男というのはその真壁であろう?私と同じ顔の・・・・もう一人の私・・・
ならばよいではないか。こちらで私の妻になってもそう変わりはあるまい・・・」
シュンは再び窓の外に視線を移して言った。

(は、はあ???)
「ちょっと待ってよ!どうしてそうなるの?あなたは真壁くんととっても似てるけど、やっぱり全然違う人よ。きっと私を助けに来てくれるわ!」
蘭世は大声で言った。
「だが、向こうにはランゼが行っているはずだ。そばにお前と同じ顔の女がいるなら、その男は果たしてお前を迎えに来るかな・・・」
「う・・・やめて、真壁くんはそんな人じゃないもん、そんな風に侮辱しないで。あなたとは違うわ・・・」



「・・・ふっ。私とは違うか・・・。そうかもな。お前もランゼとは全然違う・・・」
苦笑しながらシュンは言った。
「ラ、ランゼさん・・・?」
「ああ、おとなしい娘だ。小さいころからの幼馴染で、いつも私についてきていた。私に口答えすることもなく、黙って私に従う・・・。お前のように声を張り上げて抗議することなど・・・全く違うな」
「じ、じゃあ、その人を呼び戻す努力をしなさいよ。結婚するほどならその人のこと好きなんじゃないの?勝手にこの話進めちゃったりしたら、ランゼさんも悲しむよ。絶対に・・・」
蘭世はシュンに言った。



「・・・・・・あいつは家柄もよく、小さいころから王家に嫁ぐための教育を受けてきた。幼いころから俺の機嫌ばかり伺って、俺の言うことを何でも聞いた。婚約の話だってお互いの意思を確認したわけでもない。昔から暗黙の了解として決められていたんだ。」
「・・・・・・」
「異次元の世界に迷い込んでしまうのは、その者の想いが少なからず影響するという。。。もしかしたらランゼは・・・偶然というよりも・・・・自分の意思で入れ替わったのかもしれないな・・・ふっ・・・」
「・・・自分の意思で・・・?」


「・・・・俺から逃げていく唯一の手段として・・・・」


「・・・・・・」
ふっとシュンは笑って言った。
「俺はお前を気に入ったぞ。ポンポン歯向かってくるその物言いといい、面白い奴だ。話はこのまま進める。」
そういってシュンはその部屋を出て行った。
「ちょ、ちょっと待ってよ!勝手に決めないでったら、ちょ、ちょっとーーー」
(い、行っちゃった・・・・・・)



蘭世はその部屋に取り残されたまま立ち尽くした。
シュンの言葉を思い返してみる。
最後に笑ったシュンの笑顔の奥に一瞬見せた寂しげな表情を蘭世は見逃してはいなかった・・・。

「自分の意思で・・・・?ううん、そんなことない・・・そんなわけないわ。もう一人の私だって・・・きっと想いは同じはずよ・・・次元が違っても・・・。」
蘭世は窓の外を見ながらシュンの先ほどの表情をもう一度思い出していた。。。。




                **************



俊はバレッタが落ちていたという路地まで来ていた。
(ここで、江藤は消えたってのか・・・?)
くるりと辺りを見回すが特に変わった様子はない。
人も普通に歩いているし、なんら普段と変わらない風景がそこにある。


「・・・・ふう」
俊は一つため息を小さくもらした。
ぱっと後ろを見るとランゼが静かについてきていた。
(あ、そうだ連れてきてたんだっけ?忘れてた・・・)


「・・・・何か感じることはないか・・・?」
俊はランゼに尋ねる。
「・・・・・・いえ・・・」
ランゼはおずおずと答えて俯いた。
(う〜ん、どうもやりにくいなあ。張り合いがないっつうか・・・
これだけ似ててもやっぱ違うのか・・・)



「どうしたもんだろうなあ・・・何かこういうことになった原因とか思い当たるふしとかはないか」
「・・・・・・」
ランゼは俯いたまま何も答えない。



(何なんだ・・・・ぎくっ!!!もしかして泣いてるのか・・・・?)
そっと俊はランゼの俯いたままの顔を覗き込んだ。


「ほ、ほら泣いててもしょうがねえだろ。何か手ががりを探さないと、結婚式も控えてんだろ?」
俊は慣れない慰めの言葉を必死で考えていう。



「・・・あなたは、蘭世さんのこととても大切になさっておいでなのですね・・・」
「は?////いや、別に・・・そういうわけじゃ・・・」
突然口を開いた蘭世の言葉に俊は照れる。


「気持ちが伝わってまいりますわ・・・。蘭世さんはあなたのような方に心配されてお幸せですわね・・・」
「・・・・・あんただって向こうの王子がいるんだろ?向こうだってあんたのこと探してるだろ」
「・・・王子は・・・きっと私でなくても・・・他の方でもよろしいのですわ・・・」
「えっ?」
さめざめと泣きながら答えるランゼに俊はうろたえる・・・。


「私たちは、婚約者といっても周りがどんどん決めていってしまったもので・・・私は王家に嫁ぐために育てられました。
王妃になるために・・・。王子のためにずっと尽くしてまいりました。。。でも王子は・・・・私のことなど・・・・」
「・・・・・・」
「子供のころは王子はとても優しかった。でも大人になるにつれて、王子は冷たくなられました。このまま結婚しても・・・
こちらに来てしまったのはきっと私の不安が大きくなりすぎてしまって、時空に何らかの影響を与えてしまったのかもしれません・・・」
ランゼは泣いた顔を両手で覆いながら、俊の胸になだれかかった。


「時空移動に意思が影響するっていうのか・・・?」
「まさか、こんなことになるなんて・・・・・・。異次元に移動する話は私達の世界には何度か聞いたことがありました。
私は・・・このまま王子の妻になることが怖かった・・・。王子に会って、また冷たくあしらわれるのも・・・
精霊の森で一人で泣いていました。不安な気持ちが抱えきれなくなって・・・胸が苦しくなって・・・・そしたら・・・移動してしまっていた。
別の世界に行けたらいいなんて・・・・」



俊は考え込んだ・・・。
(江藤も・・・もしかしたらなにかそんな不安を抱えてたのだろうか・・・)
ランゼの話を聞いて俊は焦りを感じていた。
蘭世がそう思っていたとしたら、この移動の原因は自分にもあることになる。
いつも楽しそうにしている蘭世にそういった疑問を今まで抱いたことがなかった。
考えすらもしていなかった。
あいつの笑顔が無理した笑顔だったとしたら・・・?
気持ちをうまく伝えられない自分の性格がもどかしい・・・
蘭世の笑顔に頼り切っていた。
まさかこんなことになるなんて・・・・・・
いなくなって初めて気づく。
もし、もう帰ってこなかったら・・・そう想うと胸がズキズキ痛む。


とっさのことで俊はランゼにもたれかかられたままで立ち尽くしていたが、
いつまでも泣き止まないランゼの肩をそった抱いた。
別人だとは思いながらも、どうしてもランゼを蘭世と重ね合わせてしまう。
ランゼが泣いていると蘭世が泣いているようで俊は胸が痛んだ。
泣かせているのが自分のような気がしてならない。


(江藤・・・どうすれば・・・今からではもう遅いのか・・・・?)
俊はぐっと唇を噛んだ。
(俺は気持ちを通じ合わせていたつもりでいたが、江藤にとってはそれがどうだったか・・・自信がない・・・だが、俺は・・・
俺の気持ちは・・・・!!!まだ伝えていないことが山ほどある・・・どうしたら戻ってくる???)
自分の不安、いらだち、もどかしさ・・・そういったものに心が支配されて、いたたまれなくなり、
俊はぎゅっとランゼの肩をもう一度強く抱いた。

同じ香り・・・・・・
別人・・・だが同じ・・・きっと2人はつながっている。
たぶん、俺自身も・・・俺ともう一人の俺も。。。。
(とにかくこいつを元の世界に戻せれば、江藤も戻ってこれるはずだ。・・・どうする・・・?)



「・・・あんたはそのこと王子に言ったのか?」
俊はふとランゼに聞いた。
「え?」
「その不満をそいつに話したのか?」
「そんなこと、私が言えるはずないではありませんか・・・相手は王子なのですよ・・・」
俊は答える。
「そんなの問題じゃねえ。俺だって一応王子だぜ。
ふっと俊は笑った。
「江藤は・・・あ、こっちの蘭世な・・・もしかしたらあんたと同じように思っていたかも知れねえ。
だけど、あいつはきっと戻ってくると思う。そういう奴なんだ。
こう思えるのってすごいと思わねえ?
俺が、俺自身があいつの気持ちをわかっているってことだ。
だがそれは俺だけの特権だ。あいつはどうだかわからない。
それをもう一度はっきり伝えなきゃならない。
戻ってこさせなきゃ。。。。」
「・・・・・」

「あんた達もそうだろ?あんたの気持ちを言うなり、そいつの意見を聞くなり、お互いの意思を確認しあうことが先決だ・・・」
俊はランゼを見ながら言った。そしてそれは俊が自分自身に言い聞かせるための言葉でもあった。
黙っているだけじゃ伝わらないこともあるのかもしれない。
あいつの思いに自信過剰になっていただけで・・・
自分で発した戒めの言葉に俊は自嘲した。


「・・・・・・でも・・・」
「俺の直感だが・・・・たぶんその王子、あんたのこと嫌ってるわけじゃないと思うぜ」
俊は空を眺めて言った。
「あんた、そいつの言いなりだったんだろ?たぶん、そいつも不安だったんじゃないか?あんたの気持ちが掴めなくて、
どう接していいのかわからなかったんじゃねえか?」
「・・・・・・」
「気持ちわかる気がするんだ。。。ほら、一応同じ人物だから・・・」
俊はいつもより饒舌な自分にふっと笑った。同じ人物だからか別人だからか・・・
ランゼに素直な気持ちを話すことができている自分に少し驚いた。
(これほど、自分の気持ちあいつに伝えられたら何も問題ねえのにな・・・・)


「そいつのこと好きなんだろ?」
「・・・・・はい!」
今度の返事は今までよりも強い口調だった。
「深く深くもう一度思えば・・・元に戻れるかもしれない・・・」
(もちろん俺自身も・・・・こいつじゃなくあいつにちゃんとこの気持ちをとどけなければ・・・・)
2人はにっこりと微笑み合った





                               
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